【コミカライズ配信開始記念S S】お菓子教室 1
コミカライズ記念SSです
後半は夜に投稿します
「え……クッキーが焼きたい……ですか?」
それは、再開されたお茶会でのゼフィー様の一言から始まった。
「毎日お弁当を作ってもらっているし、いつも君にご馳走になってばかりだからな」
「……」
お弁当を毎日作っているのは事実だけれど、夕食の残り物が入った父とお揃いの庶民的なお弁当だ。
毎回喜んで食べてくださっているようなので作っているけれど、お礼が欲しかったわけではないのだ。
ゼフィー様からは、ドレスやアクセサリーを贈られていてお礼をしなくてはならないのは、むしろ私のほうなのだ。
「クッキーくらい、いくらでも焼きますよ」
「……もちろんリアが作るクッキーは大好きだ」
ゼフィー様は、そう口にするとアイスブルーの目を細めて笑った。
最近、ゼフィー様は笑いかけてくれるようになった。
その笑顔は、いつもは冷たい印象の彼を可愛らしく変えてしまう。
ゼフィー様は、クッキーが好きだと言ったのに、まるで私が言われたかのように錯覚してしまった。
頬が熱を帯びていく。
「リアと一緒にいられる口実にしようと思ったのだが?」
「……わかりました。では、厨房に行きましょう」
没落してしまったが、フローリア伯爵家の厨房は、まあまあ立派な作りをしている。
使用人もいないから、いつだって自由に使える。
「どうなさいました?」
「……本当に?」
言い出したのはゼフィー様なのに……最近はグイグイと距離を詰めてきたかと思えば、急に遠慮がちになってしまう。
私たち二人の距離は、婚約者というには相変わらず遠い。
「ちょうど、明日の騎士団の公開訓練に持って行こうと思っていたので、材料は用意してあります」
「そうか……では、フローリア殿や部下たちの分は俺が作ろう」
ゼフィー様は、ランディルド侯爵家のお方でお料理なんてしたことがないだろう。
以前、歩いて買い物をしたことはあると言っていたけれど……流石にお料理したことはないはずだ。
「君は何か勘違いしているようだが」
その台詞、以前にも聞いたことがある気がします。
続く言葉は……。
「俺は騎士だ。手の込んだ料理は作ったことがないにしても、野営で料理することがある」
「……侯爵家のお方も、料理するのですか!?」
「生肉をそのまま食べるわけにもいくまい」
そんな話をしているうちに、厨房についた。
早速、ボールやら木べらやらを取り出して、調理台に並べる。
小麦粉に卵にバターにお砂糖にふくらし粉。
飾り付けにはドライフルーツを用意した。
「バニラの香りで良いですか?」
「そうだな……君の味が知りたい」
……ゼフィー様の言葉は破壊力がある。クッキーのことを言っているのに、甘く微笑むから私の頬は赤くなる一方だ。
決闘して婚約破棄を願い出たとき、もし受理されていたらこんな笑顔を見ることもなかっただろう。
こうしてお菓子作り教室は、幕を開けたのである。
みずき春先生によるコミカライズ
本日よりコミックシーモア先行配信です!
とても可愛らしく、ゼフィー様かっこよく描いていただいております。
8月21日まで一話無料公開中
ぜひご覧ください!




