暗殺
バッドエンドが好きな方は、ここで止まる方が良いかもしれません。
この後は全て考えてありますので、突っ走ります。
とあるテントの中にいる二人の男。
「ルイスと“ 最後 ”の食事をしてもいいか?」
「ああ、それくらいは許されると思うが、くれぐれも勘ぐられるなよ?」
「すまない」
「悪く思わないでくれよ。アレは王家すら殲滅出来る兵器だ。あんなものを作り出せる者を生かしておくわけにはいかないんだ」
「分かっている……」
そんな会話があった。
ルイスはその夜、ウィンストン中将と酒を酌み交わしていた。
所謂、戦勝の宴である。
たった二人でだが。
どこか表情の乏しい義父に、
「体調が悪いのですか?」
と聞いてみたが、
「疲れているだけだよ」
との返事に、
「じゃあ今日はこの辺にしておきますか。続きは国に帰ってからにしましょう!」
「ああ、そうだな。国に帰ってから……な」
そうして、ウィンストン中将のテントから、ルイスは自分のテントに戻るのだった。
その日の深夜、ルイスの眠るテントに忍び込む人影が二つあった。
「私がやる」
「いや、仮にも君の息子だから私がやる。陛下にも私がトドメを指せと命じられているからな」
そうして眠るルイスの腹に、リベアランス中将がナイフを突き立てる。
「うっ!」
声を漏らしたルイス。
ルイスの上にかけられていたシーツが、徐々に赤く染まっていく。
その様子を見つめていたウィンストン中将。
「すまんルイス……」
そう言うウィンストンの頬に涙が流れる。
「犯人役の捕虜を逃すのは私がやっておくから、君はその捕虜を殺したまえ。それで娘に多少の言い訳ができよう」
リベアランス中将が、ウィンストン中将の心を思いやってか、そう提案した。
「頼む……」
短いウィンストン中将の言葉は、消えそうなほど小さかった。
「誰かっ! 誰か居ないかっ! ディトロナクス少佐がっ!」
深夜に響く大声に、イスディニア王国軍が混乱する。
ルイスの亡骸に覆い被さるようにして泣く、タライトン。
「タライトン中尉、少佐を埋葬したいのだが」
と言ったウィンストン中将に、
「少佐は誰にも触らせません! こんな所に埋葬するなどもっての外です! 私が馬車で直接領地までお届けする!」
そう言って、急造の棺にルイスを納め、ルイスの棺からテコでも離れないタライトン中尉。
タライトン中尉の馬車に、そっと積み込まれるルイスの棺。
急ぎ戻ったディトロナクス領にて、ルイスの棺はサラに託され、怒りに狂うサラは父親を殴りながら罵倒した。
それを無言で受け入れ、殴られるままのウィンストン。
受け入れるしかないのだ。娘のサラを未亡人にしたのは直接手を下したのはリベアランスだったとしても、自分も同罪なのだから。
その後王都に戻り、ことの顛末をチェリオット王に報告するリベアランスとウィンストン。
「そうか。とりあえずディトロナクス家は妻のサラの手に委ねる事にして、他の貴族や兵士達の手前、一応の褒美としてアズマッシュからぶん取った領地の運営を、半分ほどディトロナクス家に任せるとするか。おそらく失敗するだろうから、運営に失敗した後はリベアランス家とウィンストン家の手の者に託すことを約束する」
チェリオット王が、そう言った。
全てはチェリオット王の指示どおりである。
リベアランス伯爵の報告により、ルイスの開発した大筒を危険だと判断したからだ。
アズマッシュの城を簡単に破壊した兵器を、イスディニアの城にルイスが向けないという保証は無い。
今は関係が良好だが、将来も良好とは限らない。
『後顧の憂いは絶っておくに限る』
そう進言されたチェリオット王は、即断していた。
ルイスを国に戻る途中、リベアランスの手によりウィンストンの目の前で、その命を断ち、敵の伏兵により殺された事にするという作戦であったのだ。
捕虜となっていた、生き残ったアズマッシュ国王子をワザと逃がし、ルイスを暗殺した犯人としてウィンストンが討ち取るという事に変更になりはしたが。
そうして、ルイス・ウィンストン・ディトロナクスという名は、イスディニア王国史の中で幕を閉じるのであった。
バッドエンドが嫌いな方は、このまま次の更新をお待ちあれ。




