ルイス動く
ディトロナクス辺境伯領軍は、何故か王都ではなくイスディニア王国南側に進軍。
ウィンストン辺境伯領軍と向かい合ったとき、ディトロナクス辺境伯領軍の先頭に立つルイスを見たウィンストン辺境伯は、ルイス達に一矢も向けることなく白旗を上げたという。
一方、リベアランス伯爵率いるイスディニア王国軍と、激しい戦闘を展開していたタライトン。
国軍から投げ込まれた大量樽を見て、即座にとある器械を作動させた。
人力の巨大扇風機である。
ハムスターの回し車のような物の中で人が走ることにより、大きなハネが五枚取り付けられた扇風機より風が吹き出す。
それにより炭の粉が自軍に流れ込み、火矢を撃ち込め無いことを悟ったリベアランス。
「ちっ!反乱軍めがっ!」
リベアランスがそう歯噛みした時、
「後方より敵影! ディトロナクスの旗が!」
と兵士が叫ぶ。
「何っ⁉︎ そんなバカなっ! ウィンストン領に向かっていたはずだろう!」
「そのウィンストン辺境伯家の旗も一緒に有ります!」
「裏切ったのか⁉︎」
思いがけない挟撃に、かなりの痛手を受けたリベアランス伯爵は王都の防壁の中に撤退し、籠城することになる。
そうして王都の防壁の上から、ディトロナクス辺境伯軍を見下ろしていたリベアランスに、
「やあ! お久しぶりですなぁリベアランス伯爵」
そう言ったのはルイス。
その横にはサラの兄であるケビンの顔もある。
「ルイスッ⁉︎」
思わず声を漏らしたリベアランス。
「ええ、ルイスですよ。今の名はルイス・アリストテレス・ディトロナクスと申しますがね。10年前にお世話になったお礼に来ましたよ。あの時はショックだったなぁ。まあ腹の中に鉄板と血袋を仕込んでいたので、痛くはありませんでしたけどね。首を斬りつけられなくて本当に良かった。しかし暗殺されそうになるとは、俺って本当にツイてないなぁ」
リベアランスに、生きている種明かしをしたルイス。
「あの時の企みを事前に知っていたのか。ウィンストンに聞いたのか?」
「いえ、タライトンにですね。タライトンはお二人の会話をテントの外で聞いていたらしいですよ。ダメですなぁ。内緒話は周りを確認出来る所でしないと。それにあの会食の時、義父は本当に何も言いませんでしたよ。先日本人から聞きましたけど、本当に私を殺す事を受諾していたそうです。今頃まだ天国で私に謝罪してるかもしれませんね」
「殺したのか……」
「いえ、自害されましたよ。私の顔を見て洗いざらい話した後、スグにね……貴方はどうされます?」
「私が死んだとて、陛下に刃を向けるのを止める訳では無いだろう?」
「貴方が私を殺すよう、チェリオット王に進言した事は調査で知っていますが、最終的に命令したのはチェリオット王でしょう? 止める理由は有りませんね」
「では私はお前の命を今度こそ断ち切ろう!」
「承知しました。ではまた! あ、もう会えませんね。貴方は死ぬから」
「死ぬのはお前の方だ」
「かも知れませんね」
ルイスは肩をすくめてそう言った。




