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08

「えーっと、その…ですねぇ」

しどろもどろになる稔。


「そう! そうです! そういう気分だったんです! たまにはいいじゃないですか、じゃなくて、たまにはいいだろ! これ、合ってるか?」

何もしてないのに少し泣きそうだった。


「リエルは、ほら、ハイエルフだから、ヒトの機微に疎いだろ? そういう事だよ!」

ブンブンと手を振り回して力説する稔。


「確かにワタシはヒトのことは分かりませんが…」

「ほら!」

うんうんと我が意を得たりと頷く稔。


しかし、リエルは続ける。

「精霊の器が変わってるんですよね」

「ん?」

聞き直す稔。

「精霊の器が変わってるんですよね」

もう一度繰り返すリエル。

「はい?」

「精霊の器は魂の形ですから。生まれてから死ぬまで形は変わりません。体が大きくなっても、事故や事件で性格が180度変わったとしても、精霊の器が変わることはありません」

「……」

「その精霊の器が変わりました」

「えーっと、つまり?」

「アナタはクロウ様ではありません」

魔法とは異なる超常の力・精霊術。

エルフにしか使えない秘術である。

中でもハイエルフは、この精霊術に精通している。

神族の末裔と評されるのはこのためである。

「……アナタは誰ですか?」


稔は何かを探しキョロキョロした。

当たり前だが何もなかった。


「えー我ながら荒唐無稽な話だと思いますが……」

稔はあっさりと話し始めた。

と言っても、そんなに話すことはないのだが。


「……というわけで、ですね!」

拳を握る稔。

「私は、もう我慢したりせず! 言いたいことをいい! やりたいことをやりたいのです!」

「クロウ様みたいに?」

「うぐっ……いや、や、やれるはずです。私はできる!」

両手の拳を強く握り直す稔。


「私は我慢とか全部やめるんです!クロウさんになりすませばいいんです!」

鼻息荒く宣言する。


「ワタシにおかしいと思われてる時点でムリだと思います」

「む……。やっぱりバレますかね?」

「先ず間違いなく」


「そ、それでも! 私はやるのです!」

「止めはしませんが……」

「ええ! 応援してください!」

「特に応援もしませんが」

「と、とにかく!」

「はい」

「私は欲望を爆発させるんです!」

「たとえば?」

「えーー……なんでしょうね?」

頭を抱える稔。


「やっぱり無理はしなくていいんじゃないでしょうか?」

「いや、そう! 欲望と言えば、夜の街です!」

「そうなのです?」

「そうです! なので、私は夜の街へ繰り出します!」

「はい、いってらしゃい」

「いってきます」

律儀に頭を下げる稔。


「あ、ミノル様」

そのまま飛び出そうとする稔を呼び止めるリエル。

「はい?」

「お金と荷物を持って行かないと」

稔の荷物を指さすリエル。


「おお!そうですね!って剣も要りますかね?」

「大体誰もが持ってますから、あった方がいいかと。いつ争いが起こるかも分かりませんから」

「なるほど! 一揃えあった方がいいんですね! ありがとうございます!」

剣と盾、鎧が入った荷物を担ぐ。


こうして稔は、意気揚々と夜の街へと繰り出して行った。



◆◆◆◆◆◆



クロウの記録を頼りに、繁華街へと向かう稔。

明らかにビクビクしている。


『もしかしなくても治安が悪いんでしょうね。気配を殺して歩きましょう』


道は暗いし、いかにも柄の悪そうな奴らもアチコチにいる。


稔は、頭に浮かぶ魔法文字から、気配や音を消す魔法を選ぶ。

『……なんだかムダの多い魔法ですね。これは消して、こっちも消して、こことここは繋いで…ここにこれを足してっと……うーん、するとこっちの方がいいのか?今はこれでいいにしときましょう。後で要調整ですね』

サラサラと作り直す。


更に見る者に認識阻害や視覚阻害、感覚阻害を与える魔法を展開する。

『これもムダだらけですね… これじゃあまともに機能しないんじゃないですか……?便利そうなのに』

ポンポンと書き換える。

『まだまだ穴だらけですが応急処置はできたでしょう』

それでも不安なので、脚力を強化する魔法も掛ける。


『これなら多少は目立たないでしょう。万が一絡まれたら逃げればいいですし』


稔は知らなかったが、今の稔は、見えないとかいう話では無い。

誰かがぶつかったとしてもぶつかったと分からないレベルだ。


後に禁術指定される【完全犯罪(パーフェクトクライム)】の原型が出来上がった瞬間である。


コソコソと歩くことしばらく、ネオン輝くとはいかないが、宵闇の中、怪しい灯りが灯る歓楽街へとたどり着く。


色々な店が並んでいる。

稔とて、営業一筋にやって来たから、好む好まざるに関わらず、お付き合いはあった。


しかし、あまり得意な方ではなかった。

人目に付かないので、コソコソと中を覗く。

『ここは、娼館ですかね? なんか病気が怖いのでやめときましょう』

却下した。


次の店を覗く。

『ここはストリップっぽいですね…怖い人に絡まれたら嫌なのでやめときましょう』

却下した。


次の店。

『賭場ですか! ギャンブルは弱いのでダメですね。身を壊します』

却下した。


『ここも…』

『これはちょっと……』

『この店なら……でもなぁ』

『そもそも1人でこういう店に入ったことないですし……』


こんな感じでチョロチョロと歩き回った。


『ここは……あ、なんか平和っぽいですね。お酒を飲みながら女性と話す。キャバクラに近そうです。ここにしましょう』


魔法を解除する。

『うーん……しかし、勇者がこういうお店に入っていたと知られるのは都合が悪いかもしれませんね…少し細工しときましょうか』

再び認識阻害の魔法を掛ける。

『こうで……こうですかね? あ、こっちか…なるほどなるほど……これでいいでしょう』


魔法を発動する。

しかし、稔の外見は何も変わらない。

少し長めの黒髪。

端正な顔。


但し、見え方は変わっている。

人によっては緑の坊主頭に見えるかもしれないし、赤髪のロングヘアに見えるかもしれない。


この魔法のすごい所は、例えば緑の坊主に見えている人に、赤いロングヘアに見えている人が、『赤いロングヘアだった』と告げた場合、告げられた側には『緑の坊主』と言ったように聞こえるように認識阻害が働く所である。



こうして万全を期した稔はドキドキしながら、恐る恐る店の中へと入って行ったのである。


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