戦再び
そうして各地で準備が行われつつ、二年という月日はあっという間に過ぎていった。
「明日で期限が切れる。国境を越えた所にアズマッシュ兵が集結しているのも確認済みだ。いよいよ来るぞ」
ルイスは駐屯地で割り当てられたテントの中で、自分が受け持つ部隊の主だった指揮官達を集めて、最後の会議を終え、自分の寝るテントに向かいつつ、隣を歩くベガに言うと、
「はい。こちらも用意は全て終えてあります」
補佐役兼副官であるベガが、ルイスの隣でそう言う。
「今更だが、なんでこんな地に封じられたんだろうなぁ。ツイてないぜ本当に」
「領地を拝領出来たと、普通なら喜ぶところですけどね」
「戦争が無ければ多少は喜ぶかもしれんが、俺は気楽に生きたかったんだよなぁ。従士の頃ぐらいが丁度良かったのに。ウィンストン閣下の庇護の下で、やれる事は沢山有ったのになぁ」
「今更言っても始まりませんよ?」
「分かってるよ。やれる事をやるだけさ。色々作って準備もしたことだしな。応援に来てくれた軍のほうは?」
「そちらも問題無いようです」
「ならば、明日の開戦に備えて、今夜は早く寝るとするか」
自分のテントの前で、ベガと別れる。
ちなみにすぐ隣にベガのテントがあるのだが。
国境は山の尾根となっており、どこから越えて来るのかは、だいたい予想できる。
おそらく前回と同じ場所である。
というか、そこしか無いのだ。
そのいくつかに見張りを置き、どこから来ても対応できるように、軍を配置していたルイス。
その軍を配置した場所よりもさらに後に砦がある。
ルイスは、領民達に被害を出さないようにしたかった。
特に女子供に。
そうして戦はアズマッシュ国の兵士達が、早朝に国境を越えたことにより、口火を切った。
国境地帯各地で小規模な戦闘が起こる中、大規模な戦闘が予想されるのは、ルイスが任じられた領地でもある、旧テレス領の草原のある場所だ。
重要な戦地であるため各地から応援が来ており、その中にはリベアランス伯爵率いる国軍や、義父であるウィンストン辺境伯やその領軍の姿もある。
リベアランス伯爵は中将に任じられており、同じく中将に任じられ、応援に来ているウィンストン辺境伯と共に、草原での大規模な戦闘主軸となる。
なのでその指揮を二人の中将に任せ、ルイスは自軍を率いて山間部にて、陽動兼敵の別働隊を殲滅する任務に従事する事にした。
つまり前回と同じである。まあ、ヴィオラ男爵は居ないが。
ちなみに戦の指揮に難ありとされた貴族の当主達は、参戦義務は免除されていない。
後方での物資輸送隊など、前線以外に配置されている。
物資の輸送だからといって、絶対に命の危険が無いわけでは無いが、戦線を混乱させる事は少ないだろう。
だが、手柄をたてるチャンスも無いので、陞爵などはあり得ないポジションである。
ヴィオラ男爵などは、諸手を挙げて喜んで補給部隊の指揮官に志願したが、ミューラー男爵にとっては、子爵に返り咲くのは絶望的である。




