こうしちゃいられない~アデル視点~
やっぱり出ないじゃないか!そう思った時だった。通信機に応答があったのだ。
すぐに出なかった不満をローズにぶつけた。すると、必死に謝るローズ。あれ?なんだか声がおかしいぞ。それに、息遣いも荒い。もしかして、病気か?
僕はローズのちょっとした変化も見逃さないのだ。すぐにローズにその事を指摘すると、何かが切れた様に、泣き出してしまった。
“アデル様…私、疲れが出たみたいで熱が出てしまったのです…みんな本当に良くしてくれるのに、なんだか心にぽっかり穴が開いたみたいで…ごめんなさい。私、アデル様に会いたいです。今すぐ、国に帰りたい…”
今まで溜め込んでいた感情を、一気に爆発させたローズ。よほど溜め込んでいたのだろう、こんなにローズが泣くなんて!
とにかくローズを落ち着かせる。そして、ローズが眠れるように、通信機越しにローズが子供の頃によく聞いていたというオルゴールを流した。
このオルゴールは、かつてローズの専属メイドをしていた女性から聞き出した情報だ。すると、
“アデル様、大好きです…早く会いたい…”
そう呟いたと思ったら、規則正しい寝息が聞こえてきた。どうやら眠った様だ。
「兄上、僕は今すぐ、グラシュ国に向かいます。ローズの本心を知った今、こんなところでゆっくりしてはいられない!ローズがたった1人、異国の地で泣いているのですから!」
ローズが僕を求めて泣いている。こうしちゃいられない、すぐに荷物をまとめ、出発の準備を行う。馬車で向かっていたら3日かかる。早馬なら、1日半で着くな!よし。
「アデル、もう夕方だ。出発は明日に…」
「ローズが泣いているのですよ。そんな悠長な事は言ってられません。しばらく学院はお休みするとお伝えください。悪いがこの家で一番足の速い馬を準備してくれ。今すぐ出たい」
近くにいた執事に指示を出す。
「馬で行くつもりかい?さすがにそれはマズいだろう。馬車で行くんだ」
「馬車で行ったら3日はかかります。とにかく早馬で向かいます。今すぐ父上に話しをしてくるので、これで失礼します」
急いで部屋から出ると、父上の執務室へと向かった。
「父上、失礼します。大切な話があるのですが」
「どうした?アデル。そんなに急いで」
父上も驚いているが、そんな事は知った事ではない。
「ローズが熱を出し、僕を求めています。今から早馬を飛ばして、急いでグラシュ国に向かいます。ローズも一緒に連れて帰ってくるので、よろしくお願いします。それでは、行ってきます」
父上に頭を下げて向かおうとしたのだが。
「待て、アデル。状況が読めん!もっと丁寧に説明してくれ」
父上に止められた。こっちは1分1秒をも争う緊急事態なのに…
仕方がない、今までの出来事を父上に説明した。
「なるほど、それでローズ嬢を迎えに行くというのだな…それにしても、いつも自分の感情に蓋をし、我慢ばかりしていたお前が…令嬢の家に乗り込むなんて、紳士のする事ではないが、まあいい。お前がやりたいようにやりなさい。ただし、無理やり連れて帰ってくるような事はするなよ。ローズ嬢の兄は、両親と違って妹を大切にしている様だから」
「分かっています。きちんと話をしてきますので、安心してください。それでは、行ってきます」
「待て、アデル。帰りにローズ嬢を連れて帰ってくるのであれば、馬車が必要だろう。それに、途中休憩する手配もいるだろうし。何人かの護衛騎士を連れていきなさい。それから、執事に馬車で一緒に向かう様伝えておく。後、通信機も持って行くように。わかったな」
「わかりました。でも僕のペースで進めたいので、どうか邪魔だけはしないで下さいね」
父上の事だ、僕が無理をしない様に、護衛騎士たちに見張らせる気だろう。
「分かっている、とにかく、無理だけはするなよ」
「分かっています、それでは行ってきます」
執務室を出ると、母上と兄上がいた。
「グラスからある程度の話は聞いたわ。早馬でグラシュ国に向かうのですってね。これ、屋敷に着いたら、ローズちゃんのご家族に渡しなさい。いくら何でも、手ぶらでお邪魔するのは失礼でしょう?今大急ぎでメイドに準備させたから、大したものではないけれど」
母上が、手土産を渡してくれた。
「ありがとうございます。母上」
「それにしても、自分の気持ちを押し殺すことが得意だったアデルが、こんなにも感情的に動くなんて。ローズちゃんのお陰ね。アデル、必ずローズちゃんを連れて帰って来なさいよ。私、ローズちゃんと一緒にお茶をするのが楽しみなの。ティーナちゃんやティアも、ローズちゃんの帰りを心待ちにしているのよ」
母上は、そう言うとにっこり笑った。ティーナだけでなく、ティーナの母親までもローズの帰りを待っているのか…
ティーナはともかく、ティーナの母親と母上は強引なところがあるから心配だな。なるべく会わせないようにしよう。
「それでは行ってきます」
最低限必要な荷物だけ持ち、馬にまたがる。残りの荷物は馬車に乗せ、運ぶ予定だ。
「アデル、気をつけて行くんだぞ」
「ローズちゃんによろしくね」
「アデル、頑張れよ」
家族が僕を見送ってくれる。
「ありがとうございます、それでは行ってきます」
一気に馬を走らせた。一刻も早く、ローズの元に向かいたい。待っていてくれ、ローズ。今迎えに行くから。




