4 知恵
完全に趣味なのでおつまみ感覚でどうぞ
1
ブラックロータスは、百年近く捨てられていたガラクタに成り果てた装備品の数々を検分していく。
ほとんどが錆びており、刃筋がある武器は使い物にならない。
その中で長柄の両斧を見つける。長さとしては二メートル近くある大物の武器であるが、身長が三メートル近くあるブラックロータスには小ぶりに見える。
次に目にしたのが漆黒の籠手であった。ブラックロータスは欠損した左手首にためしに籠手を近づけると、籠手が勝手に左手首に装着した。
『グモオォォォ』
ブラックロータスは何か得体の知れない耳鳴りを感じる。耳鳴りが少しずつ音になり、声となる。察するに呪いの装備であろうが迷宮魔獣であるブラックロータスには言語が理解出来ない。
ブラックロータスは左手首に纏わりついた籠手を外そうとするが外れない。左腕を振り回す。その時に体内の魔力が無意識に籠手に流れたのだろう。
籠手は形状を分銅鎖に変化し、振り回された勢いのままに扉にぶつかる。
ドッカァーン
迷宮主につづく分厚い扉は破壊こそしなかったが、へこんだ。
ブラックロータスはそれを見て思考した。分銅鎖はいつの間にか手元に戻り、先の籠手の形に戻っている。
(これはいい)
ブラックロータスは笑った。ブラックロータスは中距離での戦闘武器を手に入れた。元々、なくなった左手首に思わず手に入った武器はどうやら魔力を流せば、指まで動かすことが可能であった。
更には、分厚い扉がへこむほどに頑丈である。ブラックロータスは意識を指先に集中して先の分銅を思い浮かべる。すると、籠手は漆黒に染まり分銅となった。
振り回す。ただ、振り回すだけでは先のように鎖は出てこない。
ブラックロータスは再び扉に向かって左腕を振り分銅が手元から鎖によってぶつかるイメージをした。
ドッカァーン
狙いは多少それたが先ほどのように分銅鎖となり扉に当たった。
『グモオォォォォォォォォ』
ブラックロータスは叫んだ。面白い。こんなに面白いことがあったのかと。
ブラックロータスは魔力が尽きるまで半日近く、迷宮主の扉に向かって分銅鎖で遊んでいた。
『ガルルルルル』
迷宮主の部屋から虎のような鳴き声が聞こえた。
2
ブラックロータスは気が付けば天井を見上げていた。
ブラックロータスはいつの間にか気絶していた。ブラックロータスは最後の記憶を振り返る。左腕には漆黒の籠手がついている。右手でさわる。引っ張るが外れない。
ブラックロータスは迷宮主の扉を見る。所々がへこみ、扉の威厳ある丑寅の模様はさんざんな姿である。
ブラックロータスは、立ち上がろうとするが立ちくらみがした。この時、ブラックロータスは気付かないが漆黒の籠手を使いすぎたせいで魔力欠乏症であった。
過度に体内の魔力を限界以上使うと意識を失うショックである。ブラックロータスはどうやら、この籠手は形状を変化させるのに魔力を使用することをおおよそで理解した。
ブラックロータスは更に呪いによる耳元の囁きが鬱陶しかった。だが、失くなった手首の代わりに、変形可能な武器が手に入ったならば特に問題ないのではと思考した。
実際のところ耳元の囁きは鬱陶しいだけで実害がない。
ブラックロータスは今まで迷宮内のほぼ無音の環境にいた。このせせり泣くような呪詛のような声も慣れてしまえば何でもない。
ブラックロータスはあまり意味のない呪いを受け入れた。
3
ブラックロータスは少し休み、魔力欠乏症の症状が治まったところで先ほどの錆びた両斧を見る。やはり、刃筋は錆びていて使い物にならないであることがブラックロータスでも分かる。
だが、握りが良かった。不思議とブラックロータスの右手に六角の柄が馴染んだ。
ブラックロータスは左手の漆黒籠手に魔力を流し分銅に変形させた。
ガシャン、シャン、ガシャン
ブラックロータスは分銅で錆びた両刃の斧の刃筋を壊した。
残ったのは二メートル近い六角棒、昆とでもいえば良いのだろうか。
ブラックロータスは分銅を籠手に戻す。
ブラックロータスは両斧であった昆を振った。
ビュン、ビュン、ビュン、
風切り音が心地よい。
ブラックロータスは昆を左手に持ち変えた。右手のように吸い付く感触はないが、悪くはない。
『グモオォォォ』
ブラックロータスは上機嫌だった。
長き時を経て、漆黒魔牛ブラックロータスは道具を使う知恵を覚えた。
ブラックロータスは準備はできたとでもいうように、半壊に近い分厚い扉に向かった。
ガッシャーン
ブラックロータスは笑いながら上機嫌に、迷宮主の扉を蹴り飛ばした。
『ガルルルルルルルルル』
主部屋には不機嫌そうな人型の虎がいた。
獣達の晩餐会に続く