1.5 決闘を挑まれた。
第一話のゼフィー様sideストーリーです。
誰一人として、俺の目を見ながら話をすることができない。
それは、俺のことを愛してくれている母ですら。
だから、あの日も集まる親族と招かれた貴族たちの輪の中に入ることが出来ずに庭へ逃げ出していた。
「あの……」
そんな時、声をかけられた。
顔をあげると、そこにはまるで春の訪れみたいな色をした可愛らしい少女がいた。
初めてだった。目があったのに、笑顔を向けられたのは。
「迷ってしまって……。どうしたら、会場に戻れますか?」
潤んだ春に芽吹いた若草みたいな色の瞳が、真っすぐに俺の瞳を捕らえた。
「あの……?」
その瞳は、逸らされることもなく、恐怖を感じているようにも見られなかった。
「あ……。あっちに行けば、案内する人がいるから」
「ありがとう」
それしか言えなかった。
あまりに衝撃的だったから。
俺の瞳は、生まれた時から加護を宿していた。
その運命は、戦場では誰にも負けず、それ故に誰とも相いれない。
――――そんなの、加護じゃなく呪いだ。
そう思っていた。今もそう思っている。
加護の力か、勲章は増えていく。
冷酷騎士と呼ばれていることも知っている。
だれも、本当の俺を知らない。知られなくてもいい。そう思っていたのに。
凍り付いていた心に、春風が吹き込むのを感じた。
すべてが凍りそうになっていたのに、春の訪れた小川みたいに解けた氷が流れていく。
もう一度、その瞳に見つめられたい。
それだけが、俺の願いになった。
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そして、現在。
「ぜっ、ゼフィー様!」
「……なんだ」
「わっ、私と決闘してください」
婚約者に、なぜか決闘を挑まれた。
決闘で負けたこと……ないのだが。
「決闘? ……結婚じゃなくか?」
しまった、思わず願望が漏れ出した。
騎士にとっての決闘は神聖なものだ。
それを理解できないリアスティアでもないだろう。
――――やはり、無理に婚約させられたのが嫌だったのだろう。
婚約を断りたいということだろうか。
「意味が分かって言っているのか?」
「分かっています。だから、私が勝ったら言うことを聞いてもらいます」
「……本気か。――――わかった。俺に模擬剣が少しでも触れられたら、リアスティアの勝ちでいいか? 俺は全力で避けるだけに留める」
「結構です」
少しだけ、意外そうな顔をしたリアスティア。そこまで冷酷と思われているのだろうか。
誰にそう思われても良いけれど、リアスティアにだけはそう思われたくなかった。
でも、負けたくない。そばに……いて欲しい。
瞳の力なんて関係ない。
リアスティアを前にすると、上手くしゃべることができなかった。
いつも、笑っているリアスティアを見ていると幸せだった。
時々、こちらを見ても、あの時とは違ってすぐに目を逸らされてしまうけれど。
でも、なぜか俺が目を逸らすと、こちらを見つめているのが不思議だった。
それからは、つい目が合うとすぐに目を逸らしてしまうようになっていた。
リアスティアが不慣れな様子で模擬剣を構える。
そんな、不釣り合いな模擬剣を一生懸命構える姿すら愛らしい。
ずっと、見ていたい……。
その瞬間、なぜかリアスティアは、攻撃を仕掛けてすらないのに姿勢を崩した。
助けようと伸ばした腕が、初めて彼女の体に触れる。
温かくて、柔らかくて、愛しい。
――――離したくない。どんな手を使っても。
あまりにたくさんの情報にさらされたせいか、落ちてくる模擬剣を避けることもできず、俺の負けが確定した。
ご覧いただきありがとうございました。ゼフィー様sideでした。
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