表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/40

03 機嫌が悪い……あ、平常運転ですよね。



 昨日の出来事は、やっぱり夢だったのかもしれない。だって、今日もゼフィー様は、目を合わせてくれない。


「どうしてここに」


 機嫌が悪いことこの上ない、ゼフィー様。

 いや、昨日の思い出が邪魔をしているだけで、たぶん、これこそが平常運転だろう。

 そう、少しだけいろいろな表情を見たせいで、いつもの顔が機嫌悪いように見えてしまうだけ。


「――――ごめんなさい」


「……いや」


 髪の毛をかき上げて、首を振るゼフィー様。

 なんだか、困らせてしまったらしい。

 それもそうだろう。


 謝りたいと、勢い余って押しかけてしまったけれど、形だけの婚約者が、こんなところまで来たら困惑するよね。


 私は突っ走って、昨日に続けて今日もまた、失敗してしまったらしい。


「……ロードとは」


「え?」


「さっきの騎士だ。……知り合いか?」


「え、初対面ですけど」


 どうも、先ほどの騎士様はロード様というらしい。

 どうして、知り合いだと思ったのだろうか。

 長いため息が聞こえた。


「……だから、来てほしくなかったんだ」


 そんなにはっきりというほど、来てほしくなかったのですね⁈


「あぅ。――――ごめんなさい。あの、すぐ帰りますから」


 そもそも、ゼフィー様が、決闘で負けたことがないとしても、昨日のことは勝敗の数に入らないに違いない。

 ゼフィー様にとっては、遊びのような……。


「……送っていく」


「――――迷惑、でしたよね。大丈夫。一人で来たんですから、一人で帰れますよ? 何回か父にお弁当を届けに来たこともありますし」


 我がフローリア伯爵家は、本当に貧乏だ。

 今日私が着ている服だって、お古を繕って直している。刺繍で誤魔化しているだけだ。

 だから、父のお弁当も、毎日私が作っている。


「……いや、送らせてくれないか?」


「あ、あの。これ以上、ご迷惑かけたくないです」


 ちょっと泣きそうだから、勘弁してほしい。

 こんな風になってしまうから、早く婚約破棄してもらいたかったのに。


 私の手を掴んで、ゼフィー様が私の瞳を覗き込んでくる。


 ……なんて、きれい。遠い北の端で、神聖な水が凍ったみたいなその瞳の色。

 あまりに綺麗で、思わず目が離せなくなる。


 溜まりかけていた涙も、いつの間にか引っ込んでしまった。


「――――残った仕事だけ、片づけてしまうから」


 なぜか、ためらうように私の手を掴んだゼフィー様。連れて行かれた先は、ゼフィー様専用の部屋だった。

 さすが、侯爵家次男。上司であっても、貧乏伯爵家の父とは待遇が違う。


「そこに座っていて」


「はい……」


 机の上には、大量の書類が積み重ねられている。

 緊張しながら見つめている間に、その山がすごい勢いで処理されていく。


 ……すごい。ゼフィー様は、本当に有能なのね。


 侯爵家の力で騎士団に入ったなんて言う人もいるけれど、どうみても本人の実力だ。


 一度だけ、父のお弁当を届けた時、遠目に見たゼフィー様は、次々と訓練の相手を打倒していた。

 文武両道……。やっぱり私なんかじゃ、釣り合うはずもない。


 そんな姿を見ながら、急速な眠気に襲われる。

 そういえば、昨日のことが衝撃的すぎたから、一睡もできていなかった……。


 あとから考えたら、自分の後頭部を叩きたくなったけど、私は思わずそこで眠り込んでしまったのだった。

 

最後までご覧いただきありがとうございました。


『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かわいいものが、書きたくなって、新作投稿しました。鬼騎士団長と乙女系カフェのちょっと訳あり平凡店員のファンタジーラブコメです。
☆新作☆ 鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ