お兄様がパーティーに参加してくれるそうです
急いで着替えを済ませ、お兄様の待つ食堂へと向かった。
「お待たせしてごめんなさい。さあ、早速頂きましょう」
向かい合わせに座り、2人で食事を開始する。こうやって家族と食事をするのは、本当に久しぶりだ。やっぱり家族っていいわよね。
和やかな空気の中、食事がスタート…と思いきや
「ローズ、その傷は一体どうしたんだい?縫った様な痕があるけれど」
私のおでこを見たお兄様が、血相を変えて飛んできた。
「あの…これはちょっと学院内で剣が飛んできまして、それで怪我を」
「剣だって?何をどうすれば剣が飛んでくるんだ?あの学院はそんな恐ろしいところなのか?ローズではらちが明かない。すぐに執事を呼んでくれ」
近くにいたメイドに指示を出すお兄様。すぐに執事が飛んできて、事故の事を丁寧に説明している。私の出血が多すぎて一時的に意識がなくなった事や、1泊ではあるが入院した事まで、ご丁寧に説明している。
「そんな大けがを負ったのか!どうしてすぐに知らせてくれなかったのだ?ごめんね、ローズ、女の子なのにこんな傷を負っただけでなく、怪我で心細い中、ずっと1人で過ごさせてしまって…」
そう言うと、お兄様が私の頭を撫でながら何度も謝ってくれた。
「大丈夫ですわ。毎日友人たちがお見舞いに来てくれましたし。傷自体も、そこまで大したことはありませんでしたのよ」
「何が大したことがないだ。意識を失い、入院までしたというのに。そもそも、その怪我をさせた男はどこのどいつだ!一言文句を言ってやらないと気が済まない!」
段々とお兄様がヒートアップしていく。この分じゃあ、マイケル様のお宅に怒鳴り込みに行きそうだ。
「相手方からは丁寧な謝罪と多めの治療費は頂きました。それに、相手の方はとても誠実な方でした。もう解決した事ですので、今更蒸し返すのはどうかと思いますわ。さあ、早く夕食にしましょう。せっかくのお料理が冷めてしまいますわ」
まだ不満そうなお兄様をなんとかイスに座らせ、食事を開始した。
「お兄様、急にお帰りになるだなんて、何かあったのですか?おばあ様はご一緒ではないのですか?」
「ああ…その事なのだが、君の執事が1週間ほど前に、学院主催のパーティーがある事を教えてくれたんだよ。きっと両親は参加しないだろうから、俺に参加して欲しいって。グラシュ国に留学してから、一度も国に帰っていなかったし。ローズの様子も気になったから、パーティーに参加しがてら様子を見に帰って来たのだ。おばあ様は最近足腰が悪くて、長旅は厳しいから置いて来た。ローズの事を、かなり心配していたぞ」
「それでわざわざ帰って来てくださったのですね。ありがとうございます。でも、パーティーは来月ですよ。それにおばあ様を1人残しておくなんて、心配でしょう。私の事は心配いりませんので、どうか国に帰ってください」
足腰が弱っているおばあ様を1人残しておくなんて、やはり心配だ。パーティーは私1人でも参加できる様、皆が気を使ってくれている。だから、お兄様がいなくても大丈夫だと思ったのだが…
「何を言っているんだ!6年ものあいだ、ローズに寂しい思いをさせて来たのだ。1ヶ月くらいどうって事はない。それに、おばあ様も足腰が弱いだけで、元気だから問題ないよ。とにかく、ローズが普段どんな生活をしているのか、しっかり見させてもらうからな。出来ればローズを、グラシュ国に連れて帰りたいと思っている。やっぱり年頃の娘を1人残しておくのは、心配だからな」
そう言われてしまった。お兄様なりに私を心配してくれている様だ。それにしても、まだ私をグラシュ国に連れて帰ろうと思っていたのね。以前からグラシュ国に来るように再三言われていたのだが、のらりくらりとかわしていたのだが…
「お兄様、私はこの国が好きなのです。この国には友人もおりますし、何より学院をきちんと卒業したいと思っておりますわ」
「そうはいっても、父上も母上もローズを放ったらかしではないか。おばあ様もずっと君の事を心配しているのだぞ」
「とにかく、私はグラシュ国には行きませんから。この話しはおしまいです」
お兄様にそっぽを向いた。
「わかったよ。とにかく学院のパーティーが終わるまでは、俺もここにいるからそのつもりで」
苦笑いのお兄様。
その後は溜まっていた6年分の出来事を、それぞれ話した。お兄様は長年必死に勉強をして来たことが実を結び、来年から教授になるらしい。その為、教授として働くまでは、少し時間に余裕が出来たとの事。その点もあって、帰国してきたらしい。
この国にいた時から、いつも一生懸命勉強をしていたものね。
おばあ様はここ数年ですっかり足腰が弱くなり、杖がないと歩けないとの事。特に最近は、私に会いたいと涙を流すこともあるらしい。
「ローズ、一度おばあ様に会いにきてやれ。どうやら歳のせいで、最近は弱音を吐く事が多くてな。君の顔を見れば、おばあ様も少しは元気になってくれるだろう」
「まあ、おばあ様ったら、そんなに弱気になってしまわれているのですか?わかりましたわ。1ヶ月近く休みがある学年末休みを利用して、グラシュ国に遊びに行きますわ」
「ああ、そしてくれると助かるよ。ローズ…しつこい様だが、この国の学院にこだわる必要は無いんだよ。グラシュ国は本当に勉学が盛んな国で、この国いるよりもずっと、色々な事を学べる。君の好きなスイーツのお店も沢山あるぞ。そうそう、ミルフィーユやティラミスといったケーキもあるんだ。とても美味しんぞ」
「まあ、そうなのですね。ではグラシュ国に遊びに行った時は、是非頂きますわ。でも…やはり私は、この国が好きなので…」
大好きなお兄様やおばあ様がいるとわかっていても、やっぱり私はこの国が好きだ。だから、この国から出るつもりはない。
「ローズは本当に頑固だね。誰に似たのだか…」
そう言ってお兄様がため息を付いている。
「あら、頑固なところはお兄様に似たのですわ。両親の反対を押し切って、グラシュ国に留学したこと、もう忘れちゃったのですか?“俺は何が何でもグラシュ国に行くんだ!”て言って」
「そんな事もあったね。懐かしいな」
確かに懐かしい。
やっぱりお兄様との話は楽しくて、時間が経つのも忘れ、つい話に花を咲かせてしまったのであった。




