アリサお義姉様、ありがとうございます
「う~ん…」
ゆっくり目を覚ますと、窓からは太陽の光が差し込んでいた。まだ少し体がだるいが、昨日よりかは楽になった。そういえば昨日、アデル様と通信しながら眠ってしまったのだった。
枕元にある通信機を手に取る。すると、既に通信は切れていた。
ふと時計を見ると、もうお昼過ぎだ。随分と長い時間、眠っていた様だ。さすがに喉が渇いた。近くに置いてあるコップに水を汲み、ゆっくり飲む。
そして、再びベッドに横になった。
「お嬢様、お目覚めですか?」
やって来たのは、私付きのメイドだ。
「ええ、今目が覚めたところよ。ただ、まだ体がだるくて…」
「まだ熱があるのですわ。どうかゆっくりとお休みください。昨夜はほとんどお召し上がりになりませんでしたので、すぐに食事をお持ちいたします」
そう言って部屋から出て行ったメイド。正直まだ食欲がないのだが…
そう思っていたのだが、メイドが持ってきてくれたのは、ゼリーと野菜スープだ。
「あら?どうしたの?このお料理」
「実は昨日お嬢様があまりお召し上がらなかったのを気にして、アリサ様が大奥様に、お嬢様の好きな食べ物を聞きに行っておられましたわ。それで大奥様に確認して、お嬢様が病気の時に食べていたメニューをご準備されたのです」
「まあ、アリサお義姉様が。そうだったの、嬉しいわ。私、昨日からずっとこのお料理が食べたかったの。それで、アリサお義姉様は?」
「はい、今日は大奥様の通院の日ですので、付き添いで出かけられております」
そうか、今日はおばあ様の通院の日だったわね。アリサお義姉様には、本当に迷惑を掛けっぱなしだわ。
野菜たっぷりのスープを口に含む。美味しいわ、そう、私が求めていたのはこのスープよ。懐かしい味に、あっという間にスープとゼリーを食べきった。
「食欲が戻られたのですね。お替りもありますよ」
「ありがとう、でも、もうお腹いっぱいだわ。なんだか眠くなってきたから、もう少し休むわね」
「はい、ゆっくりとお休みください」
再びベッドに横になり、眠りについた。
そして、次に目が覚めたのは夜だった。どうやら熱も下がった様で、体も随分と楽になった。ただ、まだ食欲が戻らないので、食事は部屋で食べる。もちろん、スープとゼリーだ。食事が終わったと同時に、お兄様とアリサお義姉様、おばあ様が様子を見に来てくれた。
「随分と体調が戻ったみたいだね。ずっと起きないから、心配しだんだよ」
「そうよ、疲れから熱が出たと聞いていたけれど、それでもとても心配したのよ。でも、元気になってよかったわ」
「ありがとうございます。そうそう、アリサお義姉様、今日は私の好きなスープとゼリーを準備してくださり、ありがとうございます。とても嬉しかったですわ」
「喜んで貰えてよかったわ。熱も下がった様だし。でも、無理は禁物よ。ゆっくり休んでね。ほら、皆もローズちゃんが休めないわ」
そう言ってお兄様とおばあ様を連れていくお義姉様。いつも私の事を気に掛けてくれている。
皆が出て行ったあと、湯あみをしてさっぱりさせた。その間に、シーツ等も替えてくれた様で、ベッドも綺麗に整っている。
さあ、もう寝ないとね。そうだわ、アデル様に通信を入れないと。昨日弱音を吐いちゃっちゃったから、正直少し恥ずかしい。でも、きっと心配してくれているはず。そういえば、今日は通信が入った形跡はないわね。もしかして、私がゆっくり眠れるように気を使ってくれているのかしら?
そう思いつつ、通信機を手に取った時だった。
「ローズちゃん、ちょっといい?」
やって来たのは、アリサお義姉様だ。
「ええ、もちろんですわ。どうぞ」
さすがにベッドに入ったままでは失礼と思い、ベッドから出ようとしたのだが。
「そのままでいいのよ。あなたは病み上がりなのだから」
そう言うと、ベッドに腰かけたお義姉様。
「ローズちゃん、アデル様とは、国に残してきた恋人よね。ごめんなさい、昨日のあなた達の通信、たまたま聞いてしまって…ローズちゃんは本当は国に帰りたかったのね。気が付いてあげられなくて、ごめんね」
何と!昨日の会話を、アリサお義姉様に聞かれていたなんて。恥ずかしいわ。
「あの…お義姉様。昨日の会話は、その…体調も悪くて頭が朦朧としていて。それで…」
「ローズちゃん、気を付かなわくていいのよ。あなたがずっと誰かと、通信機で話をしていた事は知っていたのよ。それにあなたはずっと、違う国で生きて来たのですもの。母国には友人や恋人、たくさんの大切な人がいるのよね。どうやらあなたは、この国に永住するつもりで来たみたいではない様だし。そんな中、急にこの国に来て、ずっと一緒に暮らそう、早くこの国に馴染んでね!なんて言われても困るわよね…」
「アリサお義姉様…」
「ローズちゃん、あなたは優しすぎるわ。その優しさに、たくさんの人が救われたのでしょうね。でもね、どうか自分の事を一番に考えて。ねえ、あなたは本当はどうしたい?」
「私は…本当は国に帰りたいです。それに私、おばあ様の容態を確認し次第、すぐに国に帰るつもりだったのです。それなのにお兄様が…おばあ様も私がこの国にずっといると思い込んでいて、とても嬉しそうにしていたので。どうしても言い出せなくて。でも私、本当はアデル様やティーナ様、カルミアやファリサ達に会いたくて。特にアデル様とは、出国する前日に心が通じ合ったばかりで…会いたくて寂しくて、どうしようもなくて…」
瞳から涙が溢れ出す。私、こんなに泣き虫だったかしら?そう思うくらい、涙が溢れる。
「謝らないで、ローズちゃん。私もローランドと離れていた時は、本当に寂しくて気が狂いそうだったもの。気持ちはわかるわ。たった1人で、悩んでいたのね。私の方こそ、気が付いてあげられなくてごめんなさい」
そう言って泣きながら私の背中を撫でてくれたお義姉様。その手が温かくて、落ち着く。
「ローズちゃん、もう大丈夫よ。私からおばあ様に話しをするわ。ローズちゃんは、安心して国に帰る準備をして」
「え…でも…」
「おばあ様だって、ローズちゃんの幸せを誰よりも願っているのよ。きちんと話せば、分かってくれるわ。ただ…たまにはグラシュ国にも遊びに来てあげてね。あぁ…ちょっと言いにくいのだけれど、再来月の私たちの結婚式には、また来てくれると嬉しいのだけれど」
「ええ、もちろん来ますわ。アリサお義姉様、ありがとうございます。でも、おばあ様には明日、私から話をしますわ」
アリサお義姉様にばかり、頼ってもいられない。それにそんな嫌な仕事、お義姉様に押し付ける訳にはいかないし。
「分かったわ、でも大丈夫?」
「ええ、私にはアリサお義姉様という強い見方も出来ましたし。何だか勇気が出てきましたわ」
「そう、よかったわ。ねえ、それでアデル様とはどんな方なの?」
急に話を振って来たお義姉様。私はアデル様との出会いや、ティーナ様の事、マイケル様やグラス様の事などを詳しく話した。
「キャァー!!何それ、下手な恋愛小説より刺激的だわ。それにしても、6年もの初恋が実ってよかったわね。それで、もっと詳しく教えて」
さらに食らいつくアリサお義姉様。結局その日は、夜遅くまで話に花を咲かせたのだった。




