21 言い出したのは私ですが。
口づけが離れたあと、「行きましょう!」と、手をつないでゼフィー様を無理に引っ張りながら、お義姉様と侯爵夫人のところへ行く。
二人は本当に驚いたように、目を見開いた後、扇子で顔を隠してその顔を背けた。
なるほど……。
「ごめんなさい。気を悪くしないで、リアスティア様。ゼフィーのことが嫌いなのではないの。でもこうしていないと一緒の部屋にいることができないから」
「――――分かっています」
父から聞いたことがある。
私の母は、誰からも愛される加護を持っていたと。
そして、そのせいでたくさん大変な事もあったのだと。
ゼフィー様を連れてきたのは、他でもない。
みんなで楽しく話をするためだ。
私は一つの仮定をしていた。
「ゼフィー様は、私の隣に座ってください」
「……いや、俺はやはり」
また、庭に出てしまいそうになるゼフィー様を、半ば無理やり席に座らせる。
隣というのがポイントだ。
「私のことだけ見ていてください」
「え……」
ゼフィー様の瞳に、私が映る。
その瞳に宿していた、冷たい氷が解けていく。
「このまま、おしゃべりしましょう?」
「この状況……。いや、俺は構わないけど」
私は、連日の寝不足で少しおかしくなっていたのかもしれない。
でも、あとから考えてもこれが最適解なのだと思わなくもない。
私は、どうするのが正しかったのだろう……。
結論として、侯爵夫人も、お義姉様もゼフィー様と楽しそうに会話に参加した。
その間中、私たちは見つめ合っていた。
世界中のだれが見ても、家族をそっちのけに見つめ合う、お互いしか見えない二人の完成だ。
「あの……。やっぱり」
「リアの提案を受け入れただけだ。確かに、これなら家族たちも、俺に恐怖を感じることはないみたいだな」
「確かに大成功ですが……」
「幸せだ」
「えっ」
お断りしようと思ったのに、そんなこと言われてしまったら……。
――――代わりにどんどん私が羞恥を感じ始めているのですが。
そろそろ、どこを見つめていいか分からなくなってきてしまいました。
「うう……」
「リアは、俺に見つめられるの……イヤ?」
「嫌じゃないですが」
私たちの様子を、チラチラと扇子の影から盗み見ている二人。
「わぁ……こんなに、ゼフィーが情熱的だったなんて知らなかったわ」
「そういえば、あの人もとても情熱的だったわ」
――――羞恥心をさらに煽るのやめて欲しいです。
髪の毛と同じブルーグレーのまつ毛が長いせいで、氷みたいな淡い色の瞳がより際立つこととか、薄い唇が時々弧を描くと芸術的に美しいこととか、その高い鼻筋が完璧すぎるバランスであることとか。
こうなる前から、美しい人だと思っていたけれど、その瞳に見つめられるたびに嫌われているように感じて目を逸らしてしまっていたから、こんなに長い時間見つめ続けることなんてなかった。
砂糖漬けの瓶の中に閉じ込められて、それを誰かが眺めているような、甘くて苦しい時間は、夕方になってようやく終わりを告げた。
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