俺の気持ち~マイケル視点~
「マイケル、そんなに気にする事はない。お前はローズ嬢にきちんと謝罪して、許してもらったのだろう?」
「そうよ。ローズ嬢のお兄様も、きっと妹可愛さにああいっただけよ」
パーティーの帰りの馬車の中、俺を慰めてくれる両親。確かにローズは許してくれた。でも、ローズの兄上に嫌われていては、意味がない。なぜなら俺は、ローズが好きだからだ。可能であれば、ローズと結婚したいと思っている。だから、ローズの家族に嫌われる訳にはいかない。
家に帰って来てからも、出るのはため息ばかり。
そもそも、俺とローズの出会いは最悪だった。俺の振り払った剣が、ローズの額を切りつけたのだ。大量に血を流し倒れるローズを見た瞬間、生きた心地がしなかった。
俺はこの令嬢の命を…そう考えただけで、震えが止まらなかった。ただ、幸いなことにローズはあの後すぐに目を覚ましたとの事。本当はすぐにでもお見舞いに行き、謝りたかったが、翌日には退院するとの事で、謝罪は翌日行く事にした。
両親からは“私たちも一緒に行く”と言われたが、これは俺が起こした失態だ。だから、1人で行く事を両親に伝えた。
正直ローズに会うのが怖かった。令嬢の顔に傷をつけたのだ。きっと怒り狂われるだろう。でも、それも仕方がない事だ。そう腹をくくり、ローズに会いに行った。でも、予想に反し彼女は非常に穏やかだった。さらに
「どうかあまり気にしないで下さい。この変な前髪はそのうち伸びますし、傷も痕は目立たないと言われております。それに、私も剣が飛んできた時、上手くよけられなかったも原因ですし」
そう言って前髪を掴み、ヘラっと笑ったのだ。あれほどまでに酷い傷を負わされた相手に、こんな風に接する事が出来るなんて。どうやらこの子は、誰かを憎んだり恨んだりすることを知らない様だ。
本当に優しさの塊の様な令嬢だ。それに、穏やかに俺にほほ笑むローズを見ていたら、何とも言えない気持ちに包まれた。
この子の笑顔を、これからも俺の手で守っていきたい。この子と共に、この先の人生を歩んでいきたい。そう思った。こんな気持ちは、生まれて初めてだ。
それからと言うもの、俺はローズに猛アピールをした。天敵であるグラスに邪魔されることもあった。さらにグラスの弟のアデルもローズにまだ未練がある様で、ある日を境にローズに猛烈に絡む様になってきた。
自分から別れを切り出したくせに、図々しい男だ。
とにかくアデルに負けたくなくて、必死にローズにアピールした。でも、ローズは非常に鈍い。全然俺の気持ちに気が付いてくれない。どうやら俺の事を、本当に友達としか思っていない様だ。
そんな中、学院主催のパーティーに参加するため、隣国から兄上が帰国していると聞いた。ローズが俺を全く意識をしていないなら、兄上を味方につけようと思ったのだが…
生憎このありさまだ。きっと近々ローランド殿はグラシュ国に戻るだろう。それまでに、なんとかしないと…このままでは、絶対にいけない。
そうだ、こんなところで落ち込んでいる場合ではない。明日もう一度、ローランド殿に会いに行ってみよう。
翌日、授業が終わると、すぐにローズの家へと向かった。多分ローズは今日もティーナ嬢たちとお茶をしているだろう。本当は俺も乱入したいが、生憎今日はローランド殿と話がしたいのだ。きっと一筋縄ではいかないだろう。それでも、やれるだけの事はやりたい。
そんな思いで、ローズの家へと向かった。
俺が会いに行くと、客間に通してくれたローランド殿。
「それで、今日は何の用だい?」
「はい、昨日の続きを話したいと思いまして。本当にローズの怪我の件、申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げた。
「どうか頭をあげてくれ。昨日、家の執事に改めて話を聞いたよ。君はすぐにローズに謝罪に来たらしいね。そしてローズが自宅待機をしている間、毎日お見舞いに来てくれたそうじゃないか。そもそも、君と打ち合いをしていた相手は、一度も謝罪に来ていないらしい。その事を考えても、君が誠実な人なのだろうという事はわかったよ」
昨日とは打って変わって、穏やかな表情のローランド殿。
「それでも、私がやった事は許される事ではありません。ですから、もう一度きちんと謝りたいと思い、今日謝罪に来ました」
ローランド殿の瞳を見て、はっきりと告げた。すると、何かを考えている様なしぐさを見せるローランド殿。
「…君は、ローズの事が好きなのかい?」
急にそんな事を言いだしたのだ。一瞬戸惑ったが
「はい、ローズを愛しています」
ローランド殿の瞳を真っすぐに見て伝えた。
「そうか…グリースティン家のアデル殿も、ローズに気がある様だね。実はローズには“学生の家は色恋は早い”と伝えてあるんだよ。ローズは令嬢だ、万が一取り返しのつかない事になったら大変だからね」
「私は、そんな不誠実な付き合いは絶対にしません!」
「そうだろうね…君の真っすぐな瞳を見ていると、そんな気がするよ。ただ、やはり兄としては、妹の恋の話は聞きたくないし、妹が悲しむ姿も見たくない。だから、どうかがっかりさせるような事は…しないで欲しい…」
そう言うと俯いてしまった。きっと兄として、妹が誰かと付き合ったりすることは、嫌なのだろう。それでもローランド殿なりに、譲歩してくれている様だ。
「ありがとうございます。ローズに振り向いてもらえるかどうかわかりませんが、精一杯頑張ります」
ペコリとローランド殿に頭を下げた。そんな俺を見て、苦笑いをしているローランド殿。やはりローズの兄だけの事はある。大切な妹を怪我させた憎き相手でもある俺の事を、わざわざ執事に聞き、歩み寄ってくれるなんて…
ローランド殿の期待を裏切るような事だけは、絶対にしない。そう心に誓った。
ただ…ローズは非常に鈍い。俺の気持ちに、まずは気付いてもらうところから始めないといけないな!




