新兵器
この回が一話です
生き残ったアズマッシュ兵士達に、さらに追い討ちをかけるように、凄まじい轟音と共に飛んできた小さな鉄の球体。
新兵器の『鉄玉筒』である。
ルイスは以前断念していた、黒色火薬の製造に成功したのだ。
鉄製の管に、黒色火薬を詰めて前から玉を籠め、後の穴から火を付けて発射する、火縄銃にも及ばないような簡素な、銃とも言えないようなモノだが、それでも弓矢より飛距離があり、殺傷能力も充分だ。
出し惜しみせず使い切った火薬と玉。
それに比例するように倒れていくアズマッシュ兵。
その場から逃げる事が出来たアズマッシュ兵士は、およそ400人程度。
「逃げる敵を殲滅するぞ!皆のもの続けっ!」
ルイスが叫び、馬を走らせる。
ルイス達が使った新兵器に恐れをなし、ひたすら逃げるアズマッシュ兵士の背中に、無情にもイスディニア兵士が放った矢が刺さっていく。
逃げきれないと悟った者が、踵を返してルイス達に槍を向けるが、窮鼠猫を噛むような事はなく、呆気なく討ち取られていく。
そうしてその一団を殲滅したルイス達を嘲笑うかのように、赤い布地に三角のマークの入った旗を掲げた一団が迫ってきた。
「ちっ! パロウのやつ、あの3000人の兵士を使い捨ててこっちの兵器を使わせやがったのかっ!」
ルイスが悔しそうに声を上げる。
「どうしますかぁ?」
タライトン中尉が聞くと、
「とりあえず戻る! 撤退して崖まで戻れ!」
そう言ったルイスに、
「ディトロナクス少佐! 敵が突っ込んできましたぁ!」
部下の兵士が報告する。
ルイスが馬上から、
「何? 仕方ないか。よし! 作戦通り罠を仕掛けた予定地に誘導しろっ!」
そう声を張り上げて命令するルイス。
「了解であります!」
兵士が敬礼して去っていく。
予定地とは、渓谷を抜ける街道の一番広い場所。
罠作戦とは、その広い場所が切り立った崖に面しているので、崖の上から大きな石を落としたり、弓矢にて攻撃して敵を倒すという作戦である。
ルイスが新兵器を使い切った時のための、予備の作戦であった。
その頃、イスディニア王国主力軍は、旧テレス領の草原でアズマッシュ国軍からの攻めに、防衛戦を繰り広げているまっ最中である。
そして今、ルイスから預けられた大量の樽を、敵軍に投石器にて投げ込んでいる最中だ。
「炭の粉で敵兵が見えなくなったな」
リベアランス中将がそう言うと、
「うむ。ではルイスの言っていた頃合いだろう。火矢をっ!」
ウィンストン中将が命令した。
「放てっ!」
と復唱した副官の声により放たれた火矢。
耳をつん裂くような音と共に、炎と煙が拡散した。
「ああ……なんだよアレ……」
リベアランス中将の顔は、今目の前で見た光景を信じられないといった様相である。
「ルイス……お前、なんてモノ作ったんだ、これは戦争ではないぞ……虐殺だ……」
ウィンストン中将は、義理の息子であるルイスの考えた兵器に驚き、背中を汗で濡らす。




