アデル様を悲しませてしまった様です
頭がボーっとする…
なんだか周りが騒がしい…
私、どうしたんだっけ?
ゆっくり瞼を持ち上げる。
「ローズ、目が覚めたんだね」
「ローズ様!!」
ギュッと誰かに抱きしめられた。この人は…ティーナ様?
そうか、思い出した。私は学院で怪我をしたのだった。それで、おでこから大量の血が出て、そのまま意識を飛ばしたのだった。
ティーナ様が泣いている、起きないと!
そう思っても、頭がボーっとしていて、体が思う様に動かない。
「ティーナ様…泣かないで下さい。私は大丈夫ですわ。あなたが泣くと、私も悲しくなります…」
少しでも落ち着いて欲しくて、ティーナ様の頭を撫でた。
「ローズ様…」
ゆっくりと私から離れたティーナ様が、ポロポロと涙を流している。そういえばここはどこかしら?見た感じ病院の様だけれど…
「ここは、病院ですか?私、怪我をした後…」
「そうだよ、ここは病院だ。ここに運ばれ、手当てを受けたんだよ。かなり出血していた様だから、念のため今日は入院だそうだ」
説明してくれたのはグラス様だ。わざわざグラス様まで来てくれたのね。
「ローズ、すまない。僕のせいで君に怪我をさせてしまった。僕があの時、君を庇っていれば…」
グラス様を押しのけ、私の元にやって来たアデル様。物凄く辛そうな顔をしている。その姿を見た瞬間、胸がチクリと痛んだ。お願い…そんな悲しそうな顔をしないで…
「アデル様、あなた様のせいではありませんわ。私があの時、剣をよけられなかったのがいけないのです。私は昔から少しどんくさいところがありまして…それで、アデル様とティーナ様はお怪我などありませんか?」
あの時近くにいた2人が怪我をしていないか、急に不安になったのだ。見た感じ元気そうだけれど…
「僕たちの事まで心配してくれるんだね…僕もティーナも擦り傷一つ付いていないよ。ローズ、本当にすまない。あの時君の方に剣が飛んできていたのに、とっさにティーナを庇ってしまった。僕の判断ミスだ」
唇を噛みしめ、悔しそうな顔をしている。もしかしたら今回の件で、ティーナ様に何か言われたのかもしれない。ティーナ様もずっと泣いていたみたいだし。ここは何とかしないと!
「あれは仕方ありませんわ。急に剣が飛んできたのですもの。そもそも、あんなところで打ち合いをしていた人たちがいけないのです。ですから、どうかご自分を責めないで下さい。確かにかなり血が出た様ですが、今は痛みもほとんどありませんし、結構平気ですわ」
極力笑顔でそう伝えた。
「ありがとう…ローズ。君は本当に優しいね…」
そう言うと、アデル様は俯いてしまった。これはマズイわ、なんとかしないと。そう思った時だった。学院の先生が入って来た。
「ローズ・スターレス、目が覚めたんだな。よかったよかった。そうそう、君の傷だが、痕は残らないだろうと医者が言っていた。残ったとしても、かなりうっすらだから、安心して欲しい。それよりも君の両親はどうなっているんだ。さっき君が入院したことを伝えたのだが“命に別状ないなら、何度も電話してこないで下さい!”と言われて切られたぞ」
プリプリ怒っている先生。家の両親は基本的に子供より仕事優先なタイプだ。きっと私が怪我をしたくらいでは、お見舞いにすら来ないだろう。
「申し訳ございません、先生。両親はそういう人間でして…病院の支払いや手続きは、自分で行います。お金も執事に頼んで準備してもらいますわ」
「そうか…君がそれでいいならいいのだが…それにしても、娘が怪我をしたのに、病院に来ないだなんて…」
まだ先生がブツブツ言っている。
「先生、両親のせいで不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」
先生に向かって頭を下げた。
「君が謝る必要は無い。とにかく書類の準備などは私が行おう。君はゆっくり休んでいなさい。それじゃあ私はこれで」
「ありがとうございます、先生」
どうやら手続きなどは先生が行ってくれる様だ。有難い。
「ローズ嬢の両親は随分と薄情なんだね。娘の事が大切ではないのか?」
「兄上、何て事を言うんだ!ローズ、兄上がすまない」
「アデル様、私は大丈夫ですわ。確かにグラス様の様に疑問に思いますわよね…元々家の両親は、政略結婚なのです。特に母は結婚に興味がなく、仕事一筋で生きたかった。でも…母の家がそれを許さなかった…父と母が婚約したのは、まだ貴族制度が残っていた時期だったので…その後貴族制度が無くなり、比較的自由になった。それと同時に、母は仕事に力を入れる様になったのです。さらに父も、あまり子供が好きではなかった様で…2人とも、子供よりも仕事が大切な人なのです」
私は簡単に家の両親の事を説明した。それでも私やお兄様が何不自由なく生活できるだけのお金は与えてくれている。だから、両親を恨んでいる訳ではないのだ。
「ローズ様…お辛い話をさせてしまってごめんなさい。ローズ様のご両親が、あまりお家にいらっしゃらないとは聞いていたのですが…まさかそんな事情があったのですね」
ティーナ様が悲しそうに呟いた。おっといけない、つい暗い話になってしまった。
「ごめんなさい。少し暗い話になってしまいましたね。でも私には、今は異国におりますが、私の事を可愛がってくれる兄や祖母もおります。それにティーナ様たち友人も。だから、寂しくなんてありませんの」
極力笑顔でそう伝えた。これ以上無駄に心配して欲しくない、そんな思いで、必死に笑顔を作ったのであった。




