提案
「何? ディトロナクス男爵が、パロウに勝つだけでなく、パロウ本人を人質にした?」
アズマッシュ国軍と大規模な戦闘に突入していた、イステリア草原に届いた報は、イスディニア王国の兵士達の士気を上げるために使われたのだが、効果は薄かった。
何故なら、とある貴族がディトロナクスなどに負けてられるかと暴走したため、指揮官であるヘンドリック・イスディニア王太子の指揮を聞かず突撃して大敗。
そこから戦線が崩壊したからだ。
とある貴族の名は、ミューラー子爵。
戦争が終われば処罰されそうなのを察知し、戦果を上げて帳消しを目論んだのだが、空回りした。
ジリ貧のイスディニア王国軍。
パロウの身柄をイステリア草原に移送したルイスは、戦闘の指揮を担っていた、ヘンドリック・イスディニア王太子に、パロウを使って停戦に持ち込む事を提案する。
「ディトロナクスよ、よくパロウを捕らえてくれた。しかし王子ではなく王女だったとは、予想外であったな。王女一人で停戦にまで持ち込めるのか?」
ヘンドリック王太子は、移送されてきた縄で後ろ手に縛られている美女、赤い槍と呼ばれたパロウを見て、驚きを隠せないながらも、疑問を口にした。
「まあ、無視される可能性はありますけども」
と言いながら、パロウことパトリシアをベガに指示して、この場から別のところに移動させるルイス。
「一旦は停戦したとしても、王女を返せばまたすぐに攻めてくるだろう?」
「すぐに攻めて来れないように、パロウに身代金を目一杯吹っかけて、とても戦争どころじゃ無いようにするというのはどうでしょう? 戦争ってお金かかるでしょう?」
「武器や食糧、戦死者の家族達への慰問金など、かなりの金額になる」
「アズマッシュは食糧が無いから攻めてきたわけですから、短期決戦のつもりで大部隊で押し寄せたんでしょうけど、この地から追い出して、またここに戻ってくるまでの食糧すらおぼつかないでしょう。食糧を切り詰めて戻ってきたとしても、兵士達は飢えていてまともに戦など出来ないでしょうから、勝てますよ」
「そう上手くいくかい?」
「アズマッシュ兵が完全に国に戻るまでは、パロウを返さないと言えば良いかと。まあ、パロウを見捨てるようであれば、それをアズマッシュ国内に言いふらしてやりましょう。アズマッシュの民達に、アズマッシュ王は我が子すら見殺しにするんだから、国民の事もすぐに切り捨てると、噂を流せば国内は混乱して、とても戦争など出来なくなるかと」
「うーむ、一理あるような気もするが」
「ダメなら、その時また戦闘に突入すれば良いだけですよ」
「それもそうか。そもそも停戦を受け入れるかどうかも分からんしな。やるだけやってみるか」
ヘンドリック王太子が、そう決めたのだった。




