第46話 魔族の大罪
夕食を食べた後、応接室に集合した。
カルラとゲイルは応接室に入ってくるなり、すぐに今朝の二日酔いの件を謝罪したが、俺とミアはもちろん、ドワーフ王も快く謝罪を受け入れた。
カルラはまだ少しばつが悪そうな顔をしていたので、俺は話題を変えるべく今日の出来事を話した。
「たった1日で……タクミとミアに慣れている私でもびっくりよ。ゴンさんの演説……私も聞きたかったわ」
「ワッハハハハ。タクミとミアのおかげだ。ワシ自身も興奮していたからな。まあ、明日もタクミ達は何か企んどるみたいだぞ。カルラさんもついて行けばいい」
それから少しの間、雑談を重ね空気が和んできたところで、ドワーフ王が切り出した。
「さてと、約束通り昨日の話の続きをするか。その前にひとつ確認したい。タクミとミアは魔族のことは聞いているか?」
俺達の代わりにカルラが答えた。
「彼らは知りません。ゴンヒルリムに着いた夜、話すことになっていました」
ドワーフ王が手で合図を送り、使用人達を部屋から退出させる。
「……わかった。この件はワシではなくカルラさんが話すべきだ。今の魔族がどういう認識でいるのかも知りたい。いや、ドワーフの王として知っておく必要がある。今からここで、彼らに話してもらえるか?」
「はい。元々そのつもりでした。タクミ、ミア。前に少し話した魔族の犯した大罪について説明するわ。さてと、どこから話そうかしら……」
「カルラさんは『赤き贖罪の門』について説明してくれ。あとはワシが話そう」
カルラは頷くと、俺とミアに真剣な顔を向けた。
「詳しく話すととても長くなるの。一度ざっくりと説明するから、わからないところは後で質問して」
そういうと、カルラは立ち上がり俺達とゴンさんの両方が見える位置に移動した。
◇
「今から500年程前、エルフ族、人族、ドワーフ族、魔族の4つの種族は共存して平和に暮らしていた。
そんな折に魔族から、天才を超える鬼才と呼ばれる『魔王』が誕生したの。
『魔王』はその権力と知力を使い、文明を劇的に進化させ魔族は繁栄を極めた。他種族の文明と大きく差が開くほどにね。
けれど、魔族の文明が大気や土壌を汚染したことで、生きるために必要な水や食料を得ることが困難になっていった。
さらに、『瘴気』と呼ばれる有害な気体が発生し、全ての生き物を蝕んでいったの。
エルフ族、人族、ドワーフ族は、自然環境を破壊し続ける魔族を強く責め立てたわ。
魔族への糾弾が激化したころ、『魔王』に大きな変化があった。
『魔王』は他の種族を見下すようになり、存在意義を否定するまでに至った。
そして、『魔王』は世界を魔族で統一するため、新たな兵器『魔物』の開発に取り組んだの」
地球で例えると、先進国が魔族。
発展途上国がエルフ族、人族、ドワーフ族。
そして魔族の高度な文明による環境汚染が世界規模で問題になった。
発展途上国が、環境破壊について先進国を責め立てた。
そしたら、先進国が逆ギレして発展途上国を滅ぼすことにしたと。
逆ギレしたときに、何か事件があったかもしれないが……絶対的な権力者の暴走は怖いな。
カルラは話を続ける。
「『魔王』は、『魔族による世界統一』と『瘴気を無くす』ために、『赤き贖罪の門』と呼ばれるアーティファクトを創った。
この『門』の扉が開いている間、この世界の理が変わる。
エルフ族、人族、ドワーフ族の『殺生』という行いが、『罪』に変換されるのよ。
『殺生』とは命あるものを殺す行為のことよ。
食べるために動物を殺したり、戦争で相手を殺したりする行為ね。
『殺生』が発生したとき、その場で『罪』へと変換される。
『罪』はある鉱物を『魔石』に変える。
そして余った『罪』は近くの『魔石』に溜まっていくのよ。
『魔石』は、『瘴気』をある一定量を吸収すると魔物に変化する。
こうして生まれた魔物は、エルフ族、人族、ドワーフ族を襲った。
魔族以外の種族を根絶やしにするために……」
最後の言葉を口にしたカルラの唇は震えていた。
いつもの自信あふれた王女の表情は消え、自責の念に心折れそうな少女の表情になっていた。
「……カルラ様」
カルラの背後で控えていたゲイルが、カルラの肩に手を置く。
ハッとするカルラにむかって、ゲイルは強く頷いた。
「ありがとう、ゲイル。もう大丈夫よ。話を続けるわ」
カルラは頷くが、眼に宿る赤い光はいつもより弱々しく見えた。
「魔物を作るとき『魔石』に『瘴気』を吸収させることで、世界から『瘴気』を減らす。
出来上がった魔物には、エルフ族、人族、ドワーフ族を殺させる。
これが『魔王』の狙い。
『赤き贖罪の門』が世界の理を変えた結果。
この世に魔物を生み出した魔族の大罪よ」
……今の話だと、『魔王』の計画通り進むと、世界には魔族と魔物、鳥や魚などの動物だけが残る。
その世界では、エルフ族、人族、ドワーフ族がいないから『罪』が発生しない。
『罪』が発生しないから『魔石』が作られない。
『魔石』がないから、『瘴気』は吸収されず減ることはない。
鬼才と呼ばれた『魔王』が、こんなことに気づかないはずがない。
何か見落としているな。
「エルフ族、人族、ドワーフ族が生き物を殺す以外にも、『罪』を発生させる条件があるんじゃないのか?」
「あるわ。さっきは説明を省いたけど、『罪』は他の条件でも発生するの」
「それは『魔物がエルフ族、人族、ドワーフ族を殺したとき』と『エルフ族、人族、ドワーフ族が魔物を殺したとき』で合ってるか?」
カルラがジト目で睨んでくる。
「タクミ……なんで知ってるのよ?」
いやいや、知ってるわけないだろ。
魔物が弱いままだと、この計画は成り立たないからな。
「魔物の強さは『魔石』の大きさ。つまり『罪』をどれだけ沢山蓄えられるかに左右される?」
「そうよ。『罪』を沢山蓄えた『魔石』は、大きな『魔石』へと成長するわ」
冒険者ギルドの魔物ランクは、魔石の大きさで決まるからな。
沢山殺して『罪』を吸収した魔物は、どんどん強くなりランクがあがるわけだ。
最後に『瘴気』についても確認しないとな。
「魔物が死ぬと、黒い煙が出て魔石が落ちる。あの黒い煙の正体は『瘴気』ってことだよな? 『瘴気』を外に出さないで魔物を消滅させる方法があるってことか?」
「……なんでそう思ったの?」
「鬼才と呼ばれる『魔王』なら、『赤き贖罪の門』は『瘴気』の問題を根本的に解決する仕組みになっているはずだ」
「魔物は何をエネルギーに動くかわかる?」
「話の流れから『魔石』に蓄えられた『罪』をエネルギーにしているんだろ……もしかして、『魔石』の中の『罪』が無くなると、『瘴気』をエネルギーにするのか? 『瘴気』が無くなると『魔石』だけになるとか」
カルラ、ゲイル、ドワーフ王が目を見開き固まっている。
「……合ってるわ。なんであの説明だけでそんなことわかるのよ!」
やはりか。
『魔王』は永続的に『瘴気』と『魔族以外の種族』をこの世界に出現することを封じようとしたのだ。
魔物は、エルフ族、人族、ドワーフ族を滅ぼした後、『罪』を得られなくなる。
魔物は魔石のエネルギーが尽きた後、自分の『瘴気』をエネルギーにする。
『瘴気』を使い尽くした後、『罪』が空っぽになった魔石を残して消滅する。
新たに『瘴気』が発生したとき、『罪』が空っぽの『魔石』が『瘴気』を吸収し魔物に変化する。
しかし、その魔物は『罪』が空っぽなので、『瘴気』をエネルギーとする。
そして『瘴気』が無くなると、また魔石に戻る。
つまり、永続的に魔物は発生と消滅を繰り返し『瘴気』を浄化するのだ。
エルフ族、人族、ドワーフ族が生き残るのも難しい。
魔物を倒しても、魔物に殺されても『罪』が発生するのだ。
『罪』は魔物を強くする。どんなに頑張って倒し続けても、いつかは自分達より強い魔物になり殺される。
……なんてことを考えるんだ。
後書き失礼します!
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
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