エピローグ
ブックマークありがとうございましたm(_ _)m
1
ダイアン迷宮 付近の西の森
「これは酷い……」
「風と土の女神の怒りでしょうか」
「動物達の気配もしませんね」
デニッシュ達は、倒されてそのままにされている木々を見る。
そこには森の姿はなく、不気味に倒れた木々の死体と生命の気配を感じない大地にデニッシュ達は、何故か死を連想させられるような感覚であった。
「この木の倒し方は、切ったものではなく何か鈍器のようなもので破壊されたような痕ですかね。しかも、これは何度も叩いたものではなく一撃で倒したような……」
ジョルジが木を触りながら言う。
「この木を一撃だと」
デニッシュは困惑した。木を一撃で破壊する。これは、どのような膂力の持ち主であっても難しいであろう。デニッシュの剣技でも木を斬るという行為は、生物を斬るのとは違う。細枝ならばまだ分かるが、一撃で木を斬ることはデニッシュの知る限り、元従者の大陸一の剣士キーリ・ライトニングオリアならば可能かと思考した。また、人外の膂力でいうなれば、南の機械帝国『ジャンクランド』の王『巨帝ボンド』が頭に浮かぶ。
「つまりは、この惨状は厄災級の力の持ち主の仕業ということでしょうか」
聖女ジュエルが首をかしげながら言った。
デニッシュのパーティー『銀狼』は、デニッシュの肩関節脱臼が治ってからズーイ伯爵の依頼で西の森の調査に出た。
既に、森に異変が起きて数週間経っていた。だが、ダイアン迷宮付近は人除けの結界が張ってあり、並みのパーティーではたどり着くことが難しかった。
「殿下、誰か結界の外にいます」
射手のハンチングがデニッシュに報告する。
「結界の外で待っているということは、冒険者組合か伯爵家使いですかね」
ジョルジがデニッシュを見ながらいう。
「……」
「殿下?」
ジュエルがデニッシュを見る。
「この森のことといい、何やら胸騒ぎがするな」
2
「ウーゴ迷宮で魔獣大行進だと!! 」
デニッシュ達が驚愕した。
伝令はデニッシュ達が補給物資運搬の拠点としていた『ウーゴ砦』からの伝令であった。デニッシュ達『銀狼』の本来の任務は『ダイアン迷宮』で狩った魔牛肉の前線への補給であった。これは、戦時でのグルドニア王国王室のパフォーマンスで、第二王子デニッシュと国内貴族序列一位のダイヤモンド公爵家の令嬢である聖女ジュエルが、どういった形であれ戦争に参加したという実績作りが目的だった。
『ウーゴ砦』前線より後方の地点で、補給物資の搬入や前線の負傷者の手当をする重要な拠点であった。
そのウーゴ男爵領には『ウーゴ迷宮』がある。三十階層の中規模迷宮であり、定期的に迷宮主も討伐されて魔獣大行進の予兆はなかった。
「この森の破壊といい、何か関係しているのか」
「殿下、いかがしますか? 」
ジョルジがデニッシュの判断を仰ぐ。
最優先事項は、王族であるデニッシュと聖女ジュエルの生存だからである。例え、友軍の危機でも高貴なる血筋にわざわざ、獣の巣に足を踏み入れることはジョルジとしてはして欲しくない。
「魔獣の数は? 」
「およそ、三百でしたが増え続けています」
伝令が渋い顔をした。
3
ウーゴ砦、魔獣の数約五百体
「うおおおおおおおおおお! 」
デニッシュの剣が魔猿の首を斬り落とす。
結局、デニッシュは『ウーゴ砦』に行った。初手の奇襲と、ジュエル特製の魔物除けの香のおかげでしばしの時間を稼ぐことができた。
その間に、砦の非戦闘員と気絶させたジュエルを逃がした。護衛として、ウーゴ騎士団とジョルジにハンチングをつけた。第二王子デニッシュの代わりはいる。だが、国際的にも聖女といわれたジュエルの代わりはいない。
また、ウーゴ男爵領はグルドニア王国の食料地帯であり穀物類は国の四割を占める。ここを抜かれて魔獣達に田畑を蹂躙された場合、戦時で食料自給率が低くなっている今、更に生活は厳しくなる。そうなれば、食糧を他国からの輸入に頼らなければいけない。
水面下での経済戦争が仕掛けられる。
デニッシュとウーゴ男爵、十三人の騎士達による『ウーゴ砦』の防衛線が始まった。
4
「キーリ! しっかりしろ! キーリ! 」
キーリは重症であったが一命を取り留めた。
結果として魔獣大行進にデニッシュは勝利した。
敵国である獣人連合国の助力、友軍であるズーイ伯爵騎士団、天才剣士キーリライトニング・オリアの介入が大きかった。
ウーゴ男爵と十二人の騎士の命をチップとして……
魔獣大行進は最終的に千体になった。そこに、厄災級『鬼熊フューネラル』まで参戦した。
デニッシュはこの戦いで多くの名声を受けた。単独で『金級冒険者』、『厄災殺し』、『ウーゴの奇跡』と称えられた。
だが、デニッシュは自身の無能さを呪った。
始めから無謀な賭けだったのだ。デニッシュは一騎当千の剣士である。デニッシュは死を覚悟していた。だが、デニッシュは生き残った。デニッシュに未来を託した者たちによって……
この日を境にデニッシュは変わった。
デニッシュは散っていった者たちに未来を託された。
銀狼が目を覚ましたのだ。
漆黒魔牛ブラックロータス、厄災殺しデニッシュ・グルドニアは成長している。
両者が数奇な運命から再び交わる日はまだ先のことである。
しばらく休載します。
不定期連載なのでご容赦下さい。




