最終話
「砲撃用意、一番砲は敵防壁に! その着弾を確認し防壁が崩壊した事を確認後、三番砲は敵防壁の穴を拡大させるように撃て! 二番砲は少し待て!」
ルイスが大声で指示する。
その隣にはタライトンが並び立っている。
「敵防壁に一番砲放て!」
ベガが命じ、ドスンというような腹に響く轟音と共に発射された大砲。
巻き上がる土煙と響き渡る兵士の悲鳴。
砲撃を喰らった王都の防壁。
ぽっかり空いたその穴の横に、三番砲の砲撃が放たれ、穴は大きくなる。
そして防壁の穴ではなく、防壁の上へ目掛けて放たれた、二番砲の砲撃。
二番砲の玉はただの鉄球ではなかった。
金属破片を火薬と混ぜ込み、布を覆い被せた特殊な弾だ。
発射された時の火薬の火が、導火線モドキに着火し、発射された後で空中で爆発するようになっている。
上空から物凄い速さで飛び散る金属片は、兵士達の肉体を切り裂いたり貫通したりする。
殺す事が目的ではなく、負傷させる事が目的の弾である。
もちろん当たりどころが悪ければ死ぬのだが。
「一番、三番、炸裂弾に変更せよ!」
ルイスの指示が飛び、
「変更終了!」
と返ってくると、
「では、全砲いっせいに放てっ!」
その声と共に、三つの大筒から炸裂弾が飛ぶ。
防壁の向こうから叫び声が聞こえる。
「空いた穴から見るかぎり敵兵、あらかた負傷し地面に伏せっております!」
その報告に、
「騎兵! 穴から王都内に突入! 敵指揮官を討て! 歩兵は無傷の敵兵の無力化を!」
そう言ったルイスは、
「私も出るぞ! タライトン! ベガッ! ついて来い!」
「はっ!」
「任せろ!」
二人はルイスに続く。
赤い斧を振り回すルイス。
向かってくるイスディニア王国兵を、次々と倒していく。
その両脇でもタライトンとベガが、無双している。
その時、
「ルイスッ! 一騎討ちを所望する」
と防壁の上から声がした。
ルイスが見上げると、そこにはリベアランスの姿がある。
「ほう? お年を考えたほうがよろしいのでは?」
「まだ貴様には負けん!」
「いいでしょう。お相手しますが国軍は下げて下さいよ? そのための一騎討ちでしょう?」
「ああ、無駄に兵士を散らせるのは本望では無いからな」
そうしてリベアランスが防壁から降りて来て、両軍が見守る中ルイスとリベアランスの戦いが始まった。
リベアランスは、さすがというべきだろうか、初老の体に鞭を打ちルイスに向かって剣を振る。
武闘派の名は伊達ではなかった。
だが、それでも体力の衰えに逆らうことは出来なかった。
リベアランスの剣を斧で弾き、ひたすら防衛に回っていたルイス。
ルイスよりリベアランスが疲れているのは、見守る兵士には一目瞭然であり、わずかな隙を見つけたルイスは、
「御覚悟!」
そう言って斧を振った渾身の一撃により、リベアランス伯爵の首と胴体は永遠の別れを告げるのだった。
「リベアランス伯爵、討ち取ったりぃ!」
リベアランスの首を掲げたルイスが叫ぶ。
「オオオオオオッ!!」
反乱軍の雄叫びが響いた。
国軍が道を開ける中、ゆっくり王城に向かうルイス達反乱軍。
轟音と共に、イスディニア王城に放たれる鉄の玉に、崩壊していくイスディニア王城。
その城を取り囲む反乱軍は、逃げ出す者達を取り押さえていく。
そして、
「いたぞ! チェリオット王だ! 生きてるぞ!」
「生かして捕らえろ!」
ルイスが叫ぶ。
「閣下の前に連れていけっ!」
その声に少し遅れてチェリオット王が、引きずられるようにして、ルイスの前に連れてこられた。
「ルイスッ! 貴様よくもっ!」
と、ルイスを睨むチェリオット王。
「お久しぶりですな陛下。私を殺す命令、どうもありがとうございました」
そう言ったルイスに、
「リベアランスは殺したと……」
「上手く騙せたんですよ。しっかり生きてますがねぇ。さて陛下にご提案です。自害されるならチェスの名は後世まで変更しない事をお約束します。されないならばチェスの名は変更させていただきます。ご返答を」
と問いかけたルイス。
「わ、ワシを殺すのか?」
「自害されないのならね。私を殺せと命じたんですから、私に殺される覚悟があったんですよね?無いとは言わせませんよ?やり返される覚悟の無い王など必要無いのでね」
ルイスの言葉に沈黙の時間が数分。
「……短剣を貸してくれるか?」
チェリオット王が、声を絞り出す。
「いいでしょう。ベガ、陛下に短剣を」
ルイスがそう言い、ベガが自分の短剣をチェリオット王に手渡す。
「一つ良いか? 10年前、私を討つ気はあったか?」
と尋ねたチェリオット王に、
「1ミリも有りませんでしたよ。私はのんびり暮らしたかっただけなので。私が騎士だったときのままなら、戦に協力しつつ楽しく過ごせていたんですけど。百歩譲って領地を与えた事までは許せますけど、殺されそうになったのは流石にね」
「私の猜疑心のツケがこの結果か……チェスの名の件、信じて良いな?」
「神に誓って!」
「さらばルイス!」
そう言い、自分の喉に短剣を突き刺したチェリオット王は、永遠の眠りについた。
「さようなら陛下」
地面に倒れたチェリオット王の亡骸に、ルイスは静かに声をかけてからその場を去る。
ルイスの反乱のおり、すぐにルイス側に着いたヴィオラ男爵がバイオリンを奏でる中、厳かに行われた戴冠式。
新生イスディニア王国の始まりである。
式典を邪魔する貴族はこの場に居ない。
唯一邪魔をしそうだったミューラーは、すでに先の争いでルイスの手により、頭から真っ二つにされていた。
その後、ルイスとタライトン新王による会談があり、
「本当に良いのか?」
と聞いたタライトン王に、
「良いんだよ。タライトンには王家の血が流れている。この国を率いていくのはタライトンしか居ないんだから。それにもう戴冠式も済ませたんだぞ?」
「だが……」
「タライトン、俺はのんびりと暮らしたいんだよ」
「好きな事だけをやってか?」
「ああ」
「ならば生活費は私が保証しよう。まあ私がそんな事しなくても稼ぐとは思うが。なあ友よ?」
「親友よ、俺は法衣の貴族ぐらいでいいからな?」
「領地は要らないのか?」
「あ! 俺が従士だった頃に住んでた山があるんだ。あそこだけ頂戴」
「欲のない事だな」
ルイスはディトロナクス領も返還し、ウィンストン辺境伯領にある、懐かしい山の周辺を貰い受け、そこで家臣達と暮らす事にした。
ルイス・アリストテレス・ディトロナクス大公。
この名は、ルイスの息子エイスとタライトンの娘が結婚した時、ルイスは大公となったのだが、大陸でその地位を不動のものとしたイスディニア王国史には、創生と破壊の大公として、かなり詳しく記される事になった。
ルイスが79歳でこの世を去る時、ディトロナクス大公家の資産は王家より多いと言われるくらいの大金持ちであったが、ルイスはサラと息子や孫達と山小屋での生活を止めることはなかった。
ルイスの指示により作られた数々の品物は、イスディニア王国の発展と防衛に多大なる貢献をし、今もイスディニア王国にルイスの名と共にある。
完
いかがだったでしょうか?
少し暗めのエンディングでした。
さて新作投下しますので、よろしくお願いします。
毒の牙〜最弱だけど最凶の思考で最強に至る〜
https://ncode.syosetu.com/n2640he/
というタイトルになります。




