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1 魔獣大行進

ご無沙汰してます。

迷宮主ヴェルサーチを倒したあとのお話です。

1


『グモォォォォォォ! 』


 バリバリバリ


 主部屋から出ようとするブラックロータスの行く手を阻むように扉からは全身に纏わりつくような拘束を感じる。


 しかし、今のブラックロータスを抑えるには役不足だ。


 ブラックロータスは多少戸惑ったものの、難なく部屋から出た。


 耳鳴りや頭痛は続いていたが、漆黒篭手から常時発せられる呪詛のような叫びに比べたら心地よいメロディーのようなものだった。


「ビィー、ビィー、迷宮機構から外れた存在に対して防衛行動を取ります。緊急プログラム作動します。迷宮内において魔獣大行進が発動します」


 ブラックロータスには迷宮のアナウンスは理解していないが、迷宮の生物としてアナウンスの意図は理解していた。


 「「「グモモモモモ!!」」」


 ドドドドドドドドドドドドドドド!


 上層より鳴りやまない足音と狂気に満ちた叫び声が聞こえる。


 ブラックロータスは鳥肌が立った。


(まだ戦える)


(戦いが狂おしい)


(喉が渇く)


(満たしてくれ)


 ブラックロータスは歓喜していた。ダイアン迷宮主部屋門番である漆黒魔牛ブラックロータスは、待っていたのだ。戦闘を恋焦がれていた。長きに渡り、ブラックロータスは退屈していた。門番という特性から主部屋の扉から離れることができずに、日々の日課は正面の階段を見つめるばかりであった。


 他の魔獣に比べて知能の高いブラックロータスはこの不毛な日々に発狂しそうだった。


 魔獣大行進など、ブラックロータスからすればご褒美のようなものだった。


『グッ!グッ! グモォォォオォ!』


 ブラックロータスは高らかに歓喜の声を上げた。




2


 ドドドドドドドドッドドドドドドドド


 上層の地響きはさらに加速した。


 ブラックロータスが三十九階層に続く階段に視線を移す。


 ブラックロータスが棍を構える。左手にある漆黒篭手は鎖分銅に変形した。


「「「グモォォォオォ! 」」」


 階段から灰色魔牛の群れが降りてくる。約五百キロはある四足歩行の魔獣からなる突進は城の扉を破壊する威力はあるだろう。また、このダイアン迷宮は牛魔獣で統一されている。だが、強さは迷宮深層に行くにつれて強くなり、体躯も深層に行くほどに体が大きくなり体毛がより濃い黒となる。


 ようするに第一陣ほど手ごわいのだ。


『グゥゥッゥーモッ!』


 ブンブンブンブン


 左手の鎖分銅が回されるたびに空を切り、遠心力によって殺傷力が貯められていく。


 悪意ある鉄の絡まりがブラックロータスより放たれた。


 グッシャアアアア


 先頭の魔牛三頭が肉片となった。肉片となった魔牛は勢いのまま地に伏した。


「グモモモ! 」


 後続の魔牛が肉片に躓き転倒する。


 階段の入り口はおよそ三体の魔牛が通れる程度の広さである。そこに、転倒した魔牛を後続が踏み砕いていき、さらに足を取られて転倒する。狭い通路から湧いてくる魔牛は意に介さず突進してくるが階段付近では二十体程度の魔牛が圧死していた。


 ブラックロータスはその様を静観するでもなく、距離を詰めた。足場の悪いながらも階段から最下層へ突入した魔牛に狙いを定める。


 先頭の魔牛は肉片が泥濘となって上手く踏ん張れずに突進の勢いが削がれている。


『グモウ!』


 ブラックロータスは勢いのままに根を振る。


 身長が三メートルあるブラックロータスが振る棍は二メートル程度だ。元は長柄の両斧であったガラクタの刃を砕いて柄を棍として使っている。両斧の刃は錆びて使い物にならなかったが、柄の部分は強度が強く振舞り回すのには最適だったのだ。


 ビチャ、ビチャ、ビチャ、ビチャ


 魔牛が割れた卵のように肉片になっていく。


 ブラックロータスは一振りで魔牛を二体~四体を負傷させた。すべてを絶命させることは出来なかったが、棍に触れれば最後、戦闘不能になる。地に伏した魔牛は後続に踏み潰される運命だ。


 ブラックロータス狂っていた。


 肉片がブラックロータスに雨のように降り注ぐ。渇きが、飢えが満たされていく。


 魔牛は始めこそ勢いを削がれたが、次々と湧いてくる。


「「「グモオオオオ!」」」


 数は暴力である。ブラックロータスに対して魔牛の数は百を超えている。


 魔牛がブラックロータスに突進する。角が脇腹に刺さり、両の大腿部は噛みつかれている。密着されたブラックロータスに待っているのは物量による圧死である。


 ブラックロータスの口から血が噴き出た。


 にやり


 ブラックロータスは嗤っていた。


 シュパッ


 密着していた魔牛たちの首が斬られた。


 ブラックロータスの左腕の漆黒篭手が鋭利な刃物に変形した。


『グモオオ! 』


 さらには変形した漆黒篭手は手指に戻り先端に鋭い金属となる。


 ズバッツ


 篭手の先端は魔牛を貫き、その流れで大腿部にいた魔牛の頭を掴みながら握りつぶした。


 魔牛の脳漿が破裂する。篭手についた肉片をブラックロータスは咀嚼した。


『グモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


 手負いの状態で肉を喰らったブラックロータスの渇きが満たされていく。


「「「グビィ……」」」


 その雄叫びに魔牛たちは恐れおののく。


 ブラックロータスは《治癒》を発現した。傷は一気には回復しないが出血は収まってく。


 血肉祭りは始まったばかりだった。

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