あなたの笑顔をこれからも守っていきます
翌日、目を覚ますとアデル様と目が合った。優しい眼差しで、私を見つめていた。
「おはようございます、アデル様」
「おはよう、ローズ。やっぱりいいね、こうやって朝一番におはようの挨拶が出来るのって。ローズ、もう二度と僕から離れないでくれ!約束だよ」
「はい、分かっておりますわ。これからは、ずっと一緒です」
着替えの為、一旦アデル様は部屋に戻った。今日からまた学院に通う事になっている。久しぶりに袖を通す制服。なんだか懐かしい感じがする。
制服に着替えると、アデル様と一緒に食堂へと向かった。アデル様の話では、離れで2人きりで食事をする事になっていると聞いていたのだが…
「アデル、ローズちゃん、おはよう」
「おはよう、ローズ嬢。昨日はゆっくり休めたかい?」
なぜかアデル様のご両親もいた。
「なぜ父上と母上がいらっしゃるのですか?本宅で食べて下さい!」
「嫌よ、せっかく義娘が出来たのよ。私たちだって、ローズちゃんと仲良くなりたいわ」
「そうだぞ、アデル。ローズ嬢も、人数が多い方が楽しいよな。さあ、早速食べよう。ローズ嬢が好きだという料理を、料理長が作ってくれたよ」
ニコニコと笑いながら、話しかけてくれるアデル様のご両親。この感じ、いいな…なんだか本当の家族になったみたいね。そう思ったのだが、アデル様は納得がいかないようだ。
「父上、母上、ローズが気を遣うでしょう。すぐに本宅に戻ってください!」
珍しく怖い顔をして怒鳴っている。
「アデル様、私は構いませんわ。むしろ、アデル様のご両親に家族と認められた様で嬉しいのです。それに、私はずっと1人で食事をしてまいりました。だから、こうやって大勢で食べられるなんて、幸せですわ」
国に帰ればまた1人の食事が待っていると思っていたけれど、思いがけずアデル様の家族に迎えられたのだ。こんな幸せな事はない。
「でもね、ローズ。僕はローズと2人きりで食事がしたいんだよ。それに、両親と仲良くする必要は…」
「ローズちゃんもそう言っているのだから、いいじゃない。ローズちゃん、改めてグリースティン家へようこそ。近いうちに、正式に婚約を結ばないとね。結婚はやっぱり、学院を卒業するタイミングがいいわ。ティーナちゃんも、もうウエディングドレスの準備を始めたみたいだし、ローズちゃんのドレスも少し早いけれど、どんなものにするか考えましょう。なんだか楽しくなってきたわ」
ウエディングドレスか…なんだか気が早い気がするが、でも楽しそうね。
「私、ウエディングドレスはふんわりとしたデザインで、後ろを長めにしたいと思っておりますの」
「まあ、そうなの?素敵じゃない。それじゃあ、ブーケも長めの方がいいわね。早速来週にでも、見に行きましょう。あっ、でもまだ2年あるのよね。でも、見るだけならタダだし、いいわよね。それから、夫人たちにもローズちゃんを紹介しないと。やる事がたくさんね」
「母上、いい加減にしてください。ローズも話に乗らなくていい。ほら、早く食べないと、学院に遅刻してしまうよ」
確かに久々に登校するのに、遅刻ではまずいわね。それでも、アデル様のご両親と話をしながら、楽しく朝食を頂いた。
食後はアデル様と一緒に馬車に乗り込み、学院へと向かう。
「アデル様、ティーナ様とグラス様は一緒ではないのですか?」
「別々で行く事にしたんだ。どうやらローズにとってティーナは、僕と同じくらい大切な存在みたいだし。兄上もローズとティーナの仲の良さを、面白く思っていないみたいだしね。しばらくは別行動をしようという事になったんだ。ローズ、君は僕の恋人で、近々婚約者になるんだ。僕だけを見ていればいいんだ。わかったね。それから、マイケルが学院にいるが、あまり親しくしてはいけないよ。それに、他の異性の生徒ともだ。あぁ、どうして僕たちは同じクラスではないのだろう。ローズが心配で仕方がない」
「アデル様…そんなに心配しなくても…」
「いいや、君は目を離すといつの間にか、誰かを虜にしているからね。本当に油断も隙も無い。いいかい、今までは僕も我慢していたけれど、もう我慢するつもりはないからね」
どうやら今まで沢山我慢させてしまったそうだ。
「アデル様、今まで我慢させてしまい、ごめんなさい。でも私は6年もの間、アデル様を思い続けておりました。ですから、どうか安心してください。アデル様が喜んでくださるなら、どんな事でもいたしますわ」
ずっとアデル様の幸せを願って来たのだ。これからも、アデル様には笑顔で過ごして欲しいと思っている。
「そうか、それは嬉しいな。それなら、これを」
私の首にネックレスを付けた。このネックレス、見た事があるわ。そう、ティーナ様が付けているものと同じ…
「あの、これって…」
「そうだよ、君の居場所の特定はもちろん、君が見ている風景も僕が見られるようになっているんだ。これで僕は、君を常に近くに感じられるからね。君は盗聴されるのは嫌みたいだったから、映像型にしたんだよ」
にっこり笑って恐ろしい事を言うアデル様。
「あの…アデル様、さすがにこれは…」
「なぜだい?盗聴が嫌だと思ったから、映像にしてあげたのに…それに僕が喜ぶことは、何でもしたいと言ったよね。それからネックレスは絶対に外してはダメだからね。僕は兄上に似て、とっても嫉妬深いんだ」
アデル様がニヤリと笑った。イヤイヤイヤ、映像って、声もバッチリ聞こえるのではなくって?それに、カルミアやファリサといるところを、ずっと見られているのも落ち着かないし。
「あの、友人たちとの会話は、どうかご勘弁を…」
「大丈夫だよ。この機械はね、音は拾えない様になっているから。君たちの会話は聞こえないんだよ。ただ、イヤリングには音を拾える機能も備わっている。もし万が一、君が男と一緒にいたら、その時は音声も拾うからね。それにまた僕に嘘を付いて、マイケルとパフェを食べに行ったり、告白されたりしたら大変だからね。僕、実はあの時の事、まだ根に持っているんだよね」
どうやらマイケル様の事を、まだ怒っている様だ。チラリとアデル様の方を見ると、まっすぐ私を見つめていた。この瞳、“僕に逆らう事は許さないよ”そう言っている様だった。
仕方ない、こんなアデル様でも、私はやっぱりアデル様が好きなのだ。カルミアとファリサには、事情を説明しておこう。
それにしても、アデル様がここまで嫉妬深いなんて。でも…それでも嫌いになれないのは、惚れた女の弱みってやつかしら。
「さあ、ローズ、学院に着いたよ。行こうか」
「はい」
アデル様の手を握り、ゆっくり馬車を降りた。ふとアデル様の瞳を見る。入学式で久しぶりに会ったアデル様の瞳は、絶望に満ちていた。でも今は…
「アデル様、今幸せですか?」
ふと気になった事を聞いてみる。
「もちろん、だってローズが僕の傍にいてくれるからね。ローズがいてくれるだけで、僕は本当に幸せなんだよ」
そう言って笑ってくれたアデル様。
「私もとても幸せですわ。だって、アデル様が笑っていてくれるから。アデル様の笑顔を見ていると、私も嬉しくなるのです。これからもずっと、笑顔でいて下さいね」
「当たり前だろう。ローズが僕の傍にいる限り、僕はずっと笑っていられるよ。これからもずっとね」
今までに見た事のないほど、とびっきりの笑顔を見せてくれたアデル様。その笑顔を見た瞬間、今までの努力が全て報われた気がした。
最初はあなたが笑ってくれるなら、それでいいと思っていた。でも、いつの間にかアデル様が私を愛してくた。
そして、私が傍にいるだけで、幸せと言ってくれた。
だから私は、あなたのその笑顔をこれからも守っていきたい。
永遠に…
おしまい
これにて、完結です。
少し長くなってしまいましたが、最後までお付き合いいただき、ありがとうございましたm(__)m




