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04 だって買い物に行くだけですよ?



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 ゼフィー様が、私が眠ってしまったのに気がついて、「俺のこと、怖くないのか? よく眠れるな」と、なぜか微笑んだその顔を、私が見ることはなかった。

 もし見ていたら、本当に驚いただろう。

 笑ったゼフィー様は、どこか幼くて、可愛らしい。


 ……フワフワして、雲の上を歩いているみたい。

 まるで、子どもの頃、ベッドに戻らないまま、居眠りしてしまった時に、父に抱き上げてもらった思い出のような、安心感と幸せな気持ちに包まれる。


 徐々に覚醒していく。さわやかな柑橘系の香りが鼻先をくすぐる。

 思わず、その香りを求めて顔を近づける。


「私……この香り好きぃ」


「っ……リア」


「この声も……好きぃ」


 すり寄りながら、思わずそんなことを言ってしまった瞬間、急に抱き上げてくれている力が強くなった。そこで、急速に目が覚めてくる。


「んぅ?」


 そこには、いつもは冷たいはずの瞳が、随分熱っぽく私を見ていた。


「……ゼフィー様?」


 馬車の中にいるようだ。そして、なぜかゼフィー様の膝の上に乗って、お姫様抱っこみたいな状態になっている。


「ひゅわ⁈ うそっ! あわわ、なんていうご無礼を?!」


 ゼフィー様から、慌てて離れて向かいの席に座る。勢い余ってぶつけた背中が痛いけれど、今はそれどころではない。

 ど、どうしよう。ゼフィー様に顔を背けられてしまった。その上、外はもう暗くなっている。


 うわぁ。いったい何時間眠ってしまっていたのだろう。逆に待たせてしまったのではないだろうか。


「……あ、あの。ここで降りますから」


「いや、こんなところに降ろしたらどんな目に会うか」


「え? いつも、買い物の時に歩いている道ですから」


「まさか、街中を一人で歩いているとでも? そんな危険な……」


 伯爵家令嬢と言っても、貧乏な我が家には馬車も御者もいない。

 それに、使用人も年老いた執事が一人だけ。


 だから、歩いていつも買い物をしている。


 たぶん、王国内有数の貴族である、ランディルド侯爵家のお方とは、大きく感覚がズレているのだろう。それを加味しても、過保護だ。


「危険って……。子どもじゃないんですから」


 少し歩いただけで、馬車に轢かれてしまうとでもいうのだろうか?

 ここ数日、子どもみたいに迷惑をかけまくっている手前、あまり偉そうなことは言えないけれど。


「……? 大人の女性だから危ないのではないか」


「え?」


 まさか! ゼフィー様に大人の女性扱いしていただけるとは思っても見なかった。


「……本当に危なっかしい」


 ――――あれ? 気のせいか。やっぱり子ども扱いされているようだ。


「今度からは、買い物するときは必ず言うように。付き合うから」


「えっ?」


「……嫌なのか」


 そんなことを、当たり前のように宣言した直後に、急に声を低くして冷たい目で見ないでください。

 私の買い物内容なんて、お野菜とか安いお肉ですよ?

 侯爵家のお方を付き合わせるわけに、いかないじゃないですか。


「あの……」


「でも、危険だからついて行く」


「忙しいゼフィー様を付き合わせるわけには」


 先ほど見た、山のように積まれた書類が脳裏に浮かぶ。


「ふふっ。リアが眠っている間に、明日の分まで終わってしまったよ」


 うわぁっ……。ごめんなさい!


 断る理由を見つけられないまま、なぜか私は、明日ゼフィー様と買い物に行く約束をしてしまったのだった。侯爵家の令息と、特売の野菜と肉を買いに……? カオスだ。


 ――――あと、笑えたんですね!


 ゼフィー様が笑った顔は、破壊力が強すぎた。

 急速にドキドキ高鳴ってきた心臓と、砂漠の太陽に照らされてしまったみたいに火照る頬のせいで、私は、うつむいたまま何もしゃべることが出来なくなってしまった。

 私たちは、伯爵家に着くまでお互い完全に無言のまま過ごした。


最後までご覧いただきありがとうございました。


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かわいいものが、書きたくなって、新作投稿しました。鬼騎士団長と乙女系カフェのちょっと訳あり平凡店員のファンタジーラブコメです。
☆新作☆ 鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
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