お兄様が帰ってきました
「ローズ、朝からアデル様と登校なんて、随分と仲良しね。それより、パーティーの件どうだった?」
休み時間、カルミアとファリサが私の元にやって来た。
「もう、人をからかわないでよ。昨日お母様に話しをしたのだけれど、やっぱり仕事が忙しくて出席するのは無理みたい」
「そっか…それじゃあ、先生に1人で参加できるように頼みに行きましょう。私たちからも、しっかり頼んであげるから」
「ありがとう。でも大丈夫よ。実は今朝、アデル様に今回の件を話したら、先生に話してくれて。それで1人でも参加できるようになったの。先生の話では、毎年何人かの生徒は、1人で参加しているのですって」
「アデル様が既に動いてくれていたのね。よかったわね、ローズ。最近随分とアデル様との距離を縮めているみたいじゃない。マイケル様とも相変わらず仲良しだし。それで、ローズはどっちと付き合うつもりなの?」
相変わらず訳の分からない事を言うファリサ。もう、この子ったら!
「変な事を言うのは止めて!いい加減にしないと怒るわよ」
「ごめんごめん。とにかくローズが参加できると聞いてよかったわ。当日は私たちも極力一緒にいるようにするから、安心して。もし万が一、親が来ていない事でローズの事を悪く言う人がいたら、私達が懲らしめてやるからね」
なんだかんだ言って、私の事を心配してくれる2人。彼女たちにも、助けてもらってばかりね。アデル様といい、カルミアやファリサといい、本当に私は、周りの人に恵まれているわね。つい頬が緩む。
そしてお昼休み、いつもの様にマイケル様が勉強を教えに来てくれた。
「ローズ、今度のパーティーは、母上がくるのかい?父上がくるのかい?」
「えっと…」
「ローズのご両親は忙しいから、1人で参加するそうですよ。でも、僕がずっと傍にいるつもりなので、どうかローズの事は気にしないで下さい」
なぜか隣にいたアデル様が即答している。
「そうなのかい?それなら俺も一緒にいるよ。皆でいた方が楽しいだろう。知っているかい?パーティーのときに出される料理は、かつて王宮で料理長をしていた人が作ってくれるんだ。とても美味しいから、一緒に食べよう」
「まあ、そうなのですか?それは楽しみですわ」
正直憂鬱でしかなかったが、なんだかパーティーが楽しみになってきた。
さらに放課後、ティーナ様もパーティーのとき、傍にいてくれると言ってくれた。それに対して、なぜかティーナ様をアデル様がジト目で睨んでいたが…その点は見ない事にした。
それにしても、皆が私に気を使ってくれる。なんだか申し訳ない気持ちもあるが、それ以上にやっぱり嬉しい。
中には親が来ていない事で、陰口を叩く人もいるだろう。でも、こんなに気を使ってくれる仲間がいるのだ。そう思ったら、言いたい人には言わしておけばいい!という気持ちになる。
結局夕方近くまでティーナ様と話し込んでしまい、少し帰りが遅くなってしまった。アデル様が家まで送ってくれると言ったが、アデル様の帰りが遅くなってしまうので丁重にお断りし、1人馬車に乗り込んだ。
学院に向かう時はあんなに気が重かったのに、今はすっかり気持ちが軽くなった。これも皆のお陰だ。
つい鼻歌を歌ってしまう。屋敷に着くと、足取り軽やかに馬車を降りたのだが…
「ローズ、こんな遅い時間まで、一体誰とどこで何をしていたんだ!今学院に使いを向かわせようとしていたのだぞ!」
外で仁王立ちをしていたのは、なんと隣国にいるはずのお兄様だ。
「お兄様、一体どうしてここにいるのですか?」
「ここは俺の家だ!帰って来ても不思議ではないだろう。よれよりも、こんな遅くまで帰ってこないだなんて!」
どうやらご機嫌斜めな様だ。色々と聞きたい事があるのだが、とりあえずお兄様の怒りを収めるのが先決ね。
「今日は友人と学院でお茶を楽しんでおりましたの。少し話が弾んでしまい、申し訳ございませんでした」
素直に謝る事にしたのだ。これで機嫌が直ってくれるといいのだが…
「君はまだ13歳なんだぞ。相変わらず父上も母上もろくに家に帰って来ていない様だし。いいかい?両親が家にいないからって、あまり遅くなるのは良くないよ。これからは気を付ける事。わかったね」
「ええ、分かりましたわ」
「分かってくれたらいいんだ。さあ、もう外は真っ暗だ。早く屋敷に入ろう。久しぶりにこの国に帰って来たのだ。今日は兄妹水入らずで、ゆっくり晩御飯を食べよう。積もる話もあるだろうし」
いつもの優しいお兄様に戻った。よかったわ。まさかお兄様が家に帰って来ているなんて。そもそも、帰ってくるなら手紙や通信機で、連絡をくれてもよかったはずなのに…
そう思いつつも、やはりお兄様が帰って来てくれた事は喜しいわ。




