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ダンジョンを進む。
特に問題もない。
稔はすっかり眠くなっていた。
「ビアン!」
アイズルが狼に跨ったオーク、オークライダーの突進を受け止めるなり、叫ぶ。
「おう!」
呼ばれたビアンは、間髪入れずにアイズルの背中をかけ上り、勢いのままにオークライダーを飛び越える。
着地と同時に反転。
双剣を振るい、オークの乗る狼の後ろ足を薙ぎ払う。
「キュイイン」
狼が悲鳴を上げ倒れる。
オークが放り出される。
「ウォーターハンマー!」
地面に不時着したオークにベッソが放った水の塊が叩きつけられる。
動きの鈍ったオークと狼にビアンとアイズルがそれぞれとどめを刺す。
「は! 余裕だな!」
揚々と勝ち名乗りを上げるビアン。
稔に見せるために、久しぶりにダンジョンで本気で剣を振るう内に、段々楽しくなってきたようで、稔のことをすっかり忘れて3人で盛り上がっている。
呼び方も、昔の頃のようにアダ名に戻っている。
最初の内こそ、稔も手伝った方が…と思っていたが、3人の連携は素晴らしく、わざわざ水を差す必要もない。
なので、適当にバフとデバフを掛けながらひっそりと付いて歩いていた。
「体もキレるし、疲れもねえ!」
「ベッソの魔法も冴えまくってんな!」
「へっ! アイズルががっちり抱えてくれるからな!」
バンバンと、肩を叩きあう姿は、まるで少年のようである。
「ただ……」
ビアンの声が下がる。
「イダレッタがいればな…」
「ああ…」
「確かに。アイツがいたらもう一つ盛り上がるんだが…」
「代わりが……あっ!」
3人の目が稔に向いた所で、ビアンが当初の目的を思い出す。
「「「「………」」」」
稔の存在を忘れて子どものようにはしゃいでしまったのが恥ずかしい3人。
今更言われても困る稔。
妙な間が時間を埋める。
「えー……あ、あれはなんですかね?」
わざとらしく声を出し、奥の部屋の奥にある箱のようなものを差す。
そして、逃げるようにその箱に近付く。
「ん? なんだ? あ、おい!?」
ビアンが慌てた声を出したのと、稔が奥の部屋に入ったのは同時だった。
「なんだここ?」
稔が部屋の異質さに気付いた、その時
――ガシャン――
部屋の扉がひとりでに閉まる。
「あら?」
扉を動かそうとするがビクともしない。
「聞こえるか!」
閉じられた扉の向こうから、ビアンの焦った声がする。
「ええ。少し遠いですが」
稔からは危機感の欠片も感じない。
「そこは【湧き部屋】だ!」
ダンジョンのトラップの一つ【湧き部屋】。
遺跡や城跡など人工物がダンジョン化した場合にたまに現れるこの罠は、先ず部屋に閉じ込められる。
そして、文字通り、モンスターが際限なく湧き出してくる。
全てのモンスターを倒せば解放されると言われている。しかし、脱出に成功したパーティがあると噂は聞けど、実際に生き残った者と会わないことでも有名だ。
「クソっ! どうする!?」
ビアンの焦る声がする。
「どうすりゃ……」
しかし、段々声が小さくなる。
「なあ……もしかして、これでいいんじゃないか?」
アイズルが自信なさげに言う。
「「「………」」」
黙り込む3人。
「あれ?皆さん、大丈夫ですか?」
見えない稔の声が虚しく響く。
「「「……確かに」」」
3人が頷く。
「へっへっへっ、ミセルフ様に恥をかかせたことを、存分に後悔して死にな」
キャラを思い出したようにビアンが胡散臭い笑みを浮かべる。
「あ、なんか出てきた」
稔はイマイチ聞いてなかったが。
「さ、湧き部屋に飛び込んだマヌケはほっといて、さっさと帰ろうぜ」
「楽に済んだな」
「豚野郎の素材も入ったしな」
クールスピリッツの3人は、目的を果たし、揚々と引き上げていった。
行きは楽な道のりだったので、帰りも余裕……だと思っていた。
彼らは知らなかった。
稔が違和感で連携が崩れないよう、かかっていることが極めて分かりにくく細工したバフを使っていたことを。
そして、敵の能力を大幅に下げるデバフを使っていたことを。
◆◆◆◆◆◆
『こいつらは……えーっと?』
閉じ込められた部屋の中空に、ムヤムヤと気色の悪いモヤが湧く。
そのモヤはやがて形を作り…
――ビェエエエーッ!――
赤ん坊の泣き声……というには邪心にまみれているか。
赤黒い一つ目、ブヨブヨした体。
長い牙が生えた口。
そして、直立した子犬のようなそのモンスターは小さな黒い羽でフラフラと不格好に浮いている。
「クリムゾン・サッカーですか」
クロウの知識から、モンスターの名前を探し当てる。
クリムゾン・サッカー、獲物に取り付き、その長い牙で血をすする。
移動速度は早くないが、空を飛んでおり、攻撃が当てにくい。
更に、そのだらしない体型は、物理耐性が高く、斬撃も打撃も効きにくい。
不気味だが貧弱そうな見た目によらず、かなりの難敵である。
モヤは次々現れ、モヤは次々とクリムゾン・サッカーになっていく。
「グランドスパイク」
地面からトゲが生え、クリムゾン・サッカーを下から狙う。
「うーん…やはり飛んでる相手に土魔法はイマイチですね」
しかし、フラフラと飛んでいるため、余り当たらない。
「ウォーターネイル」
ギュワンと水滴がクリムゾン・サッカーを打つ。
「水魔法は殺傷力低いですね」
水魔法はオールラウンドで便利な反面、効果が低い。
「サンダー」
バリバリっと雷が走る。
「やっぱり抵抗力がありますね」
クリムゾン・サッカーは雷魔法が効きにくい。
「他の属性なら効きそうですが……魔力の効率悪いんですよね……。無限に湧くという以上、魔力が尽きるリスクがありますし……」
ブツブツ言う間に、部屋がクリムゾン・サッカーが埋め尽くす。
――ビィィエエエエエーー!!――
耳障りな奇声を上げると、一斉に飛びかかってくる。
「魔法が難しいなら、これですね」
腰からシャラリと剣を抜く。
「どれほど使えるのか……頼みますよ?」
誰に祈ったか、剣と盾を構えた。




