27 スピード結婚じゃないと思います。
いつもの空間、仲の良い友人。
そして、後ろの席には隠密騎士のシーク様。
最近すっかり、シーク様が私たちの後ろの席にいるのが当たり前になっている。守られているという安心感。感謝しかない。
「それで、スピード結婚することになったの?」
「スピードって……婚約してからもう、半年近く経つのよ?」
世間一般的には、半年の婚約期間を経て結婚する場合、スピード結婚とは言わないだろう。
「まあね。世間一般的にはそうかもしれないけど。最近まで、婚約破棄してもらうって息巻いていたことを考えると、私にとってはスピード結婚に他ならないわ」
「……その節は、お騒がせしました」
婚約破棄目当ての決闘騒ぎから、誘拐、そしてある意味スピード結婚。ここ最近は、穏やかだったこれまでの人生の対価を払っているのではないかというくらい目まぐるしかった。
そして、いつも相談相手になってくれたヘレナ。
「いいの。楽しませてもらっているから。……ところで、あなたの後ろの席にいつも陣取っている方。そろそろ紹介してもらえるかしら? 知り合いよね? というよりランディルド様の関係者よね」
「隠密騎士様を……紹介?」
プハッと、ヘレナがたまらず笑い出す。
「あはっ、隠密騎士様ってなに? 最近流行りの小説の読みすぎじゃないの?」
「えーと」
確かに、最近流行りの小説の中の隠密と影武者からイメージしているけれど。
ヘレナに隠し事はしたくないけれど、隠密として護衛任務中の方を、勝手に紹介するわけにもいかない。
困っていると、後ろの席にいたシーク様が徐に立ち上がり、ヘレナの席の横に立つ。
恭しく下げられた礼は、私服姿であっても完璧な騎士そのものだ。
この国では珍しい黒髪。光の加減で瑠璃色に見える黒い瞳。
ゼフィー様は、とてもカッコいいけれど、大人の雰囲気を持つシーク様のカッコ良さはベクトルが違う。
「ゼフィー様の守護騎士を務めております。シークと申します」
「あら、光栄ですわ。私は、ヘレナ・リアンと申します。どうぞお気軽にヘレナとお呼び下さいませ」
小さな、良くも悪くも庶民的なカフェの空気が、ヘレナの礼で一瞬にして華やかで高貴なものに変わる。
――――子どもの頃から、ヘレナの華やかさは、見る人全てを惹きつけた。
どうして今も、婚約者も恋人もいないのだろう。それだけが世紀の謎だと思う。
「ヘレナ様、では私のことはシークとお呼び下さい」
シーク様が微笑むと、周囲の席から感嘆のため息が漏れる。
黒い騎士服を着ている時もカッコいいけれど、私服姿のシーク様の微笑みは見ているだけで幸せになれそうだ。
そして、ヘレナに劣らずコミュ力が高い。
二人とも、どうして私なんかに付き合ってくれているのかと、本当に不思議な気持ちでいっぱいだ。
「それでは、任務中ですので」
「ええ、邪魔をして申し訳ありませんでした」
「いいえ。私の代わりにロードがリアスティア様の護衛任務に着いた時には、この席でご一緒させていただいても宜しいでしょうか?」
「あら、とても素敵だわ」
結局のところ、ロード様には婚約者がいたらしい。
確かに優しそうで、しかも将来有望な騎士。
婚約者がいないのもおかしな話だろう。
「ま、そんなものよね?」
ヘレナは、そんなことを言ってあっけらかんとしていたけれど。
でも、もしかすると、シーク様とヘレナの二人は意外といい組み合わせなのではないだろうか。
私は、少しのときめきとともに、ゼフィー様も一緒に四人でお茶会をしている想像をして頬を緩めた。
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