タライトン
一話の内容とリンクてしるのはこの話までです
その人物が言った、『赤い斧』とは2年前の戦争で、ルイスことディトロナクス少佐の戦果からついた二つ名である。
「その小っ恥ずかしい名で呼ぶなよ、タライトン中尉。それに逃げろと言ったはずだが?」
ルイスが、タライトン中尉の眼を見つめて言うと、
「敬礼はしましたが承諾はしていませんからね。それに一人ぐらい、少佐のお供であの世についていっても、陛下は怒らないでしょう?」
と、微笑みながら言うタライトン中尉。
「お前には、俺の後釜に収まって欲しかったし、お前のお父上には、無事に返すと言っちまったんだけどなぁ?」
タライトン中尉を睨みながら、ルイスが言うのだが、
「私には、ディトロナクス少佐のような真似は出来ませんし、戦争なんですから絶対はありませんよ?」
「お前は侯爵家の跡取りだし、こんなとこで死んでよい人材ではないのだがな」
「戦争なんですから、死ぬ時はどこに居ても死にますよ」
「お前は俺より強いだろうに」
「それ、練習の時だけでしょう?」
「いまさら逃げろとも言えんか。物好きめ。まあいい、やれるだけやってみるぞ……」
ルイスがそう言うと、
「お供しますよ」
どこまでもねとタライトン中尉が、小さな声で続けたのだが、ルイスには聞こえていない。
何故タライトン中尉が、それほどまでにルイスに付き添うのか、ルイスには理解出来ないだろう。
タライトン中尉は孤独だった。
侯爵家の息子として生まれ、周りに居るのは父親の部下や使用人達ばかり。
子供の自分に敬語で受け答えし、理不尽なワガママを言っても周りはそれを叱りもしない。
同年代の少年少女達ですら、タライトンに媚びを売る者たちばかりだった。
それが突如現れたルイスだけは、一つ年下の自分を、友人のような気楽な感じで接してくれ、ワガママを言ってみると、それはダメだと諫めてくれたし、冗談を言えば、肩を叩きながら一緒に笑ってくれたのだ。
孤独なタライトンの心を満たしてくれた、初めての友人とでもいうべき存在。
ルイスはタライトンにとってかけがえのない存在になっていた。
だから出兵義務はまだ無いのに、わざわざ出兵を志願してまで戦地に赴き、ルイスの横に立っていたかった。
「何で俺は戦場に立ってるのかなぁ。ほんとツイてないなぁ」
そうボヤくルイスを見つめるタライトンの瞳には、自身の運命をこの男に託すという決意すら見えるほどであった。




