また勝手な事を
「ローズ、おばあ様もそろそろお開きにしよう。明日からずっとローズはいるのだから、今日そんなに話さなくてもいいだろう」
「そうだね、つい懐かしくて話し込んでしまった。そうだ、今日は久しぶりにローズと一緒に眠ろうかしら?ローズは甘えん坊で、よく私の布団に潜り込んできていたわよね」
そう言っておばあ様がクスクス笑っている。
「おばあ様、私はもう14歳になったのですよ。1人で寝られますわ。でも…おばあ様がどうしてもとおっしゃるなら、一緒に寝てもいいですよ」
「本当かい?それは嬉しいね。そうかい…もう14歳になったのかい。月日が経つのは早いね」
なんだかしんみりした空気になってきた。
「それでは急いで湯あみをして準備をしてきますので、おばあ様はお部屋で待っていて下さいね。おばあ様のお部屋は、私の部屋の隣の隣ですよね?」
「ああ、そうだよ。そうそう、明日はローランドの婚約者の、アリサちゃんも来てくれることになっているんだよ。ローズにも紹介しないとね。ねえ、ローランド」
「そうだね、ローズに会うのを、アリサも楽しみをしているよ。きっと仲良くなれるよ」
お兄様の婚約者は、アリサ様という様だ。
「私もアリサ様に会えるのを、楽しみにしておりますわ」
つい笑みがこぼれる。こうしちゃいられないわ。今日は早く寝て、明日に備えないと。寝不足の顔では、会えないものね。
急いで自室に戻ると、通信機がヴーヴーなっている事に気が付いた。アデル様からだわ!急いで通信機を手に取る。
“ローズ、今まで何をしていたんだい?何度も通信機を鳴らしたんだよ。それなのに、全然でないし。事故にでもあったのではないかと、心配したんだからね”
「ごめんなさい、アデル様。今まで家族3人で食事をしていて。それで、通信機に出る事が出来なかったのです」
“通信機は肌身放さず持っていてくれと、伝えたと思うのだが…まあいい、家族3人とは、どういう事だい?君のおばあ様は、入院しているのではないのかい?”
「それが、ちょっと転んだだけだったみたいで、入院も念のために1日だけだったみたいですわ」
“そうだったんだね。よかったね、おばあ様が大したことなくて。それじゃあ、すぐにこっちに戻ってくるのだろう?”
「ええ…そうですわね…ただ、おばあ様が随分と弱っていらして…少し様子を見てから帰ろうと思っておりますの」
“そうか…ローズは優しいからね。分かったよ…でも…僕も寂しくてたまらないから出来るだけ早く…”
「ローズ、ちょっといいかい?」
この声はお兄様だわ。アデル様の声を被せる様に、ドア越しにお兄様の声が聞こえた。
「ごめんなさい、アデル様。お兄様が来たみたいなの。また明日連絡をしますね」
“あ…待って…”
アデル様がまだ何か言いかけていたが、急いで通信機を切り、ドアを開けた。
「お待たせしました」
「今誰かと話をしていた様だが?」
「気のせいですわ。それで、どういったご用件ですか?」
とりあえずお兄様を部屋に招き入れた。
「実は、ローズの事、おばあ様には“ローズはずっとこっちで暮らす”と伝えてしまっていてね。ほら、おばあ様も歳のせいか、随分とローズを恋しがっていて…」
「ちょっとお兄様、いくらおばあ様が寂しがっていたとしても、どうしてそんな嘘を伝えたのですか?私はしばらく様子を見たら、国に帰るつもりでいるのですよ」
本当にこの人は!
「分かっているよ。でも、これからはずっとローズと暮らせると思っているおばあ様を見ていたら、本当の事を言い出せなくてね。すまないが、しばらくは居てやってくれないかい?そうだ、学年末休みまでいたらいい。2年生のタイミングで、国に帰ればいいだろう」
「お兄様、学年末休みまで、まだ2ヶ月以上あるのですよ。そんなに長い期間、学院をお休みできません!とにかく、おばあ様には私から話しますわ」
さすがにそんな長い時間、学院を休むわけにはいかない。それに、アデル様ともその間ずっと離れ離れになってしまうし…
「わかったよ、そんなに怒らなくてもいいだろう。そうだ、期間限定でラーディエンス学院に通ってはどうだい?ローズは俺の妹だ。ラーディエンス学院が気に入るかもしれない。そうしたら、編入すればいい」
また勝手な事を…
「お兄様、いい加減に…」
「どうしたんだい?ローズもローランドも大きな声を出して。外まで響いていたよ」
杖を突きながら心配そうな顔で部屋に入って来たのは、おばあ様だ。
「何でもないよ。ローズにラーディエンス学院に通う様、提案していただけだから」
「まあ、ラーディエンス学院にかい。それはいい考えじゃないか、ローズ。あそこなら来年からローランドもいるし。ねえ、ローズ、そうしたらいいじゃない」
「あの…おばあ様、私はラーディエンス学院には通うつもりはありませんわ。それに私は…」
「そうかい…それは残念だね。でも、学院に通わなくても、ローズは十分優秀だからね。それにずっと独りで頑張って来たんだから、しばらくはこの国でゆっくりしたらいい。落ち着いたら、自分のやりたい事を見つけたらいいわ」
無邪気な笑顔でそう言われたら、これ以上は何も言えない。
「わかったわ、おばあ様。実は私、まだ湯あみをしていないの。すぐに湯あみをしてから、おばあ様の部屋に行くわ。お兄様、おばあ様を送ってあげて」
「ああ、わかったよ」
お兄様に支えられて、ゆっくりと部屋から出ていくおばあ様。私がこの国に来たことを、あんなにも喜んでくれているおばあ様を見ていたら、どうしても言えないわ。国に帰りたいなんて…




