マイケル様に話をしました
家に入ると、執事が飛んできた。
「お嬢様、今何時だと思っているのですか?友人たちに報告に行くだけとおっしゃっていたではありませんか?」
「ごめんなさい…ちょっと色々とあって…」
「しばらく国を離れるのですから、募る話もあるでしょう。それにしても遅すぎます。とにかく、早く夕食を食べて下さい。明日の準備は、メイドたちで行いましたので」
「あら、もう準備をしてくれたの?ありがとう。そういえばまだ夕飯を食べていなかったわね。急いでいただくわ」
なんだか胸がいっぱいで正直食欲はない。でも、せっかく準備をしてくれているのだから、食べないとね。
急いで食堂に向かい、食事を済ます。自室に戻ると、執事の言った通り、洋服などは全てスーツケースに詰められていた。後は個人的に持って行きたいものを詰めたら問題なさそうだ。
湯あみをして、急いで必要なものを詰めていく。ティーナ様とお揃いで買ったブレスレットもカバンに入れる。よし、準備完了だ。明日は朝早くにアデル様がいらっしゃる予定だから、絶対に寝坊は出来ない。
ベッドに潜り込み、瞳を閉じたのだが…なぜかアデル様の顔が浮かぶ。そして、今日の出来事が走馬灯の様に蘇った。
私、アデル様と気持ちが通じ合ったのよね。それから抱き合って何度も何度も…キャァァ!恥ずかしすぎるわ。おばあ様の事が心配なはずなのに、アデル様の事ばかり考えてしまう。
私って婆不幸者ね。とにかく早く寝ないと!必死に瞳をとじ、なんとか眠りについたのであった。
翌日、いつもより早く起き、準備を行う。せっかくアデル様と心が通じ合ったのに、しばらくお別れなのよね…
て、私は何を考えているのかしら?おばあ様が一大事という時に。それに今から、マイケル様にアデル様との仲を報告しに行くというのに。とにかく、急いで準備しないと!
ワンピースに着替え、朝食を摂る。ちなみに今日のワンピースは、青色だ。アデル様の瞳をイメージして選んだ。
「お嬢様、随分と準備を早く終えたのですね。出発はまだですよ」
不思議そうに執事が話しかけてきた。
「ええ…ちょっと出かけてくるわ。昨日挨拶が出来なかった人がいるから」
「そうなのですね。承知いたしました。しかし、あまり長居はお控えください」
「分かっているわ。それじゃあ、ちょっと行ってくるわね」
とりあえず外に出て、アデル様を待とうと思ったのだが。ちょうどアデル様を乗せた馬車がやって来た。
「おはよう、ローズ。そのワンピース、とてもよく似合っているよ」
そう言うと、アデル様が私を抱きしめた。やっぱりアデル様の腕の中は、温かくて落ち着くわ。でも、ゆっくりはしていられない。
「おはようございます、アデル様。今日はわざわざ来ていただき、ありがとうございます。時間もありませんので、そろそろ参りましょう」
2人で馬車に乗り込み、マイケル様の家へと向かう。マイケル様は朝早く学院に行き、稽古をしている。もし家にいなかったら、学院に行くしかないわね。
そんな事を考えていると…
「ローズ、今マイケルの事を考えているね?僕はね、兄上に似て嫉妬深いんだ。あいつの事を考えるのは止めて欲しい。本当は今日だって、ローズをマイケルなんかに会わせたくないんだよ」
笑顔だが目が笑っていないアデル様が、こっちをじっと見つめている。その瞳、怖いわ…
「ごめんなさい、マイケル様がいらっしゃるか心配になって」
「ああ、その点は大丈夫だよ。昨日の夜、使いを出しておいたから」
「まあ、それは本当ですか?ありがとうございます」
さすがアデル様、抜かりない。
そうこうしているうちに、マイケル様のお屋敷に着いた。
「あれ?ローズも一緒なのかい?2人で訪ねてくるなんて…まあいいよ、入って」
マイケル様が客間に案内してくれた。2人並んで座る。
「マイケル様、実はグラシュ国にいる祖母が怪我をしまして、急遽今日、グラシュ国に向かう事になったのです。それで、マイケル様にどうしても伝えたい事があって…」
「おばあさんがかい?それは大変だね。それでわざわざ我が家に尋ねてきてくれたのかい?」
「いえ、それだけではありません。実は昨日、アデル様と心が通じ合い、付き合う事になったのです。ですから、その報告をと…マイケル様の気持ちにお答えできずに、申し訳ございません。でも、私はアデル様が好きなのです。どうか私たちの事、見守って頂けると嬉しいです」
マイケル様に向かって頭を下げた。
「…そうか…やはりローズは、アデルが好きだったんだね。なんとなくそんな気がしていたよ。でも…アデルはヘタレだから、君に告白出来ないだろうと踏んでいたのだが…ついに告白したんだ…」
なんと!マイケル様は、私がアデル様の事を好きという事に気が付いていたとは!アデル様も同じことを思ったのか
「マイケル、ローズの気持ちを知っていたのですか?それにしても、ヘタレは失礼でしょう」
「ヘタレだからヘタレと言ったまでだ。俺はずっとローズを見てきたからね。でも…付き合ってしまったものは仕方がない。ローズ、幸せになるんだよ…アデル、ローズを泣かせたら承知しないからな!」
そう言うと、少し寂しそうに笑ったマイケル様。
「ありがとうございます、マイケル様」
「それから、これからも友達でいてくれるかい?万が一アデルの事で不満があれば、俺がいつでも相談に乗るよ」
「はい、もちろ…」
「どうしてローズがまだ君と、これからも友達でいないといけないのですか?第一、ローズの事をまだ諦めきれていない男を、ローズの傍になんておけるわけがないだろう!」
私の肩を抱き、すかさず反論するアデル様。
「はぁ~、嫉妬深い男は嫌だね…ローズ、アデルが嫌になったら、すぐに俺のところにこればいい。俺が守ってあげるからね」
「だから、ローズは僕の恋人だ!絶対に何があっても、君の元に何て行かせないからな」
「そんなに嫉妬深いと、ローズに嫌われるぞと言っているんだ!」
「何ですって!」
「何だ、やるのか」
結局言い争いを始めてしまった2人。でも…この2人のいつもの風景をみていると、なんだかホッとするのはなぜだろう…




