14 なぜ毎日忘れるのですか?
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完成したハンカチを広げてみる。
合計15枚。毎日使っても、半月は違う柄が楽しめる。
「ふふふ」
連日の睡眠不足のせいか、少々私のテンションがおかしなことになっていたのは認める。
でも、そのせいであんな事になるなんて、誰が想像できただろうか。
「喜んでくれるかな」
今日は、暫くぶりに非番になったというゼフィー様とお会いできる日だ。待ち遠しすぎて、眠れなくなってしまったから明け方まで刺繍をして過ごしてしまった。
婚約者としてのお茶会は、「二人きりで向き合っていると、何を話していいかわからなくなるから」という、ゼフィー様の素直な申し出により廃止になった。言ってくれれば、良かったのに。
無駄に気を使って、お互い黙ったまま、窮屈な時間を過ごしてきてしまったようだ。
それに、忙しいゼフィー様が無理するのは避けたい。そう思っていたところ、国境がきな臭いという理由で、二週間も会えなくなってしまった。
「たぶん、今日会うのだって、相当無理してる気がする」
実際、父も忙しすぎて家にほとんど帰ってきていない。ロード様のこともお見かけしていない。
呼べば、隠密騎士シーク様は、すぐに現れるけれど。……ゼフィー様を手伝わなくて、良いのかしら。
一週間前、いつもならお茶会が開催されていた日、お弁当を忘れていった父のために、騎士団に出向いた時もゼフィー様は不在だった。
ゼフィー様と同僚騎士のロード様が、ここのところ、騎士団全体が休みなく働いているのだと教えてくれた。
ロード様は別れ際に「でも、リアスティア様が、来ていたと知ったら、訓練が過酷になるだろうなぁ」と、呟いていた。
――――なぜ、私と会えないことと訓練がつながるのかしら?
不思議に思いながら、父にお弁当を届けるついでに、たくさん焼いておいたクッキーも「皆さんでどうぞ」と、お渡ししておいた。
――――ゼフィー様も食べてくれたかしら?
あれからさらに一週間。なぜか最近、毎日お弁当を忘れかける父のため、玄関でお弁当を渡してあげるのが日課だ。
あまりに毎回忘れかけるので心配になってしまい、「お父様、こんなにお弁当を忘れるなんてお疲れなのですか?」と聞いてみた。
すると父は、額を押さえ本当に残念な人間を見るような目を私に向けたあと「本当に、人の心遣いを無碍にする。どうしてこんなふうに育ってしまったのか」と大袈裟にため息をついた。
そんなことはあったけれど、私は毎日平和に過ごしている。
「くっ!」
そして、そんなことを考えて現実逃避しながら、あまりに着るのが大変なドレスをなんとか自力で着る事に成功した。
背中の辺りで結ばなければいけないリボンが、どうしても斜めになってしまうけれど、もう直しようがないので諦めた。
……こんなにしっかりコルセットを締めるのも久しぶりだわ。自分で締めるのが難しいから、緩くしかつけていなかったもの。
私の瞳の色を少し鮮やかにしたような、グリーンのドレス。白い糸でレースのような模様が繊細に刺繍されている。散歩できるようにか、足首までの丈、広がった裾、高い踵の靴。
鏡でチェックする。遠目に見るくらいなら、おかしなところはないに違いない。……たぶん。
ちょうどその時、侯爵家の馬車が玄関に停まるのが見えた。ゼフィー様にやっと会えるのが嬉しくて、私は玄関まで急ぎ足で向かうのだった。
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