騎士たちの登山ツアーガイド
アントルイスの開発が進んで建物が増え始めた。プラテラの再建も進んできた。ということで、僕は女性陣達と村の視察に出ることにした。
アミナス「ここには何ができるの?」
ウィル「宿屋でがす。」
案内は領民代表のウィルに任せていた。彼の独特な言い回しが気になるのか、ネブリナは鼻を掻いている。
ネブリナ「その方言さぁ、カウテースのだろ?」
ウィル「いえいえ、コーラス地方出身の爺様のでがす。」
ダリア「あ、ウィルさんのお祖父様はコーラス平原の?」
ウィル「へぇ。まだラウト王国の領地だった頃、アントルイスの鉱山の仕事に出稼ぎに来てた爺様はここで親父をこさえてそのまま定住したんでがす。」
ふーん。人に歴史ありか。ウィルのあの角ばった顔にもその人のルーツがあるのだろう。
そんな中、アルメアは遠くの山を眺めていた。
アミナス「世界樹跡地はあの山の向こうだよ。アルメア。」
アルメア「私、今度、登ってみたいです。」
このお嬢さんは活発だなぁ、ホントに首都の生まれなのか?
オルガ「ソレなら、私のとこの騎士をつけよう。」
アミナス「いいの?そんな事して?」
オルガ「フル装備で登山、体力づくりにはもってこいだろ?」
うわぁ、ご愁訴様。
ネブリナ「あっちの建屋は?」
ウィル「売春宿でがす。」
ネブリナ「アンタ、利用すんじゃないよ!」
アミナス「し、しないよ!」
皆が笑う中、売春宿の建設にGOサインを出した身としては、複雑な心境だった。
村の人口が増えるにあたって、犯罪率も増えた。その中でも性犯罪増加は目が余るものとなっていた。
アミナス『この前の領民会議の議題に上がるほどだし。コレじゃ、ゴブリンがいたときのほうがまだ性犯罪率は低かったんじゃないか?』
犯罪率を減らす苦肉の策としての売春宿建設だった。人の性欲とは恐ろしい。
次の日
僕らは騎士団詰所のロイ元大佐を訪れた。
オルガ「それじゃ、私は騎士達に登山ツアーの説明に行くから!」
アミナス「はーい。あんまり、いじめちゃダメだよ?」
オルガ「わかってるって!」
不安だ……
オルガ姉は黒髪をなびかせてその場をあとにした。通路ですれ違ったロイ元大佐はその変わりように目を丸くしていた。
昔は、男社会で負けないように金髪をリーゼントでセットしていたのが、今ではセミロングの黒髪なのだから。
ロイ「お待ちしてました。アミナス様、どうぞこちらに。」
僕らは騎士団詰所の応接室でロイ元大佐と対面した。
アルメアも、「もっと、昔のカウテースとの交戦記録が見たい。」と言ってついてきていた。
ダリア「ネーベルホルンさん。武器の口コミはその後どうなりました?好評でしょうか?」
ロイ「はい。強度、切れ味共に既存のものより優れていて、高官たちの印象は良好です。ただ……」
アミナス「?」
ロイ「既存の武器の卸売メーカーに睨まれてまして、そこの息のかかった大臣グループの反対圧力があり、入札は厳しいものになるかと思います。」
アルメア「まぁ、そうなるでしょうね。長年シェアを独占してますし、利権が発生しているでしょう。」
アミナス「うーん。そうなのかぁ。」
子供の頃、海釣りに連れて行かれた時の、船の進路上に岩礁を見つけた時の気分だ。あ、僕はまだ子供だった。
ダリア「ソレなら、その卸メーカーを通せばいいのでは?」
アルメア「マージンを取られますよ?競争力と売り上げが……」
ダリア「シェアを取れなければ、売り上げどころではないですから、必要経費です。」
ロイ「なるほど。今度、そのメーカーに掛け合ってみましょう。」
アミナス「何から何まですみません。大佐。おっと、元大佐でした。」
ロイ「ははは、何、退役してこれからの人生にやりがいができてこちらも嬉しいのです。
ですが、今後、アミナス様やアルメア様の力が必要になる時もあるやもしれません。その時は……」
アミナス「えぇ、いつでも呼んでください!」
アルメア「ルドハネのチカラ、存分にお使いください。」
アルメア「それではアミナス様、行ってきます!」
アミナス「いってらっしゃい!足元に気をつけてね!」
アルメア「はい!」
動きやすいように男装をしたアルメアに行ってきますのキスを頬を受ける。
い、イエス、□リータ!ノータッチ!我慢だ僕!
ダリア&ネブリナ(ジトー)
オルガ「私もついてくから、大丈夫さ。若いやつらには指一本触れさせやしないよ!」
アミナス「大丈夫でしょ?」
まだ、ケーメリアやメディトの若い騎士達のつまみ食いは止まっていない。代金とやらはそんなにかかってるものなのだろうか?
ネブリナ「はぁ?定期診察代さね。10割負担だぞ?」
なるほど……
自室に戻った僕はロイ元大佐に借りた戦術論を勉強していた。
アミナス『釣り野伏せねぇ。ハマるとこあるかな?』
モアナの領地はオスカー、プラテラを除いてほとんどが山地だ。
抜け道を作ればアントルイスに進軍してくるカウテースの軍の側面を突いたり、後背を脅かすこともできる。
アミナス『僕と違って、アルメアはコーラス平原のことを考えているんだろうな。』
僕はモアナが戦場になることばかりを想定して考えてたが、
アミナス「カウテースかぁ……」
ドォォン……
遠くの山から音がする。世界樹跡地の方角からか?
アミナス「なんだ?太鼓じゃないよな?」
アルメアやオルガ姉のことが心配になり身なりも整えずに屋敷を飛び出し騎士団詰所に向かう。
物見やぐらから、一報が入ってくるはず。ちょうど、早馬に乗った騎士と騎士団詰所の前で出くわす。
アミナス「何かあったの?!」
「カウテースの軍です!」
騎士団詰所の中からも数名の騎士たちが出てくる。
「ちくしょう!こんなときに!」
「少佐は!?」
「まだ戻ってません!」
「エレメンタルがいなくなったから、アイツラ、カウテース側から世界樹跡地に進軍してきやがったのか!」
ドシン!
そこへオルガ姉がアルメアを抱きかかえて空から降ってきた。僕も含めて騎士たちはとても驚いた。若い騎士など腰を抜かして尻もちをついている。
アミナス「アルメア!」
震える少女を抱きしめる。
アルメア「屍鬼神さん、壊れちゃいました。」
アミナス「君が無事でよかった。」
ギュッ
オルガ「私は屋敷に戻って方天画戟を取ってくる。」
僕にそう言うとオルガ姉は騎士に指示を出した。
オルガ「敵は新兵器を投入してきている。弓兵装備で10分後に集合、蹴散らすぞ!」
「了解しました!少佐殿!」
「B2装備だ!急げ!」
アレッシー「リボルディングキャノンってのはすげーな!」
「再装填しとけ!弾倉には5発入る!」
世界樹跡地を占拠しに来た先遣隊のアレッシーは本国から付与された新兵器の威力に満足していた。
黒光りする大きな重砲、の回転式弾倉が開放され、鉄の薬莢が取り出される。2人がかりで弾薬を装填する。
「魔弾、すごいですね。」
アレッシー「そうだな?」
「もう少し、小型化してくれると助かるのですが。」
「それな?」
アレッシー『まぁ、デカすぎる、重すぎるってのが難点だな。撤退の時には置いてくしかなさそうだ。』
本国からキャノンと一緒に付いてきた研究チームに指示を出す。
アレッシー『ディーネがここにいたら、何か言ってきてたに違いない。』
今後、魔女のデータをもとに人間でも魔導兵器を研究開発をしていくために。
アレッシー「しっかり、実戦データ取れよ!」
「あの剣も弓も効かないムカデが出てきたときは冷や汗をかきましたよ。」
「なんなんでしょう?ラウトの新兵器でしょうか?」
アレッシー「わからん。けどまあ、オルガを退けられたのは大きい。」
「方天画戟のないメスゴリラなど取るに足りません!」
ワッハッハッハ……!
ドシン!
アレッシー「は?」
オルガ「さっきは護衛対象がいたんでなぁ。」
チャッ
黒髪で髪もおろしているが、コイツはさっき騎士たちが確かにオルガ少佐と呼んでいたやつだ。その手には方天画戟が光っている。
アレッシー「標準、あのクソ女だ!」
咄嗟にリボルディングキャノン部隊に指示を出す。
すどおぉん!
オルガはそれを弾き飛ばした。
ドォォン!
軌道がそれた弾丸が湖に着弾し、大きな水柱ができた。
「なんだ?!」
「ば、バケモンだ!」
アレッシー「あわわわわ……」
「何で効かない!」
「次弾急げ!」
ズドォォン!
カン!
オルガは方天画戟の切っ先で弾道をそらした。
オルガ「もういいか?」
アレッシー「に、にげろぉぉ!」
オルガ「逃がすか!首を置いてけ!」
弓兵装備の騎士たちを連れた僕らが世界樹跡地につく頃にはカウテース兵は撤退した後で、そこには逃げ遅れたカウテース兵の残骸が大量に転がっていた……




