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23 俺だけを見ていて。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 鏡の前に立っている人は、まるで私ではないみたいだった。

 結い上げられて、あえて残した髪の毛の束は、緩く巻かれて下がっている。


 淡い水色のドレスは、氷みたいなゼフィー様の瞳の色。


 ――――やりすぎじゃ、ないですか?


「あの……」


「これくらいでいいのです」


 まあ、マダムルーシーが言うのなら、そうなのかもしれないけれど。


「美しいですわ。まるで、ルナスティア様が目の前にいるみたいです」


「お母様が……」


「誰からも、愛される加護を持っていたルナスティア様は、社交界の薔薇と呼ばれていました」


「……そんなすごい人には、見えなかったのに」


 幼い頃、父と笑いあっていた母はいつも幸せそうだった。

 社交界の薔薇とか呼ばれているようには、見えなかった。


「屋敷の中で、自然に過ごすことが出来るのは、つまり幸せということです」


 それなら、父はやっぱりすごい人なのだろう。

 騎士の正装に身を包んだ父は、今日はいつもはつけない勲章をつけている。


「……あの、勲章持っていたんですね」


「ああ、この勲章は表に出さないつもりだったけど。リアに何かあったら困るから」


「……?」


 私に何かあることと、その勲章は何か関係があるのでしょうか。

 そして、その勲章……どこかで見たことがある気がします。


「その勲章……いつもつけていれば、爵位だけで隊長をしているなんて誰も言わないでしょうに」


「――――ああ、そうかもな。だけど、あの日、これのせいで彼女の元に駆け付けるのが遅れた」


 そう、父は母の死に目に会えなかった。

 しばらくの間、抜け殻みたいになった父は、それでも領地の復興のためにすぐにまた、騎士として働きながら私のことを育ててくれた。


 私にとっては、初めての夜会。

 その夜は、親族のエスコートを受けるのが習わしだ。

 ゼフィー様とは会場で待ち合わせしている。


「さあ、行こうか」


「今日のお父様、とても素敵です」


「そう……? じゃあ、姫のエスコートを頑張らないとな」


 お父様のエスコートは手慣れていた。

 それはそうだろう。何度もお母様と夜会に出かけていたのだから。

 あの日までは……。


「こうしていると、まるでルナスティアがそばにいるんじゃないかと、錯覚しそうだ」


「お母様と……? 私なんて薔薇ではなくてタンポポですよ」


「ふふ。でも、夜会に行ったら本当に一人にならないで。絶対に」


 どうして、こんなにも念を押すのだろうか。


「たくさんの人に囲まれると思うから、すぐにランディルド卿と合流しよう」


「えっ、どうして」


「返事」


「……はい」


 ゼフィー様は、馬車の手配までしてくれていた。

 父とともに乗り心地の良い馬車に揺られて王宮へ行く。


 そして夜会の会場に足を踏み入れる。


 その瞬間、驚くべきことに幾多の視線が私に向いた。


「え……?」


「はぁ。だから、連れて来たくなかったんだ。でも、リアスティア……。ランディルド卿とともにいるなら、この視線も避けて通ることができない。気を抜かないでくれ」


「え……?」


 たくさんの男性が私の元に集まってくる。

 そして、口々にダンスに誘ってくる。


「――――お父様。初めて来た令嬢が珍しいのでしょうか」


「ルナスティアもそういうところがあったけど、違うから」


 少し恐ろしくなって、父の腕に縋りつく。

 その時、集まっていた人の輪が急に左右に分かれた。


「――――待っていた。俺のリア」


「――――ゼフィー様!」


「じゃ、頼んだから」


 他の貴族たちにあいさつに行ってくると父は私から離れていく。


「フローリア殿の予想通りになったな……」


「え?」


「いや……。初めての夜会でともにダンスを踊る栄誉を与えて頂けますか?」


 優しい笑顔のゼフィー様に、会場からため息が聞こえてくる。

 きっと、この姿を見た人は、ゼフィー様が冷酷だなんて思わないだろう。


「ずっと、俺だけを見ていて」


「えっ……。ゼフィー様こそ」


「俺は、リアしか見れないし、見たくない」


 そのまま、滑らかなリードで踊り出す。

 ゼフィー様の瞳に、私だけが映っているように、私の瞳にもゼフィー様だけが映っているに違いない。


 周りのざわめきが消えていく。

 二人の時間は、穏やかなワルツの音楽とともに過ぎていった。



最後までご覧いただきありがとうございました。


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かわいいものが、書きたくなって、新作投稿しました。鬼騎士団長と乙女系カフェのちょっと訳あり平凡店員のファンタジーラブコメです。
☆新作☆ 鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
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