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03

クロウは若干19歳にして、史上最強と言われるほどに強く、才気に溢れていた。


しかし、その精神はかなり歪だった。

幼い頃より天才と持て囃されたためなのか、10歳にして勇者として世界の運命を背負わされた重圧によるものなのか、或いは、生まれ持った性質だったのか。


恐らくその全てであろうが、クロウは歪んだ性格の持ち主だった。


刹那的な享楽主義者。それでいて(したた)かで狡猾。

傲慢で自己中心的でありながら、他人の心の機微に聡く、我慢ができる。

嗜虐的でありながら、他人を喜ばせるコツを知っている。

そして、この歪んだ性格を微塵も醸さない爽やかで端麗な容姿。

傍目には、誠実で頼もしい歴代最強勇者としか映らない。


それゆえに、クロウの『遊び』に付き合わされる『仲間』たちには地獄以外の何物でもなかった。


今回のバレエザ洞窟の攻略も最近、クロウが気に入っている『遊び』の1つだ。


バレエザ洞窟はこの世界に無数にあるダンジョンの1つで、危険度を表すランクはB。

ランクはUS、SS、S、A、B……とGランクまである。


立ち入り禁止とされているUSランクを除けば上から4番目、Bランクは危険度の高いダンジョンである。

それでも、超一流と呼んでいいベンス、ラフェエル、デルがパーティを組んで挑めば無茶では無い。


通常であれば。

通常というのは、ベンスが剣を持ち、ラフェエルは呪文を唱えられ、デルの聖魔法にいつもの効果があるという意味である。



つまり、それがクロウの『遊び』なのだ。


能力を、極端に制限した状態で高難易度のダンジョンに挑戦させる。

条件を突きつけられた仲間たちの慌てる姿を楽しみ、殺意のこもった視線を楽しみ、本来出来ることが出来なかった失敗談を楽しむ。

そして、失敗のペナルティとして屈辱的な行為を強要し、恥辱にまみれた姿を嘲笑う。


そういう『遊び』である。


今回のバレエザ洞窟の攻略では、ベンスは得意の両手剣ではなく、使ったことのない長弓を持たされた。

しかも、矢以外の攻撃は禁止されていた。

両足を鎖で繋がれるというオマケつきでで。


デルは、【黒骸(こくがい)のピアス】という呪具を付けさせられた。

これは、呪術の威力が上がる代わりに、聖魔法を筆頭に他属性の魔法の威力が大幅に下がる。しかも呪術を使うと精神が蝕まれ、他属性の魔法を使うと肉体が蝕まれる。

これにより、いつもであれば切り離された腕ですら繋ぐことが出来るエクスヒールを唱えても、極浅い切り傷程度しか治せず、使う度に全身を激痛が襲うのだ。

そもそも敬虔なアフェレア教徒であるデルにとってはピアスを付けるために『体に穴を空ける』というだけで神への冒涜なのだ。

クロウは当然その事を知っている。

知っていて知ったことではないのである。


ラフェエルは、攻撃方法に制限があるわけではないが、強制的に【恐慌(フィアー)】という状態異常にさせられていた。

【恐慌】状態になると、接敵した際にパニックになり、冷静さを失ってしまう。

高い精神集中を必要とする魔導師には致命的と言える状態異常だ。


つまり3人とも、危険極まりないモンスターがひしめくダンジョンに、まともな自衛手段すら持たず乗り込むのである。五体満足で帰ってこれただけでも、とんでもないことだ。


クロウは彼らが無事に帰って来れることを考えてはいない。

ケガをしたならそれでいいし、はっきり言って死んだとしても構わない。


壊れたら新しい『仲間(おもちゃ)』を探すだけだ。


クロウにとっては自分の安全と安寧が揺るがない限り、全てが『遊び』なのである。



『ここでなら、ガマンも何も考えなくていいのかもしれませんね…』

数多のトラウマを植え付けられながら、それでも必死に仲間を庇う2人を見ながら、稔は思う。


仲間たちにとってクロウは勇者の皮を被った悪魔であり、どんな酷いことを言われ、やられてももう驚くことは無い。


『少しやってみてもいいかもしれませんね!』

稔は自分の中に湧く好奇心に従ってみることにした。


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