エピローグ
1
三日三晩の見えない壁との激闘は虚しくも実りなく。ブラックロータスは寝た。門番であるブラックロータスに睡眠行為は必要ない。しかし、ブラックロータスは何かに誘われるように寝た。
ブラックロータスは夢を見た。
そこは迷宮のような薄暗い部屋ではなく、天井もない。どこまでも高い空間に幾千万の光が輝いていた。
丸い大きな球体が浮いている。伝説で聞いた月と星なるものであろうか。
ブラックロータスは旅に出た。
ブラックロータスは緑豊かな森を見た。
ブラックロータスは遥かに広大な山々からの景色に、その壮大さに、風を感じた。
ブラックロータスは海を見た。寄せては返す波を飽きることなく見つめていた。
ブラックロータスは燃えるような朝日をみて夕日を見た。心が何故かざわついた。
ブラックロータスは様々な生き物を見た。
夢の中ではブラックロータス多種多様な生き物と言葉を交わすことができた。
ブラックロータスは夢を見た。
清みきった風が吹く草原の真ん中に、銀髪の剣士が佇んでいた。
剣士はブラックロータスを待っていたのだ。
ブラックロータスは歓喜した。
ブラックロータスは闘った。
どれだけの時を闘ったであろう。それは一分にも満たなければ、一時間であり1日であり一年だった。その夢のような時間に短さや長さ等は不粋であった。
ブラックロータスは目を覚ました。
ブラックロータスは泣いていた。
ブラックロータスは想いを馳せた。
迷宮の外に、この世界にはブラックロータスの知らないものが多すぎる。
出たい。
出たい。
そして、色々なものを見たい。
何よりも待っている。
あの銀髪の愛しきものが、いまかいまかとブラックロータスを待っているのだ。
あのそよ風が吹く草原で。
『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
ブラックロータスは吠えた。
ブラックロータスは門番であることを否定した。
その時に、ブラックロータスが守るべきものを見た。
(あるではないか)
(目の前に扉が……)
ブラックロータスは四十階層主部屋の扉を見て嗤った。
今日も読んで頂いてありがとうございます。
次回『第二部 獣たちの晩餐会』に続きます。