お兄様の婚約者に会いました
翌朝、目が覚めるとおばあ様がイスに座り、窓の外を見ていた。そうか、私、グラシュ国に来ているのだったわ。
「おばあ様、おはよう」
「おはよう、ローズ。よく眠れたかい?」
「ええ、ぐっすり眠れましたわ」
「そうかい、よかったわ。さあ、こっちにいらっしゃい。久しぶりに私がローズの髪の毛をといてあげるわ」
私を椅子に座らせると、ゆっくりと髪をとかし始めたおばあ様。
「子供の頃、よくこうやっておばあ様に、髪をとかしてもらっていたのでしたね。なんだか懐かしいですわ」
「そうね、私はあなたの髪をとかすのが好きでね。それにしても、本当にすっかり大きくなったわね」
そう言って私を後ろからおばあ様が抱きしめてくれた。おばあ様のシワシワの手を見ると、なんだか涙がこみ上げてきた。
出来る事なら、おばあ様の傍にずっといたい。今度は私がおばあ様を支えてあげたい。でも…
複雑な感情が私を襲う。
「ごめんなさい、ローズ。私ね、ずっとあなたに会う夢を見ていたの。だから今回あなたに会えたのが嬉しくて…正直夢なんじゃないかって。目が覚めたらローズはいないんじゃないかって、不安になるのよ。本当に歳を取ると、変な事ばかり考えてしまって嫌になるわ」
「もうおばあ様ったら。私はここにいますわ」
本当はずっと傍にいるよ!て、言ってあげたい。でも、今の私には、そんな無責任な事は言えない。
「おばあ様、私、一旦部屋に戻って着替えてきますわ。その後、皆で朝食にしましょう」
「ええ、わかったわ。今日も3人で食べられるのね。本当に夢みたいだわ」
「もう、大げさなのだから。それじゃあ、気を付けて食堂まで向かってくださいね」
そう伝え、急いで自室に戻った。案の定、通信機がヴーヴーなっていた。アデル様からだ。
「アデル様、ごめんなさい。昨日はおばあ様と一緒に寝ていたから、通信に出られなかったのです」
“おはよう、ローズ。そうだったんだね。それにしても、おばあ様と寝るなんて、ローズは甘えん坊だね”
「昔よく一緒に寝ていたもので」
“そうなんだ…それで、いつこっちに帰ってこられそうなんだい?もう僕は、君に会いたくてたまらないよ”
「それが色々とありまして…しばらくは帰れそうにないのです。特におばあ様が、私がこの国に来たことを本当に喜んでいて…それで…」
“ローズは優しい子だからね。きっとおばあ様が心配なんだろう。分かったよ…思う存分、おばあ様孝行をしてあげておいで”
「ありがとうございます、アデル様」
心優しいアデル様は、私の気持ちを汲み取ってくれた様だ。アデル様がそう言ってくれるだけで、なんだか心が軽くなった。
その後少し世間話をして、通信を切った。
急いで着替えを済ませ、3人で食事を済ます。そして、鏡の前に立ち、最終チェックだ。そう、今日はお兄様の婚約者のアリサ様に、初めて会う日なのだ。第一印象は大切、しっかり身だしなみを整えないと。
ソワソワしながら待っていると、メイドが呼びに来た。
「お嬢様、そろそろアリサ様がいらっしゃる時間です」
「わかったわ、すぐに行くわね」
急いで玄関に向かうと、お兄様も待っていた。おばあ様は足が痛いとの事で、一足先に客間にいるらしい。
「お兄様、アリサ様がもうすぐいらっしゃると聞いて、やって参りましたわ。なんだか緊張しますね」
「そんなに緊張する必要はないよ。アリサはいい子だし、それに人懐っこいローズなら、すぐに打ち解けるよ」
お兄様はそう言っているが、本当に打ち解けられるかしら?一抹の不安が私を襲う。
しばらく待っていると、玄関のドアが開いた。
ストロベリーブロンドの髪を腰まで伸ばし、水色の瞳をした女性が入って来た。顔立ちも整っていて、かなりの美人さんだ。
「やあ、アリサ、よく来たね。こっちが妹のローズだ」
お兄様が私の事を紹介してくれた。私も挨拶をしないと!そう思った時だった。
「まあ、あなたがローズちゃんね。ローランドによく似ているわ。可愛いわね!」
ギューギュー私を抱きしめるアリサ様。
「アリサ、ローズが驚いている。離れてやれ」
「あら、ごめんなさい。私ね、ずっとローランドとおばあ様からあなたの話を聞いていたから、なんだか初対面という感じがしなくて。本当に、聞いていた通り可愛らしい子だわ。そうそう、自己紹介しないとね。私はアリサよ。アリサお義姉様と呼んでくれると嬉しいわ。私、弟がいるのだけれど、本当に生意気で。だから、あなたの様な可愛らしい義妹が出来て、本当に嬉しいのよ。あ、でもまだローランドと結婚していないから、未来の義妹ね」
一気に話をするアリサお義姉様。どうやら非常に人懐っこい性格の様だ。
「初めまして、アリサお義姉様。ローズです。私も口うるさい兄しかおりませんので、お義姉様の様な方が出来て嬉しいですわ。それで、兄のどこをどの様に気に入って頂けたのでしょうか?」
「おい、ローズ。誰が口うるさい兄だ!それから、早速変な事を聞くな」
隣でお兄様が怒っている。
「あら、こんなにも綺麗な方が、お兄様と結婚してくださるとおっしゃってくれたのでしょう?お兄様の様な勉強ばかりに熱中している男の、どこを気に入って頂けたのか気になるじゃない」
首をコテンと傾け、お兄様に話した。
「アハハハハ、ローズちゃん、あなた最高ね。いいわよ、教えてあげるわ。せっかくだから、ゆっくり話しましょう。おばあ様は客間かしら?」
「ええ、そうですわ」
「それじゃあ、行きましょう」
私の手を取り、歩き出したアリサお義姉様。
「おい、ちょっと待て」
後ろからお兄様も慌ててついてくる。アリサお義姉様が、いい人そうで良かったわ。




