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04.騎士団の仕事

 

「詐欺グループの捜査……?」


 聞き慣れない言葉に私たちはどう反応していいのかわからず戸惑いの表情を浮かべる。

 何とあのローブを着た人達は全員騎士団の隊員。どうりで酔っ払いを叩きのめすのが早かったわけだ。

 彼等を片付けた後、来ていた客にはお詫びの酒を振る舞うことで納得してもらい既に騒ぎは収まっている。

 個室に移った私とヘザー、そして黒ローブの男性とヒューイットの四人で机を囲んで話をしていた。


「そうなんだ。この人は俺たちが所属する第五騎士団の隊長ビルク・バリー殿だ」

「どうも」


 気まずそうな表情のヒューイットが紹介してくれたのは、黒ローブを着ていた黒髪の男性。

 挨拶のつもりなのか腕を組んだまま肩をすくめるビルクは無表情のままどこかを睨みつけている。


「隊長さんって、優しそうなおじいちゃんじゃなかった?」

「それは前任の隊長。ビルク隊長はついこの間、外地から首都に配置替えされたばかりなんだ」

「はあ……」

「とりあえずさっきも言ったように、俺たちはある詐欺グループを追っている。さっきの男はその犯人の一味だ」

「……!」


 私が目を見開けば、ヒューイットはわかっているとでも言いたげに頷いてくれた。

 ここ最近、社交界で宝石売買の詐欺が横行している。犯人たちはまだ目利きの力がない若い貴族に目をつけ、これから価値が上がる宝石や原石などを破格で売ると言って近づくそうだ。最初の数回はきちんとした宝石を売ってくれるが、最後の最後ではクズ石を掴ませて姿を消す。名がある貴族は騙されたことを表沙汰にしたくなくて黙っているが、訴える者もいたことから詐欺グループが社交界に紛れ込んでいることが判明したのだ。


「それって……」


 まるで叔父が被害にあった事件と同じではないか。やはり同じ男だと私は確信を強くする。

 と同時に、はたと気が付く。


「でもなんでそんな犯罪に騎士団のみなさまが……?」


 騎士団は犯罪を取り締まる集団ではあるが、詐欺などの金銭がらみの調査をするという話は聞いたことがない。

 逃げた詐欺師を捕まえるだけならいざ知らず、わざわざ犯人と思わしき相手と直接話す必要が何故あるのか。


「……被害者の中に、ちょっとやんごとない身分の方がいてな。クズ石の対価として家宝を渡してしまったらしい」

「まあ!」

「で、俺たちはその家宝の回収ついでに犯人たちを捕らえる必要があるんだ」

「逆なのでは……」


 思わず突っ込めば、ビルクとヒューイットが同時に肩を落とす。どうやら断りたくても断れない事情が背後に控えているのだろう。


「ようやく尻尾を掴んだかと思ったんだがな」


 盛大なため息をつき眉間のしわを深くするビルクが、今日に至ったことの顛末を説明してくれた。

 犯人を捕まえるにも、被害者の大半は口をつぐんでいるため詳細な情報は集まらない。複数犯のうえ毎回変装をしているので手配書の作りようもない。

 わかっていることは、犯人は夜会の場で被害者を見繕っているということだけ。

 騎士団の面子は社交界で顔が割れているものが多い。だが外地から戻ったばかりのビルクならば犯人たちも近づいてくるかもしれないと踏み、夜会に潜入。

 恋人に贈る宝石を探していると触れ回ったところ、先程の帽子の男が近寄ってきた。

 そして、ようやく今日の商談まで持ち込めたところで、あの騒ぎ。

 騎士団が来るとでも思ったのか、帽子の男はヘザーが絡まれているのを目にした途端、店を飛び出してしまったらしい。

 追いかけようにも、興奮した客たちのせいで騎士たちは殆ど動けず取り逃がしてしまった。

 ヘザーが顔色を変えて頭を下げた。


「私のせいで。皆さんのお仕事にご迷惑をかけてすみません!」

「いや。お嬢さんが悪いわけじゃない。ああいうことをする男どもが悪いだけだ。まあ一番の手落ちは裏の出入口を見張っていた筈のこいつが持ち場を離れたことだ。奴は裏から出て行ったようだからな」

「!!」


 ビルクが指差したのはヒューイットだ。彼は悔しそうに唇を噛んで俯いている。

 今度は私が顔色を変える番だった。


「わ、私のせいです!」

「ん?」

「私が……私が絡まれたのを助けようとしてくれて……」


 あの時自分がキッチンから出なければ、ヒューイットが持ち場を離れることもなかったのだと気が付いてしまった。

 努力して騎士になったヒューイットに迷惑をかけてしまったという事実に血の気が引く。


「お前が悪いんじゃない……俺が勝手にやったことだ」

「でもっ……」

「そこまでだ」


 私達の会話をビルクが遮る。

 青い瞳が私達を見据え、静かに光っていた。


「お嬢さん。こいつは仕事中に職務を放棄した。それは純然たる事実だ」


 ビルクの指摘に唇をかむヒューイットの姿に、私もつられて唇を噛む。

 どうにかして彼を庇いたいのに上手く言葉が出てこなくて情けなかった。


「でも、ご迷惑をおかけしたのは事実です。私、こう見えてここの店主なんです。今夜はお詫びに御馳走させてください!」

「私達にできることでしたら協力します。皆を守ってくださっている騎士団の皆さんの努力を無駄にしたお詫びをさせてください!」


 私とヘザーの言葉にビルクは目を丸くして驚いたように瞬く。

 だが、すぐに表情を引き締め神妙な表情になった。


「……この件に関してお嬢さんたちには何も非はない。こちらこそ巻き込んでしまって申し訳ないと思っている」

「そんなこと……」

「もし悪いと思ってくれるなら、今日の事は忘れてくれ。成り行きでお嬢さんたちに事情を説明したが、極秘任務なんでな」

「それは、もちろん……」


 私とヘザーは顔を見合わせ頷くしかない。

 申し訳ないとは思うが、確かに自分たちは巻き込まれただけだ。

 それに彼らの事情を考えればここまで打ち明けてもらうなど破格の待遇であることくらいはわかる。


「せめてアイツの顔でもわかればなぁ」

「お話していたので顔は見ていたのでは?」

「いや。恐らくは髪や眉を染めていたようだし化粧で顔も誤魔化しているようだった。顔を合わせる場所も薄暗い場所ばっかり指定してきたからな……上手く誤魔化されたらわかるかどうか。それに、あっちは俺の顔を覚えただろうから近づいてこないかもしれない」


 困ったと腕を組むビルクに私は「あ!」と声を上げてしまう。


「なんだ?」

「あ、あの。私あの男性を知っています」

「何!?」


 あまりに色々あり過ぎてすっかり失念していた事実を私はビルクに打ち明けた。

 叔父が恐らくはビルクが話していた男性に似たような手口で騙され借金を負わされたことと、自分の身の上。

 ヒューイットやヘザーと幼馴染であることまで話してしまえば、ビルクは「なるほどな」と納得した様子で頷く。


「声とはな。それに耳の傷か……気付かなかったな」


 ビルクは顎に手を当て、何かを考え込んでいる。

 私達は彼の考えていることが分からないので、どうしたものかと三人で目くばせするしかできない。


「ふむ……なあ、ヒューイット。お前、最近夜会に出たことはあるか」

「は?」


 突然話を振られたヒューイットが怪訝な顔になる。


「この頃は仕事が忙しくて参加してないですが」

「だよな。よし、じゃあ次はお前が変装して夜会に潜入しろ」

「はぁ!?」

「パートナーはこのお嬢さんだ」

「へ!?」


 いい考えだとばかりにどこか満足そうに胸を反らすビルクの顔を私とヒューイットは呆然と見つめることしかできなかった。

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