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8 時を止める魔法

やんごとなき病気にかかり更新が遅れました。すみませんm(_ _)m

1


「おっ! なんだ。これ! 自分でいうのもなんだけど、会心の出来だな。素材がいいのかな? 」


 アルルが焼き加減を確認するのに味見をした。


『グモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! 』


 ブラックロータスは忍耐の限界を迎えた。


 ブラックロータスの咆哮により周辺の生物が恐怖し逃げる。


「分かった! もう、できたから、うるさいなあ! ほら! 熱いから気をつけろよ。いいか、葉っぱは食べるんじゃないぞ! 」


 アルルが『魔牛肉の包蒸し』をブラックロータスに渡す。アルルは葉を開くようにジャエスチャーする。


『グムウ! 』


 ブラックロータスは待ちきれんと『ヤレルの葉』ごと口に入れた。


(熱い! )


 ブラックロータスは口腔内にダメージを負ったが《治癒》がすぐに再生する。


「あっ! 馬鹿! 一気に入れるな! 火傷するぞ! 」


 アルルはブラックロータスが再び咆哮すると思い両の耳を塞ぐ。


『……』


「あれ? 」


 ブラックロータスは固まっていた。いや、ブラックロータスは思考を止めた。いや、心の蔵が止まりかけた。


(……)


 心の声すら発せない。


(なんだ、これは)


(今、我は意識がなかったのか? )


 ブラックロータスは未知と遭遇した。『魔牛肉の包蒸』のあまりの美味さに、全細胞が思考を停止した。いや、ブラックロータスの時が止まったのだ。


 今のブラックロータスにはこの感情を表現できる術がなかった。


「どうした? 口に合わなかったか? 」


 アルルが心配そうにブラックロータスを見る。


 ブラックロータスは五分ほど活動を停止した。


 ブラックロータスは儀式魔法(料理)の軍門に下った。


 ブラックロータスは知らずに泣いていた。


 木の実と塩は複雑かつ様々な幸福感をブラックロータスの舌に与えた。


 柔らかい肉は噛み締めるほどに、肉汁が溢れた。


 ブラックロータスは初めて出会ったこともない創造主に感謝した。


2


「おおい! ジャージィ! 今日はチーズ持ってきてやったぞ」


 それからというものアルルは三日連続でブラックロータスに会いに来た。


 ブラックロータスは夜を除いて、体力の続く限り『ヴェルサーチの皮』に入っている魔牛の血抜きをした。一日に約十頭ペースで血抜きはできている。たまに、野良魔獣がつられてやってくるがブラックロータスは素手で粉砕した。


 アルルはブラックロータスが血抜きした肉を手際よく解体していく。また、簡単な調理をしてブラックロータスの舌を打った。


 ブラックロータスはもはや、よっぽどのことがない限り生肉には戻れないだろう。


 アルルは山羊の乳と芋にニンジンと小麦粉でとろみをつけた簡単なシチューや、塩焼き等を作った。また、ニンニクにショウガやスパイス等の秘伝のタレにつけた肉はこの世のものとは思えないほど魔牛の美味さの限界値を引き上げた。


「これ、今日の分貰っていくからな」


 アルルが両手を使って肉の塊を持ち上げる。


『グモウゥゥ』


 ブラックロータスが細切れ肉のチーズハンバーグを食べながら興味なさげにいう。


 アルルは、料理と解体の報酬として魔牛肉を一日、二十キロ貰った。子供で義足のアルルでは重いものは持てないので、午前と午後に十キロずつ村に持って帰った。距離としては、アルルの足で村までは十五分程度らしい。


 正直、ブラックロータスとアルルとの間で意思疎通が成立しているのかは、微妙であったがブラックロータスはアルルの料理が食えれば少しの肉など問題にならなかった。また、ブラックロータスには休養が必要だった。


 迷宮魔獣であったブラックロータスは、睡眠や食を必要としなかったが、迷宮より解放されたことにより疲労を覚えた。ブラックロータスの最大の武器はそのタフネスである。単騎でスタンピートを凌げる体力に《治癒》による回復能力、すべての攻撃をほぼ八割の力で振るうことができるのは異常なことであった。


 人種であれば、全身鎧に身を包んで剣を振るえば五分とも持たずに息があがってしますだろう。種族の差こそあれ、長期戦、消耗戦においてブラックロータスの右に出るものはいないだろう。


 だが、そのブラックロータスでも疲労は蓄積した。


 五百の魔牛との戦闘、地上での森林破壊、意識はないが滝から約五十キロ流されていたブラックロータスは、その流れで様々な岩や木等にぶつかって瀕死であった。常時発動の《治癒》が彼の命を繋いでいた。ブラックロータスは見た目と違って体の芯は疲弊していたのだった。


 食事のあと、ブラックロータスは無防備に寝た。


「あー、気持ちよさそうに日向ぼっこして、じゃあ、また午後に肉貰いにくるからな。ちゃんと血抜きしとけよ。まったく、ジャージィの『四次元』の容量はどうなってるんだか」


 アルルが呆れたように肉を持って帰っていった。


『グモウゥゥ……』


 ブラックロータスは満足そうに寝息を立てる。


 ブラックロータスは結局、お昼寝ではなく夜まで寝ていた。


 アルルが来た気配はなかった。


 ブラックロータスは腹が減っていたが、睡魔には勝てずにそのまま寝た。この辺りの魔獣や生き物もブラックロータスを猛者と認めたようでもはや、狙おうとするものはいない。


 朝になりブラックロータスは日の光で目覚めた。始めは、ブラックロータスの眼を焼いた日光も今や慣れたものだ。


(腹が減った)


 ブラックロータスは空腹だった。


 だが、アルルが来るのはいつも朝日が昇ってから二時間ほど経ってからである。ブラックロータスもそのことを理解していたから空腹を我慢することができた。


 だが、アルルは三日経ってもブラックロータスの元には来なかった。

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