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ダイアン迷宮 紅牛コフィンと銀狼  作者: ナポ
第一部 四十階層
1/13

1 ブラックロータス

ダイアン迷宮四十階層 主部屋 手前の門



迷宮主に続く門を守護している魔牛は退屈していた。


いつになったら現れるのだろうと


魔牛は牛の頭部に人型のまるで巨木のような大型魔獣である。全身の筋肉を隆起させ、その暗闇に溶け込みそうな漆黒の厚い皮は、鋼鉄よりも固いであろう。


このダイアン迷宮は神話の時代より未踏の迷宮である。


ダイアン迷宮は四十階層と中規模に分類される迷宮ではある。出現する魔獣は、一階層から魔牛のみである。魔牛は大型魔獣に分類されるが、個体ごとの強さが異なる。

一階層から十階層までは茶色の人種の大人と同じサイズの魔牛、十一階層から二十階層は焦げ茶色で一回り大きくなった魔牛、十階層ごとに体躯と強さが増す。

そのようにして、黒に近くなるにつれて魔獣としての格があがる。

だか、三十九階層までの魔牛は灰色で中位クラスの冒険者でも倒せてしまう。


そのまま自分の実力を過信した冒険者が、四十階層主の門番である漆黒魔牛と戦闘になった瞬間に悟るのだ。


格が違うと。


高位の経験ある冒険者の中には、漆黒魔牛のただならぬ気配を感じて撤退するものは賢い。何故なら、このダイアン迷宮はこの門番である漆黒魔牛のせいで、冒険者ギルドさえその先の階層主を確認出来ていない。

冒険者の中には、実は迷宮主が扉より出てきており漆黒魔牛が迷宮主なのではないかと。

漆黒の闇に溶けるようで、何者の魔法や武器ですら傷一つつけることの出来ない鋼の肉体を持つこの魔獣をいつからかこういうようになった。


黒き花、ブラックロータスと


2

カッカッカッカッ


ブラックロータスは階段から誰かが降りてくる足音を聞いた。

足音から察するに四人であろう。

退屈な作業とはいえ、久方ぶりの獲物である。百年程前は、多くの挑みにくる人種がいた。時には獣人とパーティーを組んでこの部屋戦えるギリギリの二十人で挑みに来たもの達もいた。


しかし、それからここ百年程はめっきり挑戦者はいなくなった。時折、四十階層に降りてくるものもいたが、全く相手にならない虫のような存在だった。

三十九階層の戦闘音から、何度かブラックロータスを楽しませてくれそうな気配を感じたが、そういった強者ほど下には降りてこなかった。


今回も外れかとブラックロータスが感じた刹那に。


カッ


階段入口から光が見えた。

それはおおよそ本能であった。

四本の光の矢が高速で、ブラックロータスの眉間に胴体、両足に放たれた。

ブラックロータスは素早く横に首を振りながら余裕なく矢を躱した。


だが……


左脇腹と左膝に光の矢が刺さり出血する。鋼鉄より固いブラックロータスの漆黒の皮膚を貫通まではいかないが、光の矢はブラックロータスに久方ぶりの傷を負わせた。

更には、ブラックロータスが傷口を確認しようと自身に視線を移した直後に……


ヒヤリ


ブラックロータスは首筋に寒気を感じる。

『ウオオオオ』

ブラックロータスは迷宮全域に響くような咆哮をする。


スパッ


次の瞬間にブラックロータスの左角が斬られていた。

ブラックロータスは角や傷など構わずに、左腕を力の限り振り回す。


ガキィン


「ぐううう、重い」

そこには、角を切り落とした剣士を守るようにして大楯でブラックロータスの攻撃を防いだ騎士がいた。

大楯の騎士はブラックロータスの無意識の攻撃を完全にいなすことが出来ずに吹き飛ばされる。


しかし、吹き飛ばされながらも防御の体勢は崩さない。

剣士は大楯の騎士を一瞥もせずにブラックロータスのがら空きになった左脇腹に斬りかかる。


スパッ


「ちぃ、浅いか」

剣士は、先ほどの光の矢が刺さった場所を斬りかかるが皮一枚程度しか斬れない。


ブラックロータスが一旦後方に下がる。

「《軟土》」

階段付近から魔術師による魔術が略式詠唱で発現する。

『! 』

ブラックロータスが下がろうした場所の岩場が軟らかくなり、足を取られる。

ブラックロータスの体勢が崩れようとしたところに


カッ


再び、光の矢が四本放たれた。今度は避けられない。

ブラックロータスはたまらずに腕を前に交差させて身を屈め防御の体勢をとる。

先ほどと違い、両の腕の筋を隆起させて防御する。光の矢は四本全て左右の腕に命中した。防御に意識を集中したため、先ほどの矢よりは深手ではないが少なくない痛みを感じる。


「勘のいい個体ですね」

光の矢を放った射手が言葉をこぼす。


「皆、一旦集まれ」

剣士が、大楯の騎士に射手、魔術師にいった。

「ハッ! 」

皆が剣士の周りに集まる。


剣士が剣をブラックロータスに向けて、牽制する。

ブラックロータスは、剣士を見る。薄暗い迷宮でも一目でわかる銀髪の髪を見ながら、まるでブラックロータスを獲物でもあるように見つめる瞳を覗く。


「アアアアアアア」


ブラックロータスは歓喜した。


ブラックロータスの鼻がひりつく。こんな感覚は初めてだ。


ブラックロータスにはその剣士が、まるで銀の狼に見えた。


そしてブラックロータスは心で剣士に話した。


待っていたぞ、強き愛しき者よ。


ブラックロータスが嗤った。




不定期の短編連載です。

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