19 実家に伺うことになりました。
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マダムルーシーの店を出たあと、「俺の家に来てほしい」と言われた。
いつもお茶会というと、私の屋敷に来ていただいていたのでランディルド侯爵家に行ったことはまだない。
そういえば、どうして貧乏伯爵家の私を婚約者に認めてくれたのか、まったく理由の見当がつかない。
ランディルド侯爵家は、代々騎士として王家に仕えている。
長男であるゼフィー様のお兄様は、騎士ではないと聞いているけれど……。
ゼフィー様のお父様は、戦場で陛下を守り命を落とした、お祖父様も戦場で命を散らした。
そのこともあって、今でもランディルド侯爵家の威光は揺るがない。
それに比べて、歴史だけは長いけれど貧乏で社交界にもほとんど顔を出さないフローリア伯爵家。お母様は、社交界の薔薇と呼ばれていたらしいけれど……。対する娘の私は道端のタンポポだ。
「私……」
「大丈夫だ。兄上はいないけれど、義姉上と母上がリアに会いたいと言っているんだ」
私は、自分の姿を見直してみた。
いつもの、お古のワンピースではない。ゼフィー様が用意して下さった、鮮やかな緑のドレス。
令嬢たちが、どうして競うように着飾るのか、少しだけその意味を理解できる気がする。
だって、少しでも着飾って隣に並んだ時に自信を持って立っていたいもの。
「わ……分かりました。何か、問題を起こしてしまったらごめんなさい」
「リアなら、きっとみんな気に入ってくれる。間違いないよ。むしろ、兄上がいなくてよかった」
その根拠は、どこにあるんですか……。
少し趣味が変わっているとか、周囲に言われていませんか? 物言いたげな私の瞳を見つめるその瞳。
「大丈夫。俺のこと、信じられない?」
「信じます」
「は。即答するとか……」
ゼフィー様のことをもし信じられないというのなら、きっと誰のことも信じられない。
それくらい、日々私の中で大きな存在になっていくゼフィー様。
「そういえば、女性向けのデザインだったから、ゼフィー様にお渡ししていなかったハンカチがまだあるんです」
私は、バッグの中に持っていた新品のハンカチを二枚取り出した。
渡そうかと最後まで悩んだけれど、ピンクや赤い薔薇のデザインを渡してゼフィー様に引かれたら困ると思って渡さなかったものだ。
「えっ、どれだけ作ったの? もしかして……寝ていないんじゃ?」
「寝てはいますよ」
明け方になってですが。
でも、あれだけの品物を用意してもらったら、職人魂に火がつくのも仕方がないと思います。
本当に、好きなことをしている時の時間の流れは早い。
「これ……。お母様とお姉さまに差し上げても……」
間違いなく、素材は一級品だ。
それに、私の刺繍は、貴族令嬢が使う小物の店に卸されていて、人気だと聞いている。
「……二人とも可愛らしいものが好きだから、きっと喜ぶだろう」
そっと私の髪の毛を撫でながら、そんなことをつぶやくゼフィー様。
それなら、レースも付ければよかった。
もし喜んでいただけたら、今度はレースや細いリボンで飾り付けてみよう。
「本当に可愛い……。家族だとしてもこれ以上、誰にも見せたくないな」
「あの……?」
「なんでもない」
ゼフィー様の言うことは、時々良く分からない。
それでも、馬車は私の緊張を他所に、動き出してしまうのだった。
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