ミドルネーム
そうして行われた、人質による停戦交渉が功を奏する。
両国の間に、2年間の不可侵条約が結ばれる。
まあ、2年後にはまた戦になるかもしれないが、次は準備できる。
アズマッシュ国に占領された村や町は、イスディニア王国に返上されたが、食糧は奪われた後だし、死者は大量に居るし、領主が殺された領地はあるしで、イスディニア王国にとって大打撃であった。
実質の敗北と言っても間違いではないだろう。そんな事はこの国建国以来初である。
パロウの身代金だけでは、カバー出来ないくらいの打撃であるので、復興するのに国や貴族は色々動かねばならない。
この危機をどう乗り切るか、王は判断しなくてはならなくなる。
とりあえず帰路に着くルイス達だったが、各貴族に王城への出頭命令がすぐに来る事になった。
それに先立ち、主だった上級貴族が王に呼ばれ、話し合いが行われた。
議題は、暴走した貴族への罰と、手柄を立てた者への褒賞と、空いた領地を誰に任せるかだ。
「主だった戦果を上げた者は以上か?」
チェリオット王が、静かにそう言うと、
「ですな。しかし参りましたな。想像以上に奪われました。食糧も、人の命も……」
「アズマッシュと国境を接する領地に、何か対策を打たねばなりませんな」
と上級貴族達が難しい顔をする。
「何か良い案はないのか?」
王の問いかけに、
「新しい案が思い浮かびそうな者に、領地を任せては? アリスト子爵領など、あちこち空いたでしょう?」
と提案した宰相。
「浮かびそうな者に心当たりがあるか? ワシには一人しか思い浮かばんが」
「奇遇ですな。私も一人思い浮かびます」
と宰相が言った時、
「ウチの娘の嫁ぎ先ですか?」
ウィンストン辺境伯が王に尋ねる。
「他に居るか?」
「居ませんね……」
「今回、騎士で活躍した者と共に、ルイスにはアズマッシュ国との国境地域で、更なる貢献をして貰う事にする。いいな?」
ウィンストン辺境伯を見つめて王が言う。
「御意」
と返すしかなかったウィンストン辺境伯。
そんな会議から数日後、全貴族出席の下、褒賞式典が開催される。
騎士から男爵になった者や、法衣貴族から領地持ち貴族に変わった者達。
その中にルイスの姿もある。
「ルイス・ウィンストン・ディトロナクス男爵、前へ」
「は!」
「ルイス・ウィンストン・ディトロナクスを、子爵に任命する。旧アリスト子爵領と、旧テレス男爵領を領地として与え、より一層の貢献を期待する」
「謹んでお受け致します。国のためにより一層努力致します」
イスディニア王国の南にあったウィンストン辺境伯領から、西側にある領地に移動する、ルイス・ウィンストン・アリストテレス・ディトロナクス子爵。
領地持ちになり、旧アリスト領とテレス領が、ディトロナクス領となるのだが、領地の名が浸透するであろう1年後まで、ミドルネームが一つ増える事になったルイスであった。




