表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/15

04

『どんなのがいいんでしょうか?』

年甲斐もなくちょっとワクワクしながらペナルティを考える稔。

クロウがかつてどんなペナルティを与えていたのか思い出してみる。


『……』

そして、引いた。

どういう思考回路をしていたらそんなことが思い付くのか?という疑問と、どういう精神構造をしていたらそんなことを楽しいと思えるのか?という不信で胸がいっぱいになった。


例えば、今のデルのとち狂ったような格好。これが最初のペナルティである。

以前のデルは、聖職者に相応しい上品な白いローブを纏っていた。


手に持っている杖。これは2度目のペナルティである。

以前のデルは聖魔法の使い手に相応しい気品溢れる杖を使っていた。


その格好のまま、スラム街にある酒場で吐くまで酒を飲ませたり、社会奉仕と言わせて公衆浴場の男湯で体を洗わせたりもしている。


そしてベンスに『二度とあんな真似させられるか』と言わせた前回は、募金活動と言わせて酒場でストリップショーもどきを行わせた。


純潔を是とする教義の元で育ち、また聖女として殊更厳格に教義を守って来たデルにとっては、死んでもおかしくないほどの恥辱だった。死ねるものなら死にたかったぐらいである。

そもそも教義など関係なしに死にたくなるほどの恥辱であるが。


実際、ペナルティの度に、デルは何日も熱を出して寝込んでいる。


それでも決死の覚悟で仲間の盾になろうとする姿は聖女と呼ぶに相応しい気高さだ。



ベンスの顔に彫られている卑猥な言葉の刺青もペナルティだった。

人通りの多い往来で、子どもを連れた女性に突然『踏んで下さい!』と土下座させたこともある。


他にもFやGの低ランクダンジョンの入口に居座り、攻略に臨む初心者冒険者たちに『俺を倒さないと入れない』と邪魔をさせたこともある。

ベンスの実力にかかれば、初心者冒険者なら20人いても返り討ちにされるので、実質、ダンジョンの封鎖に等しい。


武器屋から使いもしない大量の剣を買い、ただひたすらその剣を折らせる。剣と共に生きてきたベンスにとっては骨を折られるよりも痛い。

ベンスが泣いたのは、グラゼル流に入門したその日、師範に膝が立たなくなるまで打ちのめされて以来だった。


ベンスにしろ、デルにしろ、往来でそんなことをすれば必ず騒ぎになる。

クロウがいやらしいのは、騒ぎになると謝りに出てくるところだ。


『監督ができておらず申し訳ない』、『彼らは世界を救うという重責に耐えられず、こんな奇行に及んだんです』と。

いかにも勇者然としたクロウが、涙を堪えながら誠意溢れる謝罪をし、仲間を宥めて連れ帰る姿は、見る者に感動すら与える。


結果、クロウは、『勇者の重責を若くして背負っている見上げた青年で、しかも、政治的な理由で仲間として押し付けられてしまった頭のおかしな仲間さえ、切り捨てたりせず面倒を見るまさに人類の救世主に相応しい器の持ち主だ』という評価を得ている。


一方、ラフェエルのペナルティは、少し異なる。

もっぱら拷問魔法の実験だ。

この世界に拷問魔法たる体系はない。

クロウが作ったのだ。


クロウは強化魔法(バフ)弱化魔法(デバフ)も得意としている。それらを組み合わせ、様々な苦痛を与える魔法を開発した。

その効果をラフェエルをもって試すのだ。


全く理由のない拷問。

これ程理不尽なことは無い。


クロウは特にラフェエルへの当たりがキツい。

同い年で、美形で、自分と同じく天才と呼ばれているからだ。


クロウの拷問魔法の実験体にされたラフェエルの心はもうすっかり折れてしまった。

しかし、クロウは嬉々としてラフェエルに拷問魔法を試した。

『嫌いだから』ただそれだけの理由で。



『さすがにこれは参考にできませんね』

半分以上、『もういい』と思っているが、稔は稔なりの理由で戦っていた。


『何かもっと簡単なペナルティを……』

基本的に人を害するということをやってこなかった稔にとって、ペナルティを考えるというのは意外と難問だった。


『……そうだ!』

ピコンと閃いた。

『デコピンはどうでしょう? あれなら痛いだけですし、罰ゲームの定番ですし、悪くないと思います』


「……」

デルと目が合う。

強がっているが、目が合うと顔が引きつった。

デルの白いおでこにデコピンをする、と考える。

「……」

目が自然とベンスの方を見る。

ベンスもやはり顔が青くなる。


「今回のペナルティは……」

クロウの口調を思い出しながら口を開く。

場の空気が一層重くなる。


「……ベンス」

ベンスの大きな肩がビクリと震える。

名前を呼ばれなかったデルが明らかにホッとする。

しかし、一瞬後には、そんな自分に気付き、罪悪感にまみれた顔になる。


「……デコピンだ」

ドヤる稔。


「……」

「………」

「…………」

微妙な沈黙。

ベンスがチラッとデルを見る。

デルも困った顔で小さく顔を横に振る。

続けてチラッとラフェエルを見る。

ラフェエルも青い顔で小さく顔を横に振る。

「……」

ベンスの戸惑った目が稔を捉える。


「……あれ? なんかおかしいですか?」

不安になる稔。

思わず素が出る。

「「「「「えっ!?」」」」」

ベンス、デル、ラフェエルが驚愕に目を見開く。

グラウも体勢を崩したので、クロウもコケそうになる。

リエルまでもクロウを振り向き、怪訝な顔をしている。


「な、なんか文句あるのかよ?」

慌てる稔。

「い、いえ…とんでもありません!」

慌てるベンス。

「で、あ、じ、じゃあ、なんなんで、だよ!」


「あ、あの、申し訳ございませんが……」

言いにくそうに切り出すベンス。

「で、デコピンというのはなんでしょうか…?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ