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09 こんなことになるなら。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 体が全く動かない。あまりの寝苦しさと、寝ている場所の硬さに身体中が軋んで、うなされながら目を覚ます。

 

「あれ……?」


 目を覚ますと、なぜかぐるぐる巻きにされて床に寝転がっていた。

 全身を紐みたいなもので、ぐるぐる巻かれてしまって、まったく身動きをとることができない。

 首から上と、足首くらいしか自由がない。


 そういえば、ゼフィー様の元から逃げ出して家に向かっている時、口を押えられて……。

 その後の記憶がない。


「ここはどこ……」


 すると、重々しい音とともに、閉ざされていた扉が開いた。

 そこには、一人の男性が立っていた。


「誰ですか……」


 父から、家族や婚約者以外の男性と二人きりの時には、決してその相手と目を合わせてはいけないと厳命されている。

 たぶん、今がその時だ。

 私は、ぎゅっと強く目を瞑った。


「お前が、冷酷騎士ゼフィー•ランディルドの婚約者か。……想像していたのと、ずいぶん違うな」


 私もそう思っています。ゼフィー様に似合うのは、もっと大人の女性だって。


「……あの」


「冷酷騎士が要求に応じればよし。応じなければ、かわいそうだがお前の命はない。まあ、冷酷なあの男のことだ。婚約者など見捨てる可能性の方が高そうだな。その場合は、婚約者を見捨てたとして騎士の名誉を穢される。それもいい」


 どうも、話の内容と状況からして、誘拐されたらしい。

 私の身に、そんなことが起こるなんて信じられなかった。


 でも、もしかしたらゼフィー様は、予想していたのかもしれない。侯爵家だもの、敵も多いのかもしれない。

 だから、しきりに一人で歩くのは危ないと言っていたのだろうか……。


 どちらにしても、この男性は私のことを殺す気でいるのだろう。


 ――――迷惑を、かけてしまう。


 不思議なことに、命の危険にさらされているのに、怖くなかった。


 ……ゼフィー様は冷酷なんかじゃない。間違いなく、私のことを助けようとする。


 数日前なら、ゼフィー様は私のことなんて見捨てるに違いないと思っただろうに、今の私にはどうしても、そう思うことができなかった。

 微笑んだ時の、優しくて、少しだけ幼く見える顔が、瞼の裏に浮かぶ。


 ……でも、来ないでほしいかも。


 こうなったのは、私が勝手にゼフィー様のことを好きになって、そのことに気がついてしまって勝手に逃げ出したせいだ。

 ここ数日だけで、相当迷惑をかけてばかりなのに、また追加で迷惑をかけてしまうなんて。


「――――このままここにしばらく閉じ込めておけ」


 男性が横を向いた瞬間を狙って、その顔をしっかり覚えた。

 わざわざ私の前に姿を見せるなんて、詰めが甘いんだから!


 男性は、牢屋を守っている人にそう告げると、笑いながら去っていった。


「はあ……」


 全身が動かない状態で、顔を上げるのも疲れる。私は床に突っ伏した。


 ……それにしても、私はゼフィー様のことが好きだったのね。それも、こんなに強く。


 決闘を申し込んだ時も、お茶会で会話が全く続かないゼフィー様に一生懸命話しかけた時も、父のお弁当を届けに行って凛々しい姿で訓練するゼフィー様を遠目に見た時も。


 目が合ってしまったら避けられる。婚約者のはずなのに、ゼフィー様との距離は、とても遠くて。

 現実が受け入れられなくて、この気持ちから、目を逸らしてしまっていたけれど……。


 気がつくと、その姿を気がつかれないように、いつも目で追っていた。


 なぜか急に優しくなって話しかけてくれるようになったゼフィー様、そうなる前からずっと好きだった。


 どうして急にゼフィー様が変わったのか分からない。


 でも、好きだという気持ちを自覚してしまったら、婚約破棄されたときにきっと悲しくて立ち直れなくなってしまう。

 だから私は自分の気持ちに気がつかないように封をした。


「でも……。こんなことになるなら」


 ――――こんなことになるなら、もっと早く気がつけばよかった。


 そうしたら、せめて婚約破棄をされる前に、好きだと伝えるくらいは出来たかもしれないのに。


 ――――それにしても、苦しい。ぐるぐる巻きにしすぎだと思う。まったくこれじゃ、寝返りするのも難しい。


「ゼフィー様……」


 私から意識を奪った薬の効果は、恐らくまだ残っているのだろう。


「もう一度会いたいです……」


 ぼんやりする意識の中、私は再び眠りに落ちていった。


最後までご覧いただきありがとうございました。


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かわいいものが、書きたくなって、新作投稿しました。鬼騎士団長と乙女系カフェのちょっと訳あり平凡店員のファンタジーラブコメです。
☆新作☆ 鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
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