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5 喜劇

1


 ダイアン迷宮 地上入口


『グモォォォ! 』


 ブラックロータスは一階層出口から漏れ出る光に歓喜した。


ブラックロータスは、地上に出たときはないが本能的に迷宮の出口であることを理解していた。


道中に脅威はなかった。


最下層で迷宮内すべての魔獣を肉塊へと変えたために、迷宮を逆走するにあたって魔牛とは遭遇しなかったのだ。ブラックロータスからしたら、退屈だったが警戒は怠らなかった。あえて苦労したのはマッピングだった。最下層から出たことのないブラックロータスは時折、順路が分からなくなり同じ場所を何度も往復したりした。


幸いにも『ヴェルサーチの皮』の中に『導き手の矢印』というアーティファクトが入っていた。これは、円形のコンパス型の魔導具でこの魔導具が記録した道は使用者が念じれば目的地までの道のりを指してくれる破格の魔導具であった。最下層主であったヴェルサーチが迷宮を攻略する際に使用したものであろう。


ちなみにこれは、ブラックロータスが探索をしながら『ヴェルサーチの皮』の《異空間》を整理していたら、頭の中で自分が欲しているものと念じたら出てきたのだ。勿論、ブラックロータスにはこの魔導具の効果は分からなかった。なんとなく、矢印の通りに進んだら、階層毎に階段があったので、魔導具をおおよその意味を理解しただけである。


ブラックロータスはその他にも、歩きながら念じたものを幾つか取り出した。瓶の中に入った回復薬のようなものや、毒消し、麻痺治し等は何故か頭の中に効果と使い方が流れ込んできた。


防具や盾に、剣や槍、鉄球等の武具もあったが、興味を惹かれなかった。いずれ使い道もあるだろうかと頭の隅に記憶しておいた。




2


『グモウ! 』


 ブラックロータスは迷宮を出た。


 主部屋を出た時のように何か見えない抵抗感があるかと危惧したが拍子抜けなくらいあっさりと地上に出た。


 だが、ブラックロータスは油断していた。


『グモモモォウ! 』


 ブラックロータスが地上に出た時間はちょうど正午と最も太陽が高い時間帯であった。ブラックロータスは日の光に目が焼けた。これは、比喩ではなく本当に視界が奪われたのだ。神話の時代より迷宮最下層で暗闇の中で生きていたブラックロータスは初めて太陽の日を浴びたのだ。創造主は迷宮から出ることを想定してブラックロータスを造っていない。


そのためにブラックロータスは眼の機能を失った。


(目を焼かれた! )


(敵か! )


 ブラックロータスは大いに勘違いした。


『グモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! 』


 ブラックロータスは瞬時に戦闘態勢に入った。


 ブラックロータスは雄叫びを上げ、己を鼓舞しながら敵を威嚇する。実際に敵はいないが、この時、視力を失ったブラックロータスは恐怖した。『銀狼』パーティーとの戦闘で片眼を失ったが、距離感は別にしてさほど困っていなかった。


暗闇が見えないことがこれほど、恐ろしく不利になるとは予想していなかったのだ。しかも、混乱しているので嗅覚や気配は役に立たない。実際には誰もいないのだが。


(止まったら死ぬ)


 ブラックロータスは『ヴェルサーチの皮』より昆を取り出だす。


 ブラックロータスは闇雲に動き回った。がむしゃらだった。


 根を振り回しながら雄叫びを上げ、狂ったように動く。自分でもどこにどう動いているかは分からない。ブラックロータスは木にぶつかった。


(こいつか! )


 ブラックロータスは自分でぶつかったのだが、感覚としては体当たりを喰らったような衝撃だった。ブラックロータスは木に向かって昆を振る。すると、昆が別の動きに遮られて動きが止まる。


(囲まれたか! )


 ブラックロータスはいつの間にか森の中に入った。無数の木々によって動きを阻害され、自分が動くことで木や岩に衝突して結果的にカウンターを受けている。


『グモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! 』


 バサバサバサバサバ


 森の動物や魔獣がその狂気の叫びに逃げ出した。


(また増えた! )


 ブラックロータスはその物音に数が増えたと勘違いした。


 ブラックロータスは昆を『ヴェルサーチの皮』に収納した。


(出ろ! )


 ブラックロータスは頭の中で鉄球が付いた柄の短い武器を念じた。


 左手の漆黒篭手は切れ味の鋭い手刀となった。


 ブラックロータスは近接戦闘用の装備に変更した。


『グモオオオオ』


 ブラックロータスが木々を薙ぎ倒す。


(当たったか! )


 ブラックロータスは力の限り斧と手刀を振り回す。


  時には薙ぎ倒された木に足を取られて転倒する。岩に頭を打ち付ける。だが、ブラックロータスは止まらない。常時《治癒》を発現しながら動きを止めずに障害物を破壊していく。ブラックロータスは自身が動くことで傷を負っているのだが、闘志は萎えない。むしろ、退屈だった迷宮探索に油断して、失った自分に対して怒りが収まらず、奇襲を仕掛けた敵に感心していた。


『グモォォォぉオォォォォォォ! 』


 ブラックロータスは歓喜した。


(これが、我が求めていたものだ)


 はたから見ればブラックロータスの一人芝居なのだがそれは本人には分からない。


 ブラックロータスは本能のままに六時間以上、森で暴れまわりダイアン迷宮付近一帯の西の森を半壊させた。


『グモッ! 』


 チャポン


 最後には滝つぼに飲まれた。


(息ができん! )


 ブラックロータスは水を飲んだ。


 ブラックロータスからすれば水魔術を使われ、身体の自由を風魔術で奪われた感覚である。


 ブラックロータスは意識を失った。


 後にこの西の森が半壊した事件は目撃者がいないことで、例年にない不作も重なり『大地神の怒り』としてズーイ伯爵領地で恐れられた。

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