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08 住む世界が違うと気付かされたのは。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 ゼフィー様の、エスコートはどこまでも優雅だ。

 でも、私は煌びやかで豪華な雰囲気に馴染むことが出来なかった。


「ゼフィー様、こんなのダメです」


「どうして? 似合っているのに」


 ゼフィー様が、付き合ってほしいと私を連れてきたのは、明らかに普段買っている服よりも0が一つも二つも多い上流階級向けの店。


 そこで次から次にドレスを着せ替えられて、終いには「全て似合うな。袖を通した服は全部買い上げる」とゼフィー様が、店員に告げた。


「は、全部? えっ⁈」


 私とゼフィー様は、住む世界が違うのだと、今日のお買い物で知ってもらおうと思ったのに、逆に私の方が思い知らされている。


「ゼフィー様……。私なんかに、こんなドレス勿体無いですよ」


「どうして?」


「どうしてって」


 どうしよう。さすが、名高いランディルド侯爵家のお方だ。価値観が雲の上ほど違っている。


 フローリア伯爵家が、貧乏になったのは、元々は飢饉と流行病が三年もの間続いてしまったせいだ。


 それでも、領民に重税をかけるのを良しとしなかった父は、多額の借金を背負った。

 さらに悪いことに、母もその時の流行病に命を奪われた。


 その時から、新しいドレスを買う余裕なんてなかったし、領民の生活を考えると買おうという気にもなれなかった。


「私は……」


 でも、そんなことをゼフィー様に言うことは出来ない。これは、あくまでフローリア領の問題だ。


 理由を答えられない私を責めるでもなく、じっと見つめていたゼフィー様は、軽く口元を歪めてから口を開いた。


「……今度、夜会がある」


「夜会……ですか?」


「ああ、悪いが断ることのできない相手だ。婚約者として同伴してもらう必要がある。これは、仕事の一環だと思ってもらっていい」


 ゼフィー様は、最後に一着だけ、シンプルなドレスを私に着せ、残りのドレスを、ランディルド侯爵家に届けるように指示した。


「これは、着て行こう。とてもよく似合う」


 それは、着てきたワンピースと同じ色をした上質な水色のドレスだった。


「……高すぎます」


「君は俺の婚約者だ」


 やはり、いつもの格好ではゼフィー様の隣に立つ資格がないのだろう。


「……勘違いしないでくれ。俺は、いつもの可愛らしいリアが好きだ」


 どうしてですか? 

 今まで、そんなそぶり見せなかったのに。

 どうして急に、そんなこと言うんですか。


「……でも、もし俺の婚約者のままでいてくれるなら」


「っ……わかりました!」


 これ以上、断り続けるのは、ゼフィー様にとって逆に迷惑になる。店員さんたちの、どこか生温かい視線も気になるし、お店にも迷惑だ。


「ありがとうございます。変なこと言ってすみませんでした」


 上手く笑えている気がしない。

 今まで、貧乏になろうと領民のことを一番に考えてきた父を尊敬していた。


 たしかに、情けないけれど。まさかの、借金返済も娘の結婚頼りだったりするかもしれないけれど!

 結局、釣り合わないなんて言い訳をして、この婚約を破棄して、一人自由になろうとしていたことに、気がついてしまった。


 私には、伯爵令嬢として、領民たちの生活を守る義務がある。


「どうして、こんなに良くしてくれるんですか?」


「好きだからという理由では、不十分かな?」


 それが、何故なのかと思ってしまうんです。私は、ずっと好きだったのに。

 一生懸命話しかけても、答えてくれなかったのに。


 この気持ちに蓋をして、見ないように、気が付かないようにしていたのに。

 もう、自分の気持ちに気づかないふりをすることは出来ない。


 私は、ゼフィー様のことが好き。


 だから、見てもらえないことが、あんなにも辛かったのね。もし、貴族としての義務なのだと、割り切れたら、良かったのに……。


「……帰ります」


「リア」


 ゼフィー様は、追いかけてこなかった。なんで、こんなことを言ってしまったのだろう。


 ゼフィー様は、何も悪くないのに。


 そう思った瞬間、私の手は掴まれて、路地裏に引き込まれる。

 古びたリンゴみたいな匂いがして、口を押さえられていることに気づいた次の瞬間には、私は意識を失ってしまっていた。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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かわいいものが、書きたくなって、新作投稿しました。鬼騎士団長と乙女系カフェのちょっと訳あり平凡店員のファンタジーラブコメです。
☆新作☆ 鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
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