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10 コウザ傭兵団

1


 兎獣人の村 




「頭、もう三日も経ちますがまだ、奴隷商人の馬車は来ないんですかい? 」


「慌てるな。今日の午前中には来る手筈だ」


 コウザ傭兵団団長のコウザが部下にいう。


 コウザ傭兵団は百人からなる人種の傭兵団である。団長のコウザは、元はグルドニア王国騎士団でも指折りの実力者であったが、物資の横流しが見つかり解雇となった。コウザが騎士団を解雇となり、脛に傷のある連中を集めて早十年、始めは少数だった傭兵団も今では百を超える大所帯だ。依頼相手は、貴族が多く依頼の案件は後ろ暗いものが多い。


 今回の依頼は兎獣人の毛皮の納品であった。兎獣人は、局所戦での戦闘と斥候には目を見張るものがあるが、他の獣人と比べると基礎戦闘力は低い。端的に言えば逃げ足が速い兎である。だが、その毛皮は貴族界隈では裏取引で非常に価値があった。名目上は獣人の毛皮ではなく兎魔獣の毛皮として受注依頼されている。


 今は、戦時中であるが公になれば国際社会的にはルール違反であるが、大なり小なりそのような案件は存在する。


「兎たちに水くらいはくれてやれ、生きている間はすべて商品だ」


 今回は十全に下調べをしてからの村への奇襲だった。


 兎獣人の村は五十からなる小さな村とも呼べないものだった。ここは、獣人連合国とグルドニア王国との国境沿いから三十キロ地点で大人の足では二日程度の距離である。短距離であれば、兎獣人の逃げ足の速さは侮れないために今回は、四日にかけて傭兵団を進軍させて村の周りを囲むように配置した。


 兎獣人たちは始めこそ抵抗はしたものの、片足の腱を斬られて動くことが出来ない状態である。破傷風の恐れもあるから、治療はされているがあくまで商品として大事だからだ。


「殺してやったほうがいいんじゃないですかい。今回の依頼人さんは二重三重に依頼を回してますが、ウーソン子爵でしょう」


「ああ、十中八九あの変態だな」


「皮剝ぎのウーソンですよね。生きたまま皮を剥ぐのが趣味な狂人ですよね」


「だが、金払いは悪くない」


 ウーソン子爵は、騎士団時代のコウザとも面識があり、腕は確かだがその度を越した異常性から退団を余儀なくされた子爵家の令息であった。昨年に、当主が他界して家督を継いだようだ。


「まあ、あっしらもお天道様に顔向けできないゴロツキですが、さすがに兎たちには同情しますね」


「……仕方がないさ。この世は所詮弱肉強食だ。ああ、確か硬い黒パンが余ってたな。少し、兎たちに分けてやれ」


「いいんですかい? 」


「少しは団員たちの良心が痛まないだろう」


「お頭、やっぱり傭兵向けの性格者ないですね」


「ぬかせ」


 コウザが天井を見上げた。


 その瞳はまるで「何かいいことねえかな」と退屈と虚しさを憂いていた。




2


 村の外れにある小屋 兎獣人が閉じ込められている場所




「おら、お前たち、水とパンだ」


 見張りの一人が手足を縛られたアルル達兎獣人に食料を食べさせようとする。


「……」


 兎獣人達の眼に生気はない。足の痛みと、最低限の水しか与えられていない兎獣人達にはもはや体力というものはほとんど残されておらずに、脱水に近い状態だった。


「こりゃあ、もう、壊れているか?」


 見張りが数人で兎獣人達の口元に水とパンをやるが、言葉はなく辛うじて咀嚼する程度である。兎獣人には自分たちの末路が分かっていた。もう助からないだろうと、人種の奴隷にされるか、希少価値の高い毛皮を刈られたあとは、野に晒されるか……明るい未来はない。


「ああああああ」


 アルルも意識が混濁していた。


 混濁した意識の中で、アルルはジャージィことブラックロータスのことを心配していた。出会って数日の戦争のショックで喋れなくなった黒い牛獣人、凶作だった村に、アルルに肉を分けてくれた恩人だ。


 アルルが持ち帰った肉は、村の皆で分けた。凶作でどうやって冬を越そうか絶望的だったところに、アルルが持ち帰った二十キロの魔牛肉は村の皆に希望を与えた。


 アルルは神様って本当にいるんだなと思った。


 アルルは祈った。ジャージィが傭兵団に見つかりませんようにと。


(魔牛の肉……美味かったな)


(ジャージィ、ちゃんと肉食えてるかな? )


 アルルが目を瞑る。瞼の裏にはジャージィとのこの数日間の思い出が映った。


『グモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! 』


「なんだ! この叫び声は?」


 見張りの兵が驚愕した。


「……ジャ……ジ、来ちゃ……ダメだ」


 今が現実だか夢だか分からない中で呟いた。

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