学院主催のパーティーがあります
怪我が完治して、1ヶ月が過ぎようとしていた。傷もお陰様で随分と薄くなってきた。やつれ切ったアデル様も、すっかり元に戻り、最近では毎日楽しそうに過ごしている。
ただ、なぜか私によく絡んでくる。ティーナ様と何かあったのだろうと思っているが、未だに聞き出せずにいる。それでも本人が幸せそうなので、まあいいかと、そっとしておいているのだ。
そしてマイケル様のお昼のお勉強は今でも続いている。すっかりクラスの先生になったマイケル様。なぜかアデル様まで参加して、皆でワイワイ勉強している。いつの間にか、クラスメートとも仲良くなれて本当によかった。
元々世話焼きタイプのマイケル様は、色々と世話を焼いてくれる。本当にお兄様みたいだ。
今は昼食後の勉強タイムが終わり、午後の授業が始まろうとしている。しばらくすると、先生がやって来た。
「午後の授業の前に、報告がある。来月、学院主催のパーティーが開催される。年に一度の盛大なパーティーだ。このパーティーは、子供同士の交流はもちろん、親同士の交流も出来る貴重な場だ。いいな、必ず親と一緒に参加する様に。詳しい事は、今から配る資料を読む様に」
学院主催のパーティーですって!それも親同伴!そんな…無理よ、家の親は絶対に参加してくれないわ。でも、親同伴じゃないと参加できないのよね…
どうしよう…
「ローズ、大丈夫?もう授業終わったわよ」
声を掛けてきてくれたのは、カルミアだ。隣には心配そうな顔のファリサもいる。どうやら頭が真っ白になってしまい、授業が終わった事にすら気が付かなかったようだ。
「もう20年も前に貴族制度は廃止されているのに、まだパーティーがある何てびっくりよね」
「貴族制度が廃止されたとは言っても、実質まだ所々で貴族時代のしきたりやルールは残っているのだから、仕方がないんじゃない?それでローズ、あなたどうするつもり?お父様かお母様は来てくれそう?」
「一応話はしてみるけれど…多分来てくれないと思うわ。私が怪我をした時ですら、来てくれなかったのだから…もし来てもらえなかったら、パーティーは欠席でもいいかしら?」
きっと親が来ない私は、また好奇な目に晒されるだろう。それに先生も、親に必ず参加してもらえって言っていたし…
「別に親が来られない場合は、1人で参加でもいいのではなくって?ねえ、隣国にいるローランド様やおばあ様は来てはくれないの?」
「隣国までは馬車で3日かかるのよ。私のパーティーの為に、お兄様やおばあ様にそんな大変な思いをしてもらって来てもらうなんて、申し訳ないわ。それにお兄様はとても忙しい人だし…」
きっとお兄様やおばあ様なら頼めば来てくれるだろうけれど、2人に迷惑はかけたくはない。
「そう…ごめんね、私たち、力になれなくて」
シュンとするカルミアとファリサ。いけない、つい暗くなってしまった。
「もしかしたらお母様が来てくれるかもしれないし、一応頼んでみるわ。それに私、パーティーとかって苦手だし、不参加なら不参加で、それでもいいと思っているの。だから、気にしないで」
極力笑顔でそう伝えた。とはいえ…お母様が来てくれるかしら?
重い足取りで屋敷に帰って来た。お母様に連絡をするため、通信機を取り出す。でも…どうしても通信ボタンを押すことが出来ない。
結局その日は、お母様に連絡をする事が出来なかった。そんな日々が1週間ほど続いたある日。
さすがにもう連絡を入れないとね。意を決して、通信機を取り出す。震える手で通信ボタンを押した。
プルルルル
“ローズ、一体どうしたの?今度は何?”
「お母様、お久しぶりです。あの…実は来月、学院で親参加のパーティーがあって、もし可能なら、お母様に出て欲しいなって思って…」
“パーティー?あぁ、そういえばそんな面倒なものがあったわね。私は仕事で今海外に出ているか無理よ。ローランドかおばあ様にでも頼みなさい”
やっぱりそうよね…予想はしていたが、こんなにあっさり言われるとショックね…
「わかりましたわ。お忙しいのに、ごめんなさい」
“それで怪我の方はどうなの?”
「ええ、お陰様でほとんど痕は残っておりませんわ」
“そう、それはよかったわね。あなたは少しどんくさいところがあるから、気を付けなさい。全く誰に似たのだか…それにしてもあの学校の先生、一体どういうつもりなのかしら?お金を振り込むって言っているのに(娘さんが心配じゃないのですか?そんなにお仕事が大切ですか?)て、私に説教をしてきたのよ。本当に感じが悪い事この上ないわ。”
「そうでしたか…それはイヤな思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした…」
“別にあなたに謝って欲しい訳ではないのよ。とにかく、これ以上面倒ごとは持ってこないでちょうだいね。それじゃあね”
ツーツー
通信が切れてしまった。
予想通りだったわね…
お母様はいつも仕事が優先。私の事なんて、どうでもいいのよ…
そもそも、そんなに仕事が大切なら、どうして婚約破棄しなかったのかしら?いくら当時まだ貴族制度が色濃く残っていたとしても、突っぱねればよかったじゃない。
気が付くと、涙が溢れていた。泣いても仕方がないのに、次から次へと涙が溢れてくる。
そうか…私、少しだけお母様に期待していたのか。もしかしたら、“学院の事だものね。いいわ、仕事の調整をして参加するわ”と、言ってくれるのではないかと…
でも…
子供の頃からずっとそうだった。お母様が私の事を優先してくれた事なんて、一度もなかったのに…もうすっかり諦めていたはずなのに…それなのに私ったら、また期待しちゃってバカみたい…
結局気持ちが落ち着くまで、しばらく泣き続けたのだった。




