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18 そんなに活躍していたなんて知りませんでした。



 ……何に完敗したんですか?


 ゼフィー様の、「完敗だ」の意味は分からなかったけれど、とにかくドレスというのは、着るのもプロに任せた方が良いことは理解できた。


 化粧だって、いつも口紅を少し塗るくらいだったけれど、ドレスを着るならドレスに合わせたメイクをする必要があるのだ。


 鏡の前には、令嬢として完全武装した私がいる。

 これなら、夜会に参加するための、勇気を持てそう。


「マダムルーシー、おっしゃることが良く分かりました」


 神妙な様子で、ゼフィー様が、マダムルーシーに告げる。そうです。本格的なドレスは、一人では、着られないのです。私にも今回のことで、それが、よく分かりました。


「まぁ、今まで夜会に令嬢をお連れするなどなかったお方ですもの。仕方がありませんわ。それにしても、どうしてこんなにも魅力的な令嬢が、今まで社交界での話題にならなかったのかしら?」


 私が社交界に出たとしても、壁の花になるのが関の山だと思うのだけど……。

 その答えは、貧乏のためドレスを買う余裕がなく、社交界に参加できなかったからです。

 父も、野心がないので、積極的に参加するように言われたこともなかったので。


「フローリア卿にも、一言言っておかなくては。恩人のお嬢さんのことを誰よりも美しい社交界の花にするくらい、いくらでもお手伝いしましたのに……」


「父が、マダムルーシーの恩人……ですか?」


 実現不可能なことを言い出すマダムルーシー。おそらくちょっとした冗談に違いない。

 それよりも、父のことを恩人と言ったほうが気になってしまう。


「――――あら、ご存じないのですか。たしかに、誰かに自分の手柄を話す方には見えないですものねぇ。フローリア卿は、たしかに華々しい武勇には秀でていないでしょうが、戦場での人命救助には積極的で、彼に命を救われた人間は多いのですよ。それに、とてつもなく腕が立つのです」


 うだつの上がらない、伯爵家の名前だけで騎士になった人だと思っていた。

 私は、心の中で父に謝る。そして、なんだかんだ言っても大好きな父のことが褒められてとてもうれしく思った。

 でも、とてつもなく腕が立つというのは、話が盛られすぎだと思う。


「頼りなさそうなのに、いざという時には行動力があるんですよ、フローリア殿は。名誉より人命を重んじるから、今の隊長という立場に甘んじておられますが、フローリア殿を慕う人間は多い」


「……あなただって、たくさんの人を救ってきたではないですか。ランディルド卿」


「……俺は、救うというよりむしろ。……勲章の数が多いということは、そういうことですから」


 なぜか、勲章を受けたことに嫌悪感をにじませるゼフィー様。

 きっと、戦場では辛いことが多かったに違いない。

 冷酷騎士なんて呼ばれながら、たぶん自分に与えられた役割をこなしてきたのだろう。

 私はもう、知ってしまったから。ゼフィー様が、とても優しいってことを。


「でも、マダムルーシー。戦場での行動力と、誰かを救おうとする時の無鉄砲さが、リアスティアにも受け継がれているようで」


「……そう。……守ってあげなさい」


「ええ、この命に代えても」


 ――――壮大な話になってきたみたいで、どうも話の流れに乗れていません。私が無鉄砲だと言っても、命がけで守るほどのことをそうそう起こさないですよ?


 まあ、たしかに先日攫われて、命がけで助けていただきましたが。


 ……それに。そんなの嫌だ。


「ゼフィー様、命に代えてなんて言わないでください」


 あんなに傷つきながら、助けに来てもらうなんて、心臓がいくつあっても足りなくなりそうだ。


「あらあら」


 マダムルーシーがなぜかうれしそうに微笑んで、その後、口元を扇子で隠しながら優雅に仰いだ。


「なんだか急に暑くなりましたわ。春がきたのかしら? まあ、今日の本題に入りましょうか。もちろん、リアスティア様に、護衛だけでなく侍女もご用意いただけると約束いただけるならですが」


「ああ、もちろんだ。リアスティアを社交の場に連れて行かなくてはならないことも多いだろう。俺に至らないことがあれば、これからも助言してもらえるだろうか」


「仕方ないですわね。そもそも、あなたの義姉様であるミリア様にも、いつも懇意にしていただいてます。しかも、恩人のお嬢様ですから、私にできる限りのことをさせていただきます」


 感謝しかない。母がいなくなって、フローリア伯爵家が底辺まで貧乏になってから、私の周りには年上の女性がいなかった。

 優し気に、私を見つめるマダムルーシーの眼差しは、どこか母に似ている気がした。


「夜会の当日は、私が直接伺います」


「ふぇ?」


 聞き間違いだろうか。マダムルーシーは、王侯貴族相手であっても、決して屋敷には出向かずに、店に来てもらうというので有名だったのでは。


「特別ですよ?」


 マダムルーシーは、そういうと私ににっこりと微笑みかけた。


 その後、私は体中のサイズを測られた。そのあと、焦げてしまいそうなほどに長時間、私を見つめたあと、マダムルーシーは、「閃いてきたわ!」と急に叫んで店の奥に走り去ってしまった。

 なんとなく疲れを感じながら、私たちはその背中を見送った後、店をあとにした。


最後までご覧いただきありがとうございました。


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かわいいものが、書きたくなって、新作投稿しました。鬼騎士団長と乙女系カフェのちょっと訳あり平凡店員のファンタジーラブコメです。
☆新作☆ 鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
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