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構文  作者: やあざ
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第1章


 赦しの森と扉の音


 峡谷の朝霧は薄乳色だった。五年前に刻まれた大断層――いまは「ジュリアノス・クレバス」と呼ばれる亀裂の縁から、風力樹のプロペラが静かに回り、湿った風を発電舎へ導いていた。


 谷底では蛍光を帯びる湖水がわずかな波をつくり、未知結晶が撒いた種子型プランクトンが光を食んで揺らめく。水面に重なる薄緑の光は、夜ごとに別の星図を描き、人々はそれを「赦しの星座」と呼んだ。


 開拓キャンプの中央にある平屋建ての小図書館。その庇に吊るされた看板はアイレイムの筆跡だった。


 ――まだ語られていないものへ


 ――声は剣にもなるし、森にもなる


 館内の最上段には焦げた銀指輪がアクリル越しに眠る。札には簡潔な説明だけが添えられていた。


 赦しの槍・残余部品


 “語り”が“守る”へ変わった瞬間の証拠


 開館時間を告げる鐘が鳴ると、子どもたちの笑い声が渓谷を横切った。かつて王を守った兵舎の残骸は、いまは木製ブランコへ姿を変え、その揺れが風見鶏を鳴らす。ジュリアノスの名を正確に記憶する者は減ったが、彼が守った命が「おはよう」を交わす限り、ここでは朝が何度でも生まれ直した。


 ハルメアスは閲覧卓でペンを置き、深く息を吐いた。羊皮紙に記したのは、今日集まった新しい言葉の数だった。


「赦しは終わらない。物語を植え続けるための土は、まだ乾いていない」


 彼の背後で、アイレイムの新曲が始まった。言葉にならない旋律は低い呼吸のように空間を撫で、来館者の足音まで柔らかくした。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


 時間は巻き戻る。


 離宮の北門が軋む音で、十二年閉じていた空気が破れた。外気は針のように冷たく、しかし痛みより早く香りを届けた。鍛鉄の柵が外され、石段の向こうで昼の王都が騒ぎを編んでいた。


 アイレイムは胸の前で掌を重ね、真白の儀礼衣に縫われた金糸を探った。今朝、兄――ハルメアス――がひと言だけ告げた。


「今日はもう、道具じゃない」


 その意味を理解する前に、護衛官が小さく頷き、扉を押し広げた。


 石段を降りた瞬間、街の音が一斉に襲ってくる。車輪が石を叩く硬音、露店で刻まれる香草の湿った拍子、遠鐘が正午を告げる金属の輪郭。どの音も輪郭を持ちながら互いを拒まず、風へ混ざっていた。


 アイレイムはひと呼吸ごとに世界を飲み込み、目の奥で揺らす。まだ「きれい」という形にもならない感情が胸腔を押し広げる。


 路地裏から笛の旋律が漏れた。胎内で聴いた水音に似た揺れがあり、足は自然にそちらへ向いた。石壁に体温を奪われながら角を曲がると、フードを斜めにかぶった青年が笛を口離れさせて笑った。


「やぁ、神子様。いや、もうそう呼ばれたくはないかな?」


 ノアだった。構文外で歌うことを禁じられた吟遊詩人。腰の楽器袋は擦り切れ、革のひもがほどけかけていた。


「街の音はどうだい? 驚いただろう?」


「……きれい、でした」


 素直に漏れた感想に、ノアは笛をくるりと回し、短いフレーズを吹く。祈りのようで、しかし言葉を拒む音列。アイレイムの指が震え、胸の奥で初めて「名を求めて鳴る音」を聴いた。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


 夜。焦土の回廊と呼ばれる旧城壁で、ハルメアスとアイレイムは向かい合った。


「街は、どうだった?」


「人がいました。声がありました。でも、みんな痛そうでした」


「痛そう?」


「笑っても手が震えて、言葉を出しても空っぽで……」


 ハルメアスは息を呑み、かつて自分が沈黙に溺れた夜を思い出す。


「君はもう神子じゃない。自分の言葉を持っていい」


「でも、“ことば”が、まだよくわからないんです」


 兄の胸に刺さったのは、ジュリアノスが奪った幼年期の残骸だった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


 翌朝、政庁棟。オリハ・アル=ナーシルは体温計の数字を見つめた。医官は慎重に言葉を選び、「ご懐妊です」と告げた。


 書類の山を閉じ、窓外の塔を見下ろす。アイレイムとノア――あの二人の揺らぎは胎児にとって外傷になるかもしれない。


「象徴は因子。秩序に解釈は要らない」


 小声で呟いた己の響きが、腹部の奥で小さく跳ね返った。彼女はまだ、揺らぎを恐れていた。


 同じ頃、ガラス張りの温室でノアがアイレイムに楽器を手渡していた。


「これは構文に登録されていない音。君が譜に触れる日が来るとはね」


 譜面紙に鉛筆の点が並び、四音節の断片が芽生える。


「あめ、ふる。つちが、うたう」


 まだ歌ではない。けれど紙の上で確かに震えていた。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


 日が沈み、離宮の窓に灯がともる。遠い街からノアの歌が風に乗った。


 君の声は奪えない 沈黙の奥で芽吹く光


 アイレイムは口を開き、息だけで旋律をなぞる。誰にも聞こえない、けれど確かな音。彼は知らなかった。それがやがて白碑の数字を狂わせるほどの波になることを。


 第2章


 揺らぎの夜と蜜月の火影 (約3,850字)




 大広間の白壁に朝陽が届く前、オリハは深紅のカーテンを引いた。


 胎児保護の報告書が机に積まれ、脈拍の速さだけが彼女の動揺を示した。




 アイレイムが通されたのは光を吸う長絨毯の中央。


 オリハの声は冷えた水面のようだった。


「あなたは象徴のままでいて。静寂は秩序の胎盤になる」




 少年は首を振り、胸に手を当てた。


「人はみんな言葉にならないものを抱えていました。


 ぼくも同じだから声にしたい」




「それは騒ぎです」


 オリハは一歩踏み出し、腹部をかばうように両腕を重ねた。


「胎内の子に不要な震えは与えられない」




 アイレイムの靴音が後退し、会話は途切れた。


 廊下の隅で待っていたノアが少年の肩を叩き、目で外を示す。


 二人は言葉を交わさず庭へ出た。




 黄昏、城壁の蔦が風に擦れる。


 ノアはリコーダーを唇へ寄せ、短い旋律を吹いた。


 音は低く、火の残る雲をなぞった。




 アイレイムはその余白に息を合わせる。


 声帯は震えず、しかし喉奥が温かく広がった。


 夜の初めにだけ許された小さな合奏だった。




 窓辺で聞いていたハルメアスは、胸に残る余韻をかき集める。


 ノアへの感情は過去形になり切れず、指先が疼いた。


 静かに外套を羽織り、城門を抜けた。




 城下の廃駅は月光を抱くガラス屋根だけが残る。


 崩れた時計台の影でノアがギターを調弦していた。


「待っていたよ、王子さま」




 ハルメアスは笑い、赤羽ペンを取り出す。


「君の音がなければ僕は世界を測れない」


 弦の震えとインクの匂いが夜を満たした。




 二人はベンチに並び、互いの温度を確かめ合う。


 キスは短く、抱擁は長かった。


 破れた時刻表が風で揺れ、秒針のない時間を刻んだ。




「いつか自由な旅をしよう」


 ノアが呟き、ハルメアスは頷いた。


 約束は音も文字も要らず、呼吸の重なりで刻印された。




 夜は溶け、雲が東へ駆ける。


 三人のセッションは黎明の塔で始まった。


 拍を決めない楽は石壁に淡い残響を落とした。




 ハルメアスの太鼓が迷子の脈拍を刻む。


 ノアのギターが開放弦で薄青の空を支え、


 アイレイムの息が朝の湿度を震わせた。




 扉を開けたオリハは一歩で立ち止まる。


 胎児が胎内で跳ねる感覚。


 それは恐怖ではなく未知の合図だった。




 彼女は懐から紙片を出し、新規条文を走らせた。


 β1:対話モード。


 規範を更新することで音を囲い込む策だった。




 昼前、広場でリハーサルが始まる。


 アイレイムの声は細く震えながらも空を縫い、


 子どもが真似てパン売りの青年が合いの手を入れる。


 観測官は手帳に記した。


 自発的合唱、秩序指数+0.42。衝突係数ゼロ。


 オリハは遠くで数値を読み、眉を寄せた。




 夕刻、焚き火の脇でハルメアスは日誌を閉じた。


 今日拾った新しい言葉は六十三。


 ノアは靴音でリズムを刻み、少年は壊れた教科書を火へ投げた。




「語りは剣じゃない、種なんだ」


 ハルメアスは灰を見つめて呟く。


 火の粉が上がり、暗い空に散った。


 遠く政庁の窓でオリハは腹を撫でた。


 鼓動が二重に響き、静政の理由を己に言い聞かせる。


 沈黙は胎児を守る檻――そう信じ込もうとして。




 その夜、街灯の白碑がわずかに震えた。


 刻まれた数字が一桁だけ崩れ、石灰質の粉が落ちる。


 誰も気付かなかったが、揺れは確かに始まっていた。


 第3章


 王都中央広場に並ぶ白い碑は、昼の光を鏡のように跳ね返した。


 碑面に刻まれるのは数字だけ。


 日付、予算、死亡率、回復率。


 物語も嘆きも排され、市民は反射光を避けて歩いた。




 正午、スピーカーが低い起動音を漏らし、合成音声が倫理条文を朗読した。


 《声は混乱を生む。混乱は効率を下げる》


 誰も耳を向けず、向ければ監査対象になると知っていた。




 オリハ・アル=ナーシルは政庁の高窓から白碑を見下ろした。


 腹部に手を添えると、鼓動が二重に響く。


 医官の診断は妊娠十四週。


 胎児は順調に成長し、揺らぎを嫌う母の静寂に包まれていた。




 午後、緊急閣議が開かれた。


「未来王の安全が最優先だ」


 オリハは短く告げ、書記官に条文改定を命じた。


 “非効率排除プロトコル”へ胎児保護項が加わる。




 条文は即日市内に貼り出された。


 《大音量・即興演奏・集団詠唱を暫定禁止》


 《王配候補ハルメアス殿下の外出を制限》


 理由は母体安静。




 その夜、北塔の私室でハルメアスは窓を開けた。


 絹のカーテンが冷気を運び、遠い路地のギターが途切れた。


 ノアの音が、街から消える音だった。




 翌朝、王政記念式典。


 白柱の回廊を歩くハルメアスは、無彩の外套を羽織り、


 胸元に王家の紋章を留めた。


 赤羽ペンは没収され、代わりに無色の記録印が渡されていた。




 大広間の壇上。


 オリハは淡金の礼服に身を包み、夫となる男の横へ立った。


 司式官が婚姻宣言を読み上げると、


 白碑広場の群衆が指示された通りの拍手を合わせた。




 最前列にノアの姿があった。


 黒の礼帽に涙の跡が光る。


 彼は懸命に掌を打ち、微笑みを形だけ整えた。


 音ではなく沈黙で祝福する術を選んだ。




 儀式後の回廊。


 群衆が去り、白光が石床を冷やした頃、


 ハルメアスは柱影でノアを待った。


 二人の足音が重なり、言葉より早く抱擁が交わされた。




「祝福する」


 ノアの声は震えたが、嘘はなかった。


「だけど僕の音は、君が自由になる日まで止まらない」


 ハルメアスは額を預け、小さく謝った。




「君の音を奪う形になった」


「違う。君が生きていれば音は死なない」


 短いキスが額に触れ、別れの合図になった。


 ノアは黒帽を深くかぶり、闇へ溶けた。




 同時刻、離宮塔の高窓。


 アイレイムは外出禁止を告げる紙片を読み、


 木箱にしまった譜面を握り締めた。


 足枷は無いが、塔壁が檻だった。




 市街地では監視ドローンが高度を下げ、


 広場の演奏家に赤いレーザーポインタを当てた。


 音が平均律を越えると、警告アラームが鳴る。


 市場の喧噪は白碑の反射光に吸われていった。




 深夜、政庁寝室。


 オリハは視界の隅で数字の列を思い浮かべる。


 胎児の心拍は予定値通り。


 彼女にとって母性は秩序そのものだった。




 しかし窓ガラスが微かに震えた。


 遠いどこかで弦が一本だけ鳴ったのだ。


 胎児が内側から蹴り返し、腹皮が温かく波打った。


 オリハは目を閉じ、初めて恐怖と期待の区別を失った。




 翌夕、白碑が揺れた。


 千分の一の誤差で刻印数字が乱れ、


 表面の石灰質が粉雪のように落ちる。


 市民は無意識に足を速め、見上げることを避けた。




 ハルメアスは図書院深奥で日誌を綴った。


 ペンの色は黒でも、行間は赤く脈打っていた。


「剣にも檻にもなれなかった。


 残る道具は鍬――土を耕し、芽を守る」




 塔の窓でアイレイムは短詩を紙片に書く。


 〈はじめての葉〉


 幼い語の列を風に乗せ、


 夜空へ流すと、紙は星へ紛れた。




 路地裏を歩くノアは足音でリズムを刻む。


 演奏を禁じられた街で、靴底が唯一の楽器になった。


 石畳が低く共鳴し、淡い和音を作った。




 監視網はそれを雑音と判定し、記録を破棄した。


 しかし雑音は地を伝い、白碑の足元に細い亀裂を生んだ。


 揺らぎは静政の基礎を下から削り始めた。




 夜明け前、オリハは鏡の前で立ちすくむ。


 腹部の輪郭が昨日より確かに丸い。


「沈黙は森を赦さない。それでも森は沈黙を忘れさせる」


 呟きは鏡面で折れ曲がり、自分へ跳ね返った。




 外では鳥が一羽鳴いた。


 禁止されていない唯一の即興。


 その短い声が雲間を裂き、光を呼び込む。


 数字より早く、新しい朝が始まった。




 第4章


 夜明けの白碑は薄紅を映した。


 石灰の粉塵が靄となり、数字列がにじむ。


 監視ドローンは変化を検知できず、


 ただレンズの曇りとしてログに残した。




 離宮塔。


 アイレイムは小窓から街路を見下ろした。


 石畳を打つ足音が増えている。


 リズムは整わず、だが脈のように確かだった。




 弟の視線を追うように、


 ハルメアスは書棚から古地図を抜いた。


「土は割れ始めている。


 次に芽を出すのは、声か数字か――」




 政庁最上階。


 オリハは医官の聴診器を払い、


 自ら胎動を確かめた。


 鼓動は早く、しかし規則的。




「この子こそが静寂だ」


 そう言い聞かせた瞬間、


 ガラス窓が震え、


 遠くで太鼓の一打が響いた。




 太鼓は広場の中央に置かれていた。


 ノアは靴音でリズムを刻み、


 市場の少年が壊れた鍋を叩いて応えた。


 即興の波が屋根瓦を震わせた。




 監視アラームが赤に変わる。


 警備兵が広場を囲んだが、


 誰も銃を構えなかった。


 銃口を上げれば、鼓動が乱れるだけだと悟った。




 白碑に貼られた条文が剥がれ、


 風に舞った紙が太鼓の皮を叩く。


 乾いた音が一拍遅れで空へ抜け、


 群衆の呼吸をそろえた。




 アイレイムは塔を飛び出した。


 足枷は無かった。


 しかし門番は制止せず、


 ただ鍵束を投げ渡した。




「歌が必要だろ」


 門番の呟きが背で弾けた。


 石段を駆け下りるたび、


 息が音に変わるのを感じた。




 広場に到着すると、


 ノアはギターを抱え跳ねる弦を抑えた。


 アイレイムの視線が合う。


 二人は頷き、拍を探さずに奏で始めた。




 低いドローン。


 靴音の裏拍。


 アイレイムの息が母音を孕み、


 未完成の詞が裂け目を縫った。




 あめふる


 つちうたう


 ひかりうまれ


 にじわらう




 歌は一度も完全な旋律を取らず、


 聴く者ごとに高さを変えた。


 白碑の数字が再び揺れ、


 1 が 0 に重なり、 0 が 8 を飲み込む。




 政庁の非常ブザーが鳴る。


 オリハは廊下を歩き出した。


 兵が道を開き、空気がざわめきを運ぶ。


 胎児は静かに跳ねた。




 彼女が広場へ着いたとき、


 群衆は円を成していた。


 中心でハルメアスが太鼓を抱え、


 ノアが旋律を支え、


 アイレイムが歌った。




 オリハの視界で時間が遅れた。


 鼓動と太鼓が重なり、


 胎児の蹴りが腹を広げる。


「静寂ではないのに、なぜ穏やか……?」




 ハルメアスは太鼓を止め、


 妻へ歩み寄った。


「怖いか?」


 オリハは首を振れず、


 唇だけが震えた。




 彼は掌を妻の腹へ。


 太鼓の余韻が皮膚を通じて胎児へ届く。


 静政の檻にいた母体は、


 初めて外の鼓動と同期した。




 ノアが弦をミュートし、


 声を上げた。


「王妃殿下。


 声は剣にも森にもなると言った。


 今日は森になさいますか?」




 広場が息を呑む。


 白碑に刻まれた条文が、


 夕日で読めなくなった。




 オリハは拳を開いた。


 指先がわずかに震え、


 しかし頬が緩む。


「少し……だけ」




 太鼓が再び打たれた。


 ノアのギターが笑い、


 アイレイムの歌が高さを上げた。


 オリハは腹を抱え、


 笑った。




 笑い声は広場を反射し、


 白碑の表面を波紋にした。


 石灰が崩れ、数字が欠ける。


 監視ドローンは「解析不能」を記録した。




 その夜、ハルメアスは図書館の鍵を妻に渡した。


「赦しの森に君の頁を置いて」


 オリハは頷き、


 指輪をアクリル越しに見つめた。




 銀の焦げ跡は小さく、


 だが世界を割った線と同じ色だった。


「私は静けさを信じすぎた。


 でも静けさも音も、


 森は受け入れるのね」




 ノアは窓辺で弦を張り直し、


 ハルメアスに目配せをした。


「自由な旅の切符、まだ捨ててないぞ」


「子が歩ける頃、三人で行こう」




 アイレイムは新しい譜面を開き、


 最上段にタイトルを記した。


 〈はじめての森〉


 鉛筆の線は震えず、


 音価は風の速さに合わせて伸びた。




 その譜面は五年後、


 谷底の図書館に展示される。


 展示札にはこう加筆された。


 未来王の胎動と同日、


 王都で生まれた第一歌――と。




 夜更け、赦しの湖が光を増した。


 蛍光の水面が星座を描き直し、


 三つの新しい星点が加わる。


 父、母、後にデイゴン飛ばれる赤子の位置だった。



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