10 氷が溶けてしまったみたいに。
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次に目が覚めたのは、あまりの寒さのせいだった。床が冷たくて、思わず身震いしようとするのに、ぐるぐる巻きなされているせいで、それすら、ままならない。
「さむっ」
目を開けると、窓ガラスに霜が降りていた。
というより、カチカチに凍りついている。
……えっ、初夏なのに?
異常気象だろうか。こんな冷え込むなんて尋常じゃない。
その時、先程の男性がひどく慌てた様子で飛び込んできた。そして、私のことを肩に抱え上げる。
ちょっと、まるで人のことを物みたいに!
文句を言ってしまいたくなったけれど、置かれている状況を鑑みて口をつぐむ。
建物は地下だったのか、階段を登って外に出るとやはり初夏の日差し。
建物の外は、太陽が高く昇っている。あまりの温度差に、一度だけ身震いした。
「……バケモノ」
男の目線の先に、一体何がいるのか。後ろ向きに担ぎ上げられた私には見えないけれど。
「きゃっ!」
乱暴に地面に転がされ、首元に何か冷たい金属を突きつけられた。
地面と睨めっこするようになっていたけれど、ここまできてようやく、この男性の目線の先に誰がいるのか察する。
「ゼフィー様……?」
返事はない。ただ、まるで、凍りついた瞳のような色をした冷たい魔力が辺りを包む。
「この女の命が」
ーーーー三文芝居!
そう思ってしまった私は、悪くないと思う。
緊張感には欠けていたかもしれないけれど。
「ぐあっ」
首元に突き付けられていた金属が、急に鋭利さを失い、ひどく冷たくなって、その後地面に転がっていく。
男性が、私の隣に倒れ込んだような気配がした。
今度は、地面に霜柱が立ち始めた。
なんとかして、ゼフィー様の姿を見ようとするのに、あまりにも頑丈に全身を巻かれすぎて、芋虫みたいに這いつくばったまま動けない。
ここは泣きながら再会を喜ぶ、ロマンチックな場面じゃないのだろうか?
「……リア」
ようやく抱き上げられて、ゼフィー様の顔が見えた。
「っ……ゼフィー様」
……何やってるんですか。ボロボロじゃないですか。
ゼフィー様は、傷だらけだった。美しい顔にも血が滲んでいるし、騎士として大事な腕も、肩も、滴るほど血が滲んでいた。
ゼフィー様の他には、誰もいない。ゼフィー様に付き従っているはずの、護衛騎士すら。
単身で乗り込んできて、無茶をしてここまでたどり着いただろうことは誰が見ても明らかだった。
「無事……?」
「ゼフィー様こそ、あまりご無事ではないような」
「これくらい戦いに出ればいつものことだから、平気だ」
泣きそうな顔をして私を見つめる瞳。
どうしてですか。何でそんな顔するんです。
「……ごめん。巻き込んで」
ーーーー私が甘かったんです。だから、泣かないで。
「……ごめん。ちゃんと諦めるから」
ーーーー何を諦めるんですか。どうして、ゼフィー様の方が、諦める話になっているんですか。
「婚約も、破棄する」
ーーーーそんな泣きそうな顔で、言わないでください。
「…………とりあえず、このロープ外してくれませんか?」
なぜ、私のことをここまでして助けてくれるのか、いまだにわからないけれど。たった一つだけ分かることがある。
それは、なぜかゼフィー様が、泣きそうだってこと。
ロープは剣で切られると、バラバラと解けていった。
ようやく自由になった私の両手。
「ゼフィー様……」
私は、ゼフィー様を抱きしめた。
今はただ、いつもの冷たい氷が溶けてしまったかのように、今にも泣きそうなこの人のことを、一人にしたくなかった。
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