24 夢みたいな時間の終わりと一つの事実。
音楽が止まる。夢みたいな時間が終わりを告げる。
ゼフィー様が、私の手の甲に口づけを一つ落とした。
そして、熱を持った視線で私のことを見つめる。
「ほかの人間と、踊らないで」
「侯爵家の婚約者として、社交も必要なのでは……」
「たぶん、他の人間にとってはそれでは済まなくなる。周りの視線、見て」
会場を見回すと、なぜか会場中の視線が私たちに集まっていた。
ゼフィー様のことを注目するのはわかるけど、なんだろう私の方に向けられたこの視線は。
「……いくら貧乏だって言っても、社交に顔を出させないのは違和感があった。でも、今はフローリア殿の気持ちが良く分かる」
「……ゼフィー様?」
「俺と結婚しても、出来る限り夜会は避けよう。リアが危険すぎる」
「危険って……」
その時、ゼフィー様が陛下に呼び出されてしまった。
「く……。こんな時に。フローリア殿は……」
なぜか、父も壇上にいた。
でも、国王陛下のお声がけを避けるなんて不敬が許されるはずもない。
「私なら大丈夫です」
「――――ロードにそばにいるように頼んでいるから」
ゼフィー様が、合図をすると騎士のロード様が私にエスコートの手を差し出した。
「リアに何かあったら……」
「まじで、その目でにらむの勘弁してください。部隊の人間以外だと気を失いますよ?」
「大丈夫なので! 早く行ってきて下さい」
ゼフィー様と、父がともに壇上に上がり、陛下に恭しく礼をしている姿を会場の端で眺める。
ゼフィー様は、先日国境付近の偵察任務を終えて帰って来たばかり。
数々の武功から考えても、呼び出されるのは理解できる。
でも、なぜ父までが。
「あの勲章、フローリア隊長がつけておられるの初めて見ました」
「勲章に……なにかあるんですか?」
「あれ、ゼフィー殿と一緒に戦場で陛下を救った時に受け取った勲章ですよ」
あ、どこかで見たと思ったら、ゼフィー様が正装の時に真ん中につけている勲章と同じものだわ!
「……どうして、そんな栄誉を受けていて父はつけていなかったのでしょう」
「私にはわかりかねますが……。ところで、リアスティア様って加護持ちですよね」
「へ?」
加護? お母様や、ゼフィー様みたいな?
「そんなはず……」
「ほら、リアスティア様と踊りたいのに、フローリア隊長があの勲章をつけてきたのと、ランディルド副隊長がにらみを利かせているせいで、誰も近づけないでいる。もし、リアスティア様がお一人だったら、多数の男性に囲まれてしまっているでしょうね。俺だって、あの目に睨まれていなければ……」
「え?」
ロード様を見つめると、気まずそうに目を逸らされる。
なぜか、その頬が少し赤くなっている気がする。
「そんなに見つめられると、俺も訳が分からなくなってきますし、そもそもあの二人に睨まれると生きていけないんで……勘弁して下さい」
――――何が、訳が分からなくなるのかは分からなかったけれど、陛下からのお言葉が終わるや否や、駆け足でこちらに近づいてくる父とゼフィー様の姿が見えた。
過保護と思っていたのには、もしかしたら理由があるのかもしれない。
ゼフィー様の瞳が、私に微笑んだのを見て安堵のため息が自然と漏れていた。
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