26 理由なんてない。だだ、大切なだけだから。
会場を後にしても、私の気分は高揚したままだった。
そもそも私は、あんなにたくさんの人が居る場所に行ったことがない。
行きつけのカフェだって、こじんまりとした父のおすすめの店だった。
もしかしたら、ロード様が言っていたように、私にはお母様のような加護があるのかもしれない。
「ゼフィー様……私のことを初めて見た時にどう思いましたか?」
「可愛いと思ったけど……。それよりも、俺の瞳を見ても笑顔のままだったことに驚いたかな」
ゼフィー様の言葉に、ホッとする。
もし、加護とやらの力でゼフィー様が私のことを好きになったのだとしたら、悲しすぎるもの。
「私の加護は……」
「ああ、フローリア殿に頼まれていたんだ。リアのことを周囲の視線から守って欲しいと」
「……そうなんですか?」
「加護を持っている者は、相手の加護の影響を受けないらしいから」
その瞬間、私は思わず泣いてしまった。
ゼフィー様が慌てたように私の肩を掴む。
「え? 泣かせるようなこと言ってしまった?!」
慌てている、そんな顔も大好きです。
「違うんです。もしも、私の傍にいてくれる理由が、私の持っている加護の力のせいだったら、どうしようと思っていたから」
そもそも、ゼフィー様の瞳に恐怖を感じないのが私だけなのだから、私はそばにいることを許されているのに、さらに自分の加護の力でゼフィー様の優しさを引き出していたとしたら。
――――ゼフィー様にふさわしくないのは分かっているけれど、そんなのあまりに悲しすぎる。
「――――リアは、勘違いしている」
「え?」
「確かに、幼い頃、はじめて俺の目を真っすぐに見てくれたのがリアだった。でも、騎士として交友の幅が広がっていけば、俺の目を真っすぐ見ることが出来る人間に出会わなかったわけじゃない」
そうなの……。加護を持った人はほかにもいるのかな?
「――――加護を持った人間は少ないけれど、騎士をしている人間の中には強い精神力で俺の加護なんて打ち消してしまう人間もいるし……。ほかにも魔法使いとか」
隠密騎士のシーク様もおそらくその一人なのだろう。
「そうなんですね……。じゃあ、どうして私なんかと婚約を」
その瞬間、唇を奪われた。
あまりに急だったから、目を瞑る暇もなくて、ただ、その長いまつ毛が目の前にあるのを見ているしかなかった。
唇はすぐに離れることもなく、何度もついばむように角度を変えて続けられる。
「ぷはっ……。ぜ、ゼフィー様?」
「私なんかって言わないで。俺の好きな人は、可愛くて、素直で、正義感が強くて……すごく大事なんだ」
「ゼフィー様?」
そんな風に思っていてくれたなんて信じられない。
「それを言うなら、俺なんて卑屈で、冷酷で、戦場ではたくさんの」
そう、ゼフィー様も私なんかって私がいう時に、こんな気持ちがしたのだろうか。
そっと、私から口づけを落とす。
もっと、自分のことを大事にしてほしい。
――――私も、あと少しだけ自信を持つから。
「わかりました。私なんてって、もう言いません。それに、私の好きな人は、カッコよくて、優しくて、ちょっと傷つきやすい……大事な存在なんです」
「リア……。あんまり俺のこと煽てたりしないで。君を守るという大義名分で、なんとかして自分だけのものにしたいという気持ちをいつも抑えるのに必死なんだから」
――――それもいいかもしれませんけど。
そんな風に思ってしまう私は、父に大事に守ってきてもらいすぎたせいか、少しおかしいのかもしれない。
「俺と結婚して」
「ゼフィー様?」
「そして、俺の屋敷で一緒に暮らそう……。少しでもそばにいたい」
そんな言葉とともに私の指に、そっとはめられたのは、氷をそのまま宝石にしたような石がはめられた指輪だった。
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